人気ランキング
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
コラム&ブログ一覧
季節外れの冷たい雨が、5月半ばのプロトンに、無情に降り続いた。いつまでたっても終わらない天候不順に、多くの選手は体も心もすり減らしていた。ディフェンディングチャンピオンのライダー・ヘシェダルは、すでに体調不良で優勝争いから転げ落ちている。この日は、「移動ステージ」となるはずだった平凡な道で、ブラドレー・ウィギンスの総合の望みが完全に断たれた。数日前からじわじわとタイムを失い、前日のステージ後には「肺の炎症に苦しめられている」と告白した2012年ツール覇者は、134kmと、ほんのセミステージ程度の距離で、3分17秒ものタイムを落とした。
ファビオ・フェリーネ、ベルト・デバッケル、マルコ・マルカート、マウリツ・ラメルティンク、さらには第9ステージにすでに逃げ切り勝利を決めているマキシム・ベルコフが、雨にも負けず、スタート直後にスピードを上げた。そのまま逃げ集団を作り上げると、見事な協力体制で先を急いだ。意地悪な雨のせいで、とある下りカーブでは、デバッケル以外の4人が水溜りのようなアスファルトの上を滑り落ちる……というアクシデントに襲われたことも。それでも、ステージの大半でかなりの安全走行を続けた後続プロトンからは、常に3分程度のタイム差を保ち続けた。
後方ではオメガファルマ・クイックステップやキャノンデールプロサイクリング、エフデジが積極的に集団制御を行っていた。今大会はいまだ10ステージ残っているが、完璧なるスプリンター向けのコースはもはやこの第12ステージと最終日しかない!第13・16・17ステージはゴール直前に小さな上りが潜んでいるから、脚に疲労が蓄積していた「ピュア」スプリンターには、少々攻略しきれない可能性がある。いや、むしろ来る難関山岳を、無事に乗り越えられない可能性もあるからして……。だからこそ、この日は絶対に勝たなくてはならなかった。
ところが、ゴール前60kmで2分半にまで縮まったタイム差は、ゴール30kmを切った時点でもいまだ2分半残っていた!安全走行しすぎたのだろうか。慌ててスプリンターチームは、今まで以上にスピードアップ。そして、これがプロトンの分断を誘発した。ウィギンスも、集団のリズムについていけなくなった。
総合ライバルたちは、2分05秒差で総合4位に付ける邪魔者を引きずりおろすために、自らが手を出す必要はなかった。思うように前方との距離を縮められないスプリンターチームが、必死で加速を続けていたからだ。後ろの方では、スカイのアシストが6人がかりで、体調不良の「サー」を牽引していた。総合上位につけるコロンビア人の2人、リゴベルト・ウランとセルジオルイス・エナオモントーヤは、この日はさすがに救援部隊には呼ばれなかった。それぞれの総合戦いに、集中させるために。
「2011年ツールでブラドレーが鎖骨骨折した時は、チームにとってかなり厳しかった。というのはチーム全体が目標を失ってしまったからだ。でも今ジロでは、チーム的に見れば素晴らしいポジションにつけている。いまだリゴベルトが総合上位にいるし、チーム全体のモチベーションも高い。この先はリゴベルトのために走っていく。だから、チーム自体が目標を失ってしまったわけじゃないんだ」(スカイのゼネラルマネージャー、デイヴィッド・ブレイルズフォード)
やはり土砂降りに見舞われ、同じようにスプリント勝負が見込まれた第5ステージでは、ゴール直前で大落車が発生した。あの過ちを繰り返すまいと、この日、ゴールタイム計測地点はラスト3km地点に変更された。だからゴール前3kmのアーチをくぐった後は、例えばマリア・ローザ争いを繰り広げる選手たちは、心置きなくペダルを漕ぐ脚を緩めることができた。この先どれほどだらだら走ろうが、もはや遅れが「ゼロ」に変わりはない。こうして総合首位のヴィンチェンツォ・ニーバリを筆頭に、ウィギンス以外の総合トップ20選手は、皆揃って仲良く同じタイムを手に入れた。
「今日は警戒して走った。特に下りはひどく危なかったから、最大限の注意を払った。ウィギンスのことは考えなかった。ボクは自分のことだけを考えている。しっかり体力を回復すること、健康を保つこと、それだけだ。今後ウランから目を離さないようにしなければならない。それにエヴァンスとの差はまだかなり近いし、スカルポーニもいい走りをしている。総合争いはいまだ混戦状態なんだ」(ニーバリ)
もちろん、区間勝利に関心のある選手だけは、最後の最後までスピードを減速することはできなかった。ステージの勝敗、ならびにゴール順位は、通常通りフィニッシュラインで決する。前を走る5選手が、ゴール前3kmまで来てもいまだ11秒差で猛烈な粘りを見せていたものだから、スプリンターチームは濡れた路面にひるむるわけには行かなかった。
最後まで決して諦めなかった勇敢な5人が、つかまったのは、ゴール手前350mのことだった。あとはいまだカオス状態だった集団前方から、ひょい、ヘルト・ステーグマンとマーク・カヴェンディッシュが脇手に飛び出すと、もはや誰も手の届かないスピードでカヴが仕上げを行った。
2009年、2012年に続くジロ区間3勝目は、プロ入り通算で考えれば……記念すべき100勝目!ちなみに記者や選手によって色々な数え方の基準が(チームタイムトライアルやクリテリウムなどを入れるか入れないか等々)があるせいで、すでに3月頃に「100勝目!」なんて騒いだメディアもあったし、ナポリでの第1ステージ勝利で「100勝目!」なんて書き立てる記事もあった。ただし今回は本人が、間違いなく、100勝目を喜んでいる。
「すごく嬉しいよ。自分の100勝目と、そして、そのためにチームメートたちがびしょ濡れになりながら素晴らしい仕事を成し遂げてくれたことをね。彼らの1人1人を、すごく誇らしく思ってる。普通に考えれば、記録というのはそれほど大きな意味を持たない。でも、これはスペシャルだ。100レースで勝つのは簡単なことじゃない。この勝利を手にするために前進してきた。それにジロで達成できたのもよかったよね」(カヴェンディッシュ)
ご希望の赤いジャージ=ポイント賞ジャージも、カデル・エヴァンスから取り戻した。大満足のチームは、100勝を祝う限定Tシャツの販売を急遽決定した。第1ステージ3位、第6ステージ4位と、世界最速スプリンターの後を追いかけ続けてきたフレンチチャンピオンのナセル・ブアニは、この日も2位で肩を落とした。そして、ついに勝てぬまま、この日限りでジロを立ち去る。一方で5分22秒遅れの総合13位に陥落したウィギンスは、この先も戦い続けることを選んだようだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
あわせて読みたい
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
ジャンル一覧
人気ランキング(オンデマンド番組)
-
Cycle*2024 UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース
9月29日 午後5:25〜
-
Cycle* J:COM presents 2024 ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム
11月2日 午後2:30〜
-
10月12日 午後9:00〜
-
11月11日 午後7:00〜
-
【先行】Cycle*2024 宇都宮ジャパンカップ サイクルロードレース
10月20日 午前8:55〜
-
10月10日 午後9:15〜
-
Cycle* UCIシクロクロス ワールドカップ 2024/25 第1戦 アントウェルペン(ベルギー)
11月24日 午後11:00〜
-
【限定】Cycle* ツール・ド・フランス2025 ルートプレゼンテーション
10月29日 午後6:55〜
J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!