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グランツール最終日特有の嬉しいような、ほっとしたような、それでいてちょっと寂しいような雰囲気が漂っていた。3週間前にパンプローナを出発した198選手は、たくさんの山や激坂を越えるうちに、175選手にまで数を減らしていた。スペインの青い空の下で、プロトンは最後のステージへと走り出した。
のんびりとしたパレード走行はまた、アルベルト・コンタドール(チーム サクソバンク・ティンコフバンク)の復活凱旋パレードでもあった。サクソのチームメートと共に美しき隊列を組み、栄光のマイヨ・ロホ姿でマドリードへの街へと先頭で滑り込んでいく。2010年ツールと2011年ジロの総合タイトルを剥奪され、謹慎処分を下されたチャンピオンは、ひどく苦しみながらも……失ったタイトル数をこれで1つ戻した(ジロ1、ツール2、ブエルタ2)。
「今回の勝利は、いつもとは違った。だからなおのこと味わい深いんだ。あのフエンテ・デの山頂で抱いた気持ちは、ボクのキャリアの中でも、これ以上ないほどの感動だった。今日はマドリードを満喫したいね」(アルベルト・コンタドール)
もう1人、特別な思いを抱いてマドリードに戻ってきた選手がいる。フランス人のダヴィド・モンクティエ(コフィディス ルクレディアンリーニュ)だ。2008年〜2011年まで4年連続で山岳賞を独占してきたヒルクライマーは、この2012年、手ぶらのままスペインを立ち去る。「ツールでの下りでの落車・リタイアから、精神的に立ち直ることができなかった。怖くて、下りで体が動かなくなってしまったんだよ。もう限界だったんだ」と、モンクティエのプロ入り以来、16年間変わらず側で支え続けてきたドゥルイユ監督は寂しそうに語った。37歳の大ベテランにとって、これが正真正銘現役最後の日。プロトンから少しだけ前に飛び出すと、キャリア最後の5年間を輝かせてくれたブエルタとスペインのファンたちに、大きく手を振って別れを告げた。
こうして10回のうちの1回目のゴールライン通過を終えると、いよいよ、最後の華やかなアタック合戦へと移行した。アンダルシアのハビエル・チャコンとセルヒオ・カラスコの強烈な引きに導かれて、セルゲイ・ラグティン(ヴァカンソレイユ・DCM プロサイクリングチーム)、ケヴィン・シールドラーエルス(アスタナ プロチーム)、ミケル・アスタルロサ(エウスカルテル・エウスカディ)、ハビエル・アラメンディア(カハルラル)が飛び出した。この21日間のエスケープやアタックを幾度となく彩った6人は、スペイン首都の目抜き通りでも魅せてくれた。
ただし後方プロトンでは、白と薄黄緑がイメージカラーのチーム アルゴス・シマノが、やはり3週間に渡って幾度となく繰り返してきたように隊列を組み上げた。ここまで4度、スプリントエースのジョン・デゲンコルブを成功に導いている。ならば同じやり方で、大会で最も威厳のあるスプリント勝利を手に入れたい。ひときわ大きな野望へ向けて、チーム一丸となって突き進んだ。背と腹に真っ赤な日の丸を抱く土井雪広も、トレインの先頭となって、最後の仕事に取り掛かった。
少しだけ普段と違ったのは、アレハンドロ・バルベルデとモヴィスター チームの仲間たちが、アルゴスのお株を奪い去るような強烈な牽引を仕掛けたこと。総合2位のバルベルデは、白いジャージを着てはいたものの、これは実はホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)のお下がり。前ステージ終了時点では、総合3位のプリトが緑色のポイント賞ジャージと白い複合賞ジャージの両方を有していた。つまり単にジャージ優先順位に従って、プリトが緑、複合賞2位のバルベルデが白を着ていたのだ。このバルベルデはお下がりではなく、本物の副賞ジャージが欲しかったようだ。ポイント賞なら単純に、わずか4pt差を逆転するだけでいい。そしてポイント賞を手にすれば、総合+ポイント+山岳の順位合計で争われる複合賞もついてくる……。
こうしてアルゴスとモヴィスター、そして最終盤にはスカイ プロサイクリングも追走態勢に加わったせいで、6人の最後の望みは泡と消えた。最終周回突入の直前に吸収を完了させたプロトンは、おなじみのシベレス広場へと向かって最後のスプリントを切った!
「この3週間、チームとボクは強く団結してきた。山ではチーム全員が苦しんだけれど、このマドリードの最終ステージのことを常に考えていた。今日のステージに100パーセント集中し続けたんだ。ラスト500mになっても、ボクの前には2人のチームメートがいた。そしてゴール前200mでボクに道をあけてくれた。ボクはエネルギー全開で突っ込んだよ。エリア・ヴィヴィアーニを振り払うだけの十分な力も残っていた。ボクは強かった。本当に満足しているよ」(ジョン・デゲンコルブ)
23歳のデゲンコルブに5度目の勝利をもたらしたチームメートやチームスタッフは、ゴール後に、興奮したように互いの成功をたたえあった。国旗をはためかせながら人生2度目のブエルタを走り終えた土井雪広は、力強いガッツポーズ。「チームの歴史を作った」と、土井もデゲンコルブも、誇らしそうに同じセリフを口にした。
ポイント収集に向けてスプリントを切ったバルベルデは、見事に6位でゴール。10ptを手に入れ、ポイント賞総計では6pt差で念願の逆転首位に立った。つまりロドリゲスは1年前に続いて、マドリードのフィニッシュラインで緑のジャージを失ってしまったことになる。さらに複合賞でも両者は8ptで並んだ(バルベルデ総合2位+ポイント1位+山岳5位=8、ロドリゲス総合3位+ポイント2位+山岳3位=8)。「同ポイントで数選手が並んだ場合は、総合順位が上位の選手に賞が与えられる」という大会ルールに則って、白いジャージもバルベルデに手渡された。
プリトにとって1年前と違うのは、手ぶらで帰らざるを得なかった去年に対して、幸いにも今年は総合3位のトロフィーを手に入れたこと。コンタドール、バルベルデというスペインの友たちと、共に最終日の表彰台に上れたこと。そう、2004年以来8年ぶりに、スペイン勢によるブエルタ総合トップ3が達成された。実際のところは本日の区間勝者(デゲンコルブ)と山岳賞(サイモン・クラーク、オリカ グリーンエッジ)以外は、チーム総合首位(モヴィスター チーム)も区間敢闘賞(コンタドール)もスペインカラーの一色に染まっている。
そしてブエルタ一行は、いつものとおり、慌しくマドリードから散って行った。すでにほとんどの選手たちの頭の中は、オランダのファルケンブルフの坂道のことでいっぱいのはずだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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