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サイクル ロードレース コラム 2013年5月12日

ジロ・デ・イタリア2013 第8ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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2013年ジロ・デ・イタリア最初の1週間が終わると共に、最初の大勝負が終わった。前夜のカオスで大きくタイムを失ったブラドレー・ウィギンスは、この日も小さなハプニングに気持ちをかき乱されたが、それでも非常に力強く1日を締めくくった。ただしロンドン五輪個人タイムトライアルの金メダリストは、自らの得意分野で、区間も、総合も、望み通りに手にすることはできなかった。

出走した全201選手中、最高に上手く54.8kmという長距離を乗りこなしたのが、39番スタートのアレックス・ダウセットだった。英国生まれの24歳は、昨季までの2年間は、スカイ プロサイクリングでウィギンスのチームメートだった。しかも2009・2010年とウィギンスが手にしてきた英国TTチャンピオンジャージを、2011・2012年と2年連続で引き継いだ正真正銘のTTスペシャリストだ。1時間16分27秒(時速43.008km)という圧倒的なトップタイムを叩きだすと、残る162選手に決して追い抜かれることはなかった。

「区間を勝ちたいという気持ちと、チームメートのベナト・インサウスティにマリア・ローザを守って欲しいという気持ちと、同国人のウィギンスにもはやり頑張って欲しいという気持ちと……。なんだか複雑な気分だったんだ。いまだに信じられない。本当に勝ったんだと実感するためには、もう少し時間が必要だよ」(ダウセット)

英国の英雄ウィギンスは、179番目にコースへと走り出した。この時点では1分間隔でのスタートだったため(ラスト15人のみ3分間隔)、昨ツールで2つの個人TTを独占したチャンピオンは、すぐに前走のダニーロ・ディルーカを追い越した。さらには4分前にスタートしたミカル・ゴラスさえ抜き去ることになるのだが、その前に、とてつもない焦燥感を抱くことになる。第4ステージでは最終盤の分断で17秒失い、第7ステージは雨の落車で1分24秒遅れたが、この日の不運は……パンクだった。イラついて軽く自転車を投げ捨てるシーンさえ見られた。2009年の世界選手権個人TTや、今年のジロ・デル・トレンティーノよりは、比較的おとなしめだったけれど。

「パンクして、自転車の交換を余儀なくされたんだから、好走しようと思っても難しいよね。新しいバイクに変えた後、気持ちが乱れてしまった。コースの中でも最もテクニカルな部分を走っていたというのに、自分のベストが出せなかった」(ウィギンス)

アップダウンと細く曲がりくねった道が延々と続き、ただでさえ一定リズムを保つのが難しい区間でのタイムロス。おかげで第1中間計測地点(26km地点)では、ダウセットから52秒も遅れて通過する羽目になった。

しかも総合争いのライバルにも、軒並みタイムをぶち抜かれた!ライダー・ヘシェダルに9秒差、ロバート・ヘーシンクに11秒差、ミケーレ・スカルポーニに22秒差をつけられた。こういった起伏タイムトライアルを得意とするカデル・エヴァンスには30秒差を、最終的に第1中間地点トップ通過を果たすニーバリには1分ものタイム差を押し付けられてしまった。

冬季間にブレシア郊外モンティキアーリの屋内自転車競技場で、ニーバリはしっかりとタイムトライアル練習を積んできた。自らに有利な前半=起伏コースを攻撃的精神で攻略したあと、後半=平坦な直線が続く本格ルーラー向きコースに入ると、今度はひたすら冷静にテンポを刻み続けた。もちろん、この後半こそが、ウィギンスの得意な地形だった。そして、ここからサー・ウィギンスは本格的な巻き返しを開始する。

「後半はボクの脚質にまさしくぴったりだったから、かなりタイムを回復できたよね。本来のペダリングができたし、フィジカルの調子もこれまでにないほど良かった」(ウィギンス)

第2中間計測地点(51.5km地点)では、相変わらずダウセットからの遅れは59秒もあった。ただ実際のところ、26km地点から51.5km地点だけを見れば、失ったのはわずかに7秒だけ。そして勾配11%越えの坂道を上った果てのフィニッシュラインを越えたとき、母国の後輩との遅れは、わずか10秒に縮んでいた。もしかしたら、前半のパンクさえなければ……、区間勝利に手が届いたのかもしれない。そして、出走前に立てた「ライバルたちを2、3分引き離したい」という目標も、達成できたかもしれなかった。

もちろん前半飛ばしたヒルクライマーたちは、後半の苦手な平坦部分では揃ってタイムを失った。それでも、やはり前半の貯金が大きくモノを言った。むしろラスト4kmだけ見ればトップタイムを叩き出した36歳エヴァンスは、ウィギンスから29秒遅れ=総合47秒リードで、あわや人生3度目のマリア・ローザ!?……という好走だった。最終的には約12分後に走りこんできたニーバリが、ダウセットから21秒遅れ、ウィギンスからは11秒遅れというとてつもなく見事な結果を残して、ピンク色のジャージの権利を鮮やかににさらい取ってしまうのだけれど。

「難しいタイムトライアルだった。確かにヒルクライマー向きなコースでもあったけれど、距離が長かったから、エヴァンスやヘシェダルのような選手に有利だと考えていたんだけど」(ニーバリ)

そうなのだ。昨大会をタイムトライアルで勝ったはずのヘシェダルだけが、区間勝者から2分23秒もの遅れ(つまりウィギンスからは望み通り2分13秒秒遅れ)を喫してしまった。総合順位でも、首位ニーバリ、2位エヴァンス(29秒差)、3位ヘーシンク(1分15秒差)、4位ウィギンス(1分16秒差)、5位スカルポーニ(1分24秒差)……の後ろの、総合6位2分05秒と、大きくタイムを空けられてしまうことになった。

最終走者のインサウスティは、わずか1日でマリア・ローザを失った。ただ幸いにも、モヴィスター チームはダウセットと共に区間勝利を祝うことができた。そしてニーバリは3年前に3日間で失ったきりだったばら色の栄光に、誇らしげに袖を通した。

「今日マリア・ローザを着ることができるとは思ってもいなかった。このジャージは、ボクにとっては本当に大きな意味を持つ。2010年に初めて着たときに感じた感動を、再びこうして味わうことができた。だけど大会はまだまだ長い。ライバルたちを決して過小評価してはならない。ボクはあくまでも冷静だし、チームもボクに全幅の信頼を寄せてくれている。今のところは、想像以上に物事が上手く運んでいる。マリア・ローザを、この先はしっかりと守っていく」

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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