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こんな気だるく暑い日に、プロトンはゆっくりと走ることを選んだ。スタート直後になんの抵抗もなくホセビセンテ・トリビオ(アンダルシア)とアイトール・ガルドス(カハルラル)を先に行かせると、まるでパレード走行がずっと続いているかのように、後方でのんびりとスペイン最後の日々を楽しんだ。マドリードまであと3ステージ。体の疲れも程よくたまっている。
小さなチームの2人組はあっという間に10分以上ものリードを許された。もちろんスタートから35km地点で、チーム アルゴス・シマノとロット・ベリソル チーム、そしてレディオシャック・ニッサンが集団先方に並び出した。土井雪広(チーム アルゴス・シマノ)もいつものように、いつものポジションに場所をとった。集団コントロールは急がず、焦らず。いわゆるサイクリングモードで走り続けた。
「今日は静かな1日だった。2人の飛び出しがすぐに決まったおかげで、ストレスもほとんどなかったね。風が向かい風だったのも幸いだった」(アルベルト・コンタドール、チーム サクソバンク・ティンコフバンク)
そもそもサクソバンクは、1度小さなアタックが起こったとき、すぐさま対応に走って集団に蓋をしたのだ。最後の決戦を翌日に控えて、今日はもう少しだけ静かに走りたい……とのコンタドールの願いは叶えられた。また激しい一瞬の通り雨も、選手たちの眠気まなこをぱっちり開かせることはできなかった。それでも、くるくるとペダルを回しているうちに、いつの間にかプロトンは2選手に追いついた。ゴール前28km。この時ばかりはトリビオとガルドスのちょっとした抵抗が見られたが、大騒ぎもなく吸収は完了した。
吸収と同時に、突然、プロトンが覚醒する。レディオシャックが下りで一気にアクセルを全開し、上りではモヴィスター チームが猛烈に踏み始めた。あまりに急なスピード変化のせいで、いまだ半分まぶたが上がっていない選手たちが、後方へと置き去りにされたほど。さらにゴール前12km、集団前方で突如として飛び出した3人……。なんとアレハンドロ・バルベルデ(モヴィスター チーム)とホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)、そしてロバート・ヘーシンク(ラボバンク サイクリングチーム)がアタックを仕掛けたのだ!
サクソのアシスト陣を大いに慌てさせたこの攻撃は、実のところ、あくまで中間スプリントのためだった。前者2人は26秒差で総合2位の座を争い、もちろん1分52秒差と2分28秒差で総合首位コンタドールを追いかけていた。3人目のヘーシンクは、やはり26秒差で総合トップ5入りを狙っていた。そしてバルベルデが3人のスプリントを制して、ボーナスタイム6秒を獲得。4秒を手にした総合3位のプリトとの差を、さらに28秒差に突き放した。またヘーシンクは2秒を懐に入れ、総合5位ダニエル・モレーノ(カチューシャ チーム)へ24秒差に近づいた。
このトリオがおとなしく集団へと戻ると、今度はエゴイツ・ガルシアエチェギベル(コフィディス ルクレディアンリーニュ)がチャンスを試しに行く番だった。ユネスコの世界遺産、セゴビアの水道橋を横目に見ながら、さらに5選手が後を追いかけた。ラスト2kmの上りでガルシアエチェギベルをとらえると、特に「上れるスプリンター」ジョン・デゲンコルブ(チーム アルゴス・シマノ)が、自らライバルの抜け駆けを潰しに動いた。「まだ若いから冷静になれなくて、本能的に動いちゃったんだよね」とチーム監督が苦笑いさせられたほどだった。ニコラス・ロッシュ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)の渾身のアタックにさえ、区間5勝目を狙う貪欲な若者は、飛びついた。
しかし本物の脅威が、背後からデゲンコルブを唐突に抜き差っていった。上れるスプリンターではなく、真のパンチャーが上りで違いを見せた。ぴったり背中に張り付いてきたもう1人のスプリンター、スカイ プロサイクリングのベン・スウィフトも、力づくで引き剥がした。フィリップ・ジルベール(BMCレーシングチーム)が、勾配4.5%の坂道フィニッシュで王になった。
「まさにボクの大好きなタイプのファイナルだった。チームメートのアレッサンドロ・バッランがあれだけ働いてくれたんだから、ボクは負けるわけには行かなかった。とにかくパワー全開で行った。決してパニックにも陥らなかった。最後の加速に移る前に、理想的な状況を作り出せていたんだ」(フィリップ・ジルベール)
2011年9月14日以来どうしても勝てなかったジルベールだが、今大会第9ステージで347日ぶりとなる嬉しい勝利を上げてから、わずか12日。完全復活を示す今大会2勝目は、また、来るべき世界選手権への調整が順調に進んでいることを意味する。
「ボクにとって、ブエルタは最高の調整の舞台となった。ボクは世界選手権に向けて、正しい道を歩んでいると感じている。もちろん、まだ最高潮には達していない。でも現時点での仕上がり具合はパーフェクトだ」(フィリップ・ジルベール)
また区間2位にはバルベルデが飛び込み、ボーナスタイム8秒も獲得。3位と4位にはモレーノとロドリゲスが続いた。コンタドールは3秒遅れでゴール。総合タイム差は2位バルベルデが1分35秒、3位ロドリゲス2分21秒と、ほんの少しだけ縮まった。せっかく2秒縮めたヘーシンクは、モレーノに3秒+ボーナスタイム4秒返された。ただし最終山岳ステージ、ボラ・デル・ムンドが生み出す違いを考えたら、こんな数秒など気に病むべきではないのかもしれない。
「明日はハードな戦いとなるだろう。バルベルデとロドリゲスにとっては、最後のチャンスだ。とくにカチューシャはプリトを勝たせるためにあらゆる手を尽くすだろう。ボーナスタイムも獲りに行くはずだ。ボクはただ、何が起こってもいいように、気を引き締めていくだけ」(アルベルト・コンタドール)
「総合優勝はもはや絶望的だ。でも総合2位ならまだ狙える。バルベルデを追い落とすために走る」(ホアキン・ロドリゲス)
「タフな1日となるだろう。しかし最後の戦いだ。何も変わらないかもしれないし、表彰台のすべての位置が変わっていまう可能性だってある」(アレハンドロ・バルベルデ)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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