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ステージ上にたった1つ突き出した小さな4級峠が、スプリンターチームの1日がかりの仕事を台無しにした。マーク・カヴェンディッシュは、自分自身へ28歳の誕生日プレゼントを贈ることができなかった。いまだ赤いジャージをかろうじて肩に引っ掛けているけれど、最終日ブレシアの表彰台の上で笑っていられるかどうかは、もはや分からなくなってしまった。
214kmの長いステージのうち、最後の22kmを除けば、道は至極平坦だった。5月らしい爽やかなお天気にも恵まれ、サイクリングには絶好の1日だった。すでに区間を制したマキシム・ベルコフに、ルーク・ダーブリッジ、ミゲール・ルビアーノ、ヘルト・ドックスをあわせた4選手の逃げも、残り100kmを切るまでは、比較的のんびりとしたペースで執り行われた。はるか後方では、当然のようにカヴ擁するオメガファルマ・クイックステップが、静かに制御に務めていた。
ゴール前90kmほどになると、前の4人がいよいよ本気を出し始めた。3分程度しかなかったタイム差も、5分以上に広がった。しばらくすると、今度は後方が本気の追走に切り替えた。ゴール前70kmあたりから、キャノンデール プロサイクリングやチーム アルゴス・シマノがオメガファルマに手を貸し、タイム差をじわじわと縮めて行く。
他の2チームの目的は、当然、自前スプリンターに区間を勝たせること。一方のカヴには別の目的があった。それはポイント賞ジャージのために、できるだけポイントを稼ぐこと。ちょうど1年前のイタリアでは、第20ステージの終わり、つまり最終日前日に赤ジャージを失った。たったの1ポイント差で……。そして2013年ジロの第16ステージ終了時点では、ポイント賞2位につけるカデル・エヴァンスとのリードは6pt。この先に山岳タイムトライアル+難関山岳ステージ2つが残っていることを考えると、もはや1ptだって無駄にできない。だから終盤に2回登場した中間スプリントポイントでは、いずれも集団からほんの少し飛び出して、5位通過をきっちり取りに行った。2pt×2回でひとまず4ptを懐に入れた。次に狙うはステージ優勝と、25ptだったはずだった。
ところが峠の入り口が近づいてくるに連れて、雲行きが怪しくなってきた。ヴィーニファンティーニ・セッレイタリアが集団前方に4選手を配置し、猛烈な先導を始めてしまったのだ。ランプレ・メリダも大いに前方で存在感を見せ始めた。ゴール地ヴィチェンツァから15kmほどの街で生まれ育った、フィリッポ・ポッツァートを勝たせるためだった。スプリントを阻止したいチームとスプリントに持ち込みたいチームとが、熾烈なポジション争い繰をしながら、ゴール前22km、ついに4級峠に飛び込んだ。
エスケープには、もはや1分ほどしか余裕はなかった。しかも登坂と同時に、勝手に他の選手たちは力尽き、ただルビアーノ1人だけが先頭に残されていた。同じ頃、メイン集団ではヴィーニファンティーニが、ついにアレッサンドロ・プローニとダニーロ・ディルーカの2人を前に送り出した。さらにブローニが発射台となり、ディルーカが飛び出した。今大会幾度となくアタックやエスケープを繰りかえしてきた2007年マリア・ローザは、すぐにルビアーノを捕らえると、勇んで突進を始めた。今度こそ復活勝利を手にいれるために。
しかし、カヴェンディッシュが苦しみ、じわじわと遅れ始めていたメイン集団から、もう1人、後を追ってくる選手がいた。ほんのつい4日前、ガリビエの山頂で栄光をつかみ取ったばかりのジョヴァンニ・ヴィスコンティだ。まるで矢のように突進してきた!
「新しい男に生まれ変わったような気分なんだ。ずっと捜し求めていた区間勝利を手に入れて、しかも伝説的なガリビエで区間を制して、気持ちの迷いがなくなった。メンタリティは完全に変わった。何も怖くなくなったんだ」(ヴィスコンティ)
恐れを知らぬ男は追いつき、そして置き去りにした。「あまりにも『勝ちたい』という気持ちが強すぎるせいで、戦術ミスを犯してしまっているのかもしれない。焦りから、仕掛けるタイミングが早過ぎるんだと思う」と肩を落とす37歳の大ベテランを振り払い、さらにコロンビア人を執拗な加速で千切った。ラスト17kmで単独先頭に立つと、下りを利用して、ゴールまでのタイムトライアルに打って出た。
「全くパニックになることなく、走り続けた。ただ1kmずつ流れるように過ぎ去って行った。なんだかステキな感覚だったよ。上手く言葉では表現できないけれど」(ヴィスコンティ)
さらに幸いなことには、背後の集団は、追走のために一致団結する気がまるでなかった。てんでバラバラに飛び出しては、誰かがそれを阻止する。猛烈に加速したり、睨み合いで減速したり。しかも最終数キロは、道幅は細く、カーブが多く、一定速度を保つことさえ難しい。そんな中でも、マリア・ローザのヴィンチェンツォ・ニーバリは、3人のアシストに守られて、快適な時を過ごした。総合ライバルたちも、無茶はしなかった。
「今日はお祭りのような1日だったね。ジロの沿道にこれほどの人々が応援に駆けつけてくれるなんて、ほんとうに感動的だ。素晴らしいステージだった。最終盤には、見事なバトルも繰り広げられた」(ニーバリ)
カンパニョーロのお膝元へ向かって、カンパニョーロのコンポーネントを使用するヴィスコンティは、ひたすら突き進んだ。ガリビエでのてっぺんでは、疲れと寒さのせいで、ゆっくりと勝利のジェスチャーを披露している余裕はなかったけれど、この日はたっぷり250mかけて勝利を味わった。嬉し涙が止まらなかった。
「ガリビエを勝つずっと前から、今日のステージに狙いをつけていたんだ。だから上りでチャンスに賭けてみることにした。最終コーナーを曲がった後は、全てがまるで夢のようだった。残り50mではすでに、明日の新聞に掲載されるであろう写真のことさえ考えた!写真はぜひとも家の壁に飾りたいね」(ヴィスコンティ)
今大会2つ目の区間優勝はまた、イタリア国内で勝ち取った、初めてのジロ区間勝利でもあった。モヴィスター チームにとっては大会4つ目の区間勝利で、第15ステージから3区間連続の栄光でもある。その一方で、19秒遅れの集団内でゴールしたニーバリは、マリア・ローザの栄光に区間勝利を添えたいと熱望している。
「ステージを勝ち取ることだけを考えている。明日になるか、金曜日や土曜日の山岳ステージになるか。それは状況次第だね。区間を勝つことも難しいことだけど、でもマリア・ローザのような大切なジャージを守ることも難しいことなんだ」(ニーバリ)
カヴェンディッシュのマリア・ロッソは、いよいよ難しくなってきた。10位ゴールのエヴァンスがちゃっかり6ptを手に入れたため……両者のポイント差はわずかに4ptとなった。総合争いでも2位(1分26秒差)につけるエヴァンスはむしろ、翌第18ステージの山岳タイムトライアルで、ニーバリを少しでも追い詰めたいと願っているはずだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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