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わずか3日目にして、戦いに火がついた。中級山岳ステージで、まずはライバルたちの小手調べ……なんていうまどろっこしい段階は素っ飛ばされた。前日のチームタイムトライアルでタイム差のばらけたビッグライダーたちが、早々と自己主張を始めてしまったのだ!
スタート直後に飛び出したマヌエーレ・ボアーロ、ウイリアム・ワウテルス、ファビオ・タボッレ、ハリンソン・パンタソ、ベルト・デバッケル、ディルク・ベレマケルス、ジャクソン・ロドリゲスの7選手は、最大7分程度のリードをつけ、風光明媚なアマルフィの海岸を逃げ続けた。後方で手綱を握ったのは、オメガファルマ・クイックステップ。前夜までピンクジャージを肩にはおり、この日は赤ジャージに着替えたマーク・カヴェンディッシュを支えようと、チームメートは仕事に精を出した。
ただし、ステージ後半に聳え立つ2つの峠は、どうやらカヴには難しすぎた。いや、なにより、マリア・ローザ大本命たちが本気で動き出してしまったものだから、ほぼ全ての「平坦組」が喘ぎ苦しんだ。……マリア・ローザを身にまとうサルヴァトーレ・プッチォさえ、無残に置きざりにされてしまったほどだった。
前を行く7人からは、最初の難関を下り終えた直後のゴール前55km、タボッレが単独で飛び出した。後方とのタイム差はいまだ4分半残っていたが、メイン集団の前を引く顔ぶれは、がらりと変わった。アスタナ プロチーム、ブランコプロサイクリングチーム、さらにはプッチォ、もといブラドレー・ウィギンス擁するスカイプロサイクリング。淡々とリズムを刻んではいたけれど、ビッグチームたちの脅威は確実に迫っていた。
その淡々としたリズムを、最初に壊したのはカチューシャだったのかもしれない。ルーカ・パオリーニが下りですでに1度アタックを企てていた。しかし、本格的に大砲がぶっ放されたのは、ゴール前30km。3人のガーミン・シャープが、突然ペダルをがむしゃらに漕ぎはじめ、集団を引き千切りにかかったのだ!
得意なはずのチームTTで、まさかの25秒遅れという失態を犯したチームは、リベンジに燃えていた。若きTT巧者ラムナス・ナヴァルダスカスと、グランツールでトップ10入り4度の経験を持つトム・ダニエルソンが、ディフェンディングチャンピオンのライダー・ヘシェダルを引き連れて猛烈と前方へ突進した。ほんの数キロ前で、スカイがアシスト2人を解放――千切れたのではなく、翌日以降のための体力温存策だと、各方面では分析している――したのを、見逃さなかった。
その攻撃的精神は、たとえナヴァルダスカスがカーブでミスを犯して引き下がっても、ついに1人で飛び出したヘシェダルが結局は集団に吸収されても、決して衰えることはなかった。ゴール前17kmの下り坂で、ヴァレリオ・アニョーリが下りアタックを仕掛けると、またしてもヘシェダルは飛び出した。ほんの2週間前のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでは、チームメートのために大いに働いたが、この日はひたすら、自分のめだった。
「絶好の機会だと思ったからなんだ。残念ながら、そのチャンスはつかみ取れなかったけど。この先も、あらゆる機会で、トライしていく」
1年前は「守備的に勝った」と非難され、イタリアからまるで愛されなかったカナダ人は、今年はいの一番にジロを盛り上げた。パオリーニも合流し、しばらくはアニョーリと3人で先を突っ走ったヘシェダルだが、ヘアピンカーブが無限に続く九十九折の下り坂で、ライバルたちに捕獲されていった。
ただ、決して望んではいないやり方で、ミケーレ・スカルポーニだけは大きく退けた。眩暈がするような急カーブで、2011年ジロ覇者は、自転車を壊すほど激しく地面に転がり落ちた。アシストは周囲に1人もいなかった。危険な下り坂では、チームカーどころかニュートラルサービスさえもすぐには駆けつけてくれなかった。最終的にはメイン集団から44秒ものタイムを失うことになる。2人を後方に下げた(と言われている)ウィギンスには、幸いにも事故はなく、そもそもいまだ2人のアシストが抜かりなく身辺護衛を務めていた。
ヘシェダルがつかめなかった絶好機だが、パオリーニはがっちりと両手でつかみとった。この春、凍えるような大気の中でヘット・ニュースブラッドを制し、いわゆる「平地系」クラシックを転戦してきたイタリア人が――起伏の激しいジロ・デ・ロンバルディアで4位に入った経験はあるが――、グランツールオールラウンダーたちの登坂にしがみつき、そして下りで全てを解放した。
「まさにクラシックレースを走っているつもりで走ったんだ。全てが思い通りにいった。最後の上りはすごくきつかった。なにしろリズムが極めて速かったからね。でも、全力を搾り出した。それから、最高のダウンヒルができた」
36歳の大ベテランながら、ジロ出場は生まれて初めて(ツールとブエルタはそれぞれ3回出場)という珍しい経歴の持ち主は、初めてのチャンスを勝利へ結びつけた。マリア・ローザさえもかっさらった。今や伝説的チームともなったマペイから13年前にプロ入りしたパオリーニは、そのマペイの養成所で叩き込まれた選手哲学「頭・心・脚」を武器にして。
「今日勝てたら、マリア・ローザを取れることは分かっていたんだ。だからフィニッシュラインを越える瞬間を、心から満喫したよ。このジャージをパパに捧げたい。実は今日、父は簡単な手術を受ける予定になってたから、『勝つよ』って約束してたんだ」
パオリーニが喜びを爆発させた16秒後には、凄まじいスピードで小集団がフィニッシュラインへと雪崩れ込んだ。2位と3位に与えられるボーナスタイムを巡って、多くの総合ライダーがスプリントへと打って出た。前日チームTTで37秒を失ったカデル・エヴァンスが、2位に滑り込んで12秒を取り戻し、果敢なる賭けを成功させられなかった埋め合わせとして、ヘシェダルが3位8秒を手に入れた。
スカイはわずか1日でマリア・ローザを失ったけれど、結局のところウィギンスは総合2位のままで、あらゆる総合ライバルの上位に立っている。ニバリとの差は14秒で動かず。ヘシェダルとの差は17秒に、エヴァンスとの差は25秒に縮まり、スカルポーニとの差は1分5秒に広がった。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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