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サイクル ロードレース コラム 2013年5月11日

ジロ・デ・イタリア2013 第7ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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「たったの」1分24秒なのか、それとも1分24秒「も」なのか。ブラドレー・ウィギンスが、雨のペスカーラで総合ライバルたちから軒並みタイムを失った。……マリア・ローザのチャンスも失ったのだろうか。その答えは、翌第8ステージの長距離個人タイムトライアルで、明らかになるはずだ。

果てしなく起伏が続く177kmへと向かって、6人がステージ序盤に飛び出した。エマヌエーレ・セッラ、マーティン・チャリンギ、イオアニス・タモウリディス、ドミニク・ロラン、ピム・リヒハルト、そしてアダム・ハンセンは、最大7分半ほどのリードを奪って、アブルッツォの丘陵地帯を急ぎ続けた。

はるか背後のプロトン内では、ヴィーニファンティーニ・セッレイタリアが、ほぼチーム全員で集団制御にあたっていた。理由は明らか。ジロ直前に、アブルッツォに本拠地を置く企業アックア・エ・サポーネが、同チームに出資を行ったからだ。ゴール地のペスカーラ郊外で生まれ育ったダニーロ・ディルーカが、自らの契約と同時に、サブスポンサーとして連れてきた。しかも昨年限りで惜しくも解散したアックア・エ・サポーネのチームリーダー、ステファノ・ガルゼッリも、今ではヴィーニファンティーニのジャージを身にまとっている。蛍光イエローチームにとって、特にディルーカにとって、この日は勝つべきステージだった。

一方で総合を争う大多数の選手たちは、55kmのタイムトライアルを控えて、「ウィギンスからタイムを少しでも稼いでおきたかった」(ヴィンチェンツォ・ニーバリ)に違いない。もちろん、他方のスカイプロサイクリングは「できる限り危険を避け、リーダーを守り、タイムを失わないこと」(リゴベルト・ウラン)というのが、大切な目標だった。

様々な陣営の計算は、細くうねったアップダウンを重ねるうちに、徐々にかき乱されていく。残り70kmから猛烈に加速を始めたヴィーニファンティーニは、それでもラスト40kmで2分にまでタイム差を縮めた。ところが3級峠キエティ・ピエトログロッサで、ついに先頭2人になったセッラとハンセンは、想像以上に粘り強かった。しかも、降り始めた雨が、追う足を大きく鈍らせた。

じっとりとアスファルトに絡みついた雨は、2008年ジロ山岳賞の足をも引っ張った。ゴール前29km地点、下りカーブでセッラが大きく横滑り。すぐに走り出し、ハンセンに追いつくも、おそらく体力を大幅に削ってしまった。ゴール前20kmの3級峠サンタ・マリア・ディ・クリプティスで、逃げの友の刻むリズムに、突如としてついていけなくなった。

「スプリント牽引役」として是非にと請われ、アンドレ・グライペルと一緒にHTCコロンビアからロットへと移籍した31歳(ちなみにこの翌日が32歳の誕生日!)は、軽々と上りをこなしていった。昨年3つのグランツールを全て完走したタフガイは、ゴールまでの20km、まるで疲れを知らぬように力強く走り続けた。なにより2004年に「世界で一番厳しい」と噂のクロコダイル・トロフィーを勝ち取っている元MTBライダーは、漠やら岩山、泥沼の中を駆け回った経験のおかげで、イタリアの濡れた路面にヒヤリとさせられることは1度もなかった。

「今日は逃げ向きのステージだと思っていた。朝からモチベーションが高かったんだ。そのために頭も剃ってきたんだよ。差が7分に開いたときに、チャンスがあるぞと思った。でもタイム差が縮まってきて、やはりダメか……とも考えたけどね。セッラが脱落して驚いたし、集団に吸収されると思っていた。フィニッシュラインを越えたときの感動はとてつもなかったね。キャリアで一番美しい勝利だよ。最高の誕生日プレゼントになった!」

ハンセンの歓喜のゴールから1分07秒後。小さな集団内で、ディルーカは必死にスプリントを切った。結局は3位でステージを終え、区間勝利への今大会2度目の挑戦は、またしても失敗に終わった。それでもディルーカが仕掛けた大きなアタックが、総合勢を大きく刺激したことは間違いない。ゴール前21km、「キラー」の作り出した動きに、ニーバリやミケーレ・スカルポーニが乗った。ライダー・ヘシェダルは猛烈に追いかけた。ところが、そこにウィギンスの姿がなかったのだ!

一旦はなんとかライバルたちを捕らえ、スカイ軍団は混乱収拾に努めた。しかし激しさを増していく雨の中で、ゴール前10km、ニーバリが得意の下りアタックを仕掛ける。もはや、反乱の波を止めることなど、不可能になっていた。

「まさか転ぶとは思わなかったけどね」と、猛スピードでダウンヒル中に、ニーバリはカーブを曲がり損ねた。「でも雨も、濡れた路面も、ボクは得意だから」というシシリアっ子は、すぐに自転車に飛び乗ると、さらに勇敢に加速を続けた。2人のアシストに引かれて、必死に追いかけていたウィギンスも、ゴール前6kmのカーブで滑って転んだ(同じところでセッラも転んでいた!)。雨のベルギーで生まれ、雨のロンドンで育った2012年ツール覇者は、……ただ若かりし頃は室内トラックを主戦場としてきたエリートルーラーは、途端にペダルが漕げなくなってしまった。その間にもニーバリや、元MTBチャンピオンのヘシェダルやカデル・エヴァンスは前を突き進み、さらにはスカルポーニのためにランプレ・メリダは隊列で加速を仕掛け、どんどんウィギンスから離れて行った。

「ブラドレーは危険を冒したくなかっただけなんだよ。それに滑っただけで、体のどこも痛めていない。ただ、冷静さを取り戻すための、時間が必要だったんだね。今日はタイムを失った。でも状況を分析して、結論を出すのは、明日のタイムトライアルの後だ。グランツールというのは、いつだっていい日もあれば、悪い日もあるものさ。今日は間違いなく悪い日だし、失敗だったともいえる。しかし、破滅的状況という訳でもない」

スカイのゼネラルマネージャー、デイヴ・ブレイルスフォードは、こんな風に最悪の1日を総括した。総合のライバルたち、つまりニーバリ、ヘシェダル、スカルポーニ、エヴァンス、ロバート・ヘーシンク、サムエル・サンチェス等々はみんな仲良く、ハンセンから1分07秒遅れの集団=ウィギンスから1分24秒早い集団でゴールした。総合ではニーバリの2位を筆頭に、やはり仲良くタイム差1分以内でひしめき合っている。そしてマリア・ローザは、ルーカ・パオリーニから、ベナト・インサウスティの手に渡った。

「チームタイムトライアルで好成績を出して以来、チームはこのジャージを目標に走ってきた。ついに目標を達成することができて本当に嬉しい。ジャージを守りたいとは思うけど、でもタイムトライアルのスペシャリストたちが相手では、おそらく、簡単ではないだろうなぁ」

タイムトライアルの五輪金メダリスト、ウィギンスは1分32秒差の総合23位につけている。リーダーを助けるために、後ろに下がらざるを得なかったウランも、総合2位から一気に総合22位まで転がり落ちてしまった。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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