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朝の小雨がほんの少し谷間を濡らしたものの、午後のゆっくりとしたスタート時間が近づく頃には、陽光がドロミテ山塊特有の岩肌を輝かせた。前日に厳しい戦いを繰り広げた総合リーダーたちの口元にも、笑みがこぼれる。「こういったリズムの変化は、ありがたいね」と、現在総合3位につけるイヴァン・バッソ(リクイガス・キャノンデール)もリラックスした様子を見せる。プロトン内で唯一、ピリリ、とした雰囲気を漂わせている選手がいた。赤いジャージに身を包むマーク・カヴェンディッシュ(スカイ プロサイクリング)だ。
なにしろ前夜の激闘の結果、マリア・ローザ争いがいよいよ本格化したと同時に、マリア・ロッソ争いもひどい接戦状態となってしまったのだ。総合首位のホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)はスプリントで区間勝利を奪い取っただけでなく、ゴールポイント25pもさらい取った。つまりポイント賞首位のカヴェンディッシュ110pを、わずか1p差に追い詰めてしまった!しかもロドリゲスには、難関山岳の第19・20ステージでさらなるポイントを重ねる可能性がある。おそらく本人はわざわざ点数収集に向かうつもりはないだろうが(昨年のブエルタではせめても「マドリードの最終表彰台」に上りたいと、ラボバンク サイクリングチームのバウケ・モレマとポイント賞争いを最終日まで繰り広げて、そして負けたことは記憶に新しいけれど)。一方のカヴェンディッシュにとっては、この日こそが正真正銘、最後のチャンスだった。
たくさんのスプリンターたちが自らリタイアを選ぶ中、ただミラノでの赤い栄光だけを夢見て、ここまで辛い難関山岳を乗り越えてきた。だからスタートと同時に巻き起こった激しいアタック合戦や、逃げ出した4選手ーーアンジェロ・ パガーニ(コルナゴ・CSFイノックス)、ピエルパオロ・デネグリ(ファルネーゼヴィーニ・セッライタリア)、スタフ・クレメント(ラボバンク サイクリングチーム)、マヌエーレ・ボアーロ(チーム サクソバンク)ーーとのタイム差を、疲れた体に鞭打って、スカイのチーム総出でしっかりとコントロールした。
もちろん、ポイントは稼げるだけ稼がなければならない。だからゴール前65kmに待ち構える中間ポイントへ向けて、ゴールスプリント顔負けの立派なトレインを組んだ。もちろんエスケープ4人を非情にも吸収して……、望み通りにカヴが1位通過=8pを手に入れた。
戦いは一旦振り出しに戻り、今ステージ2つ目のエスケープ集団が出来上がった。ミカエル・ドラージュ(FDJ・ビッグマット)、オリヴィエ・カイセン(ロット・ベリソル)、マルティン・ケイゼル(ヴァカンソレイユ・DCM)、そして前半でも逃げたクレメント。この4人のうちの2人、つまりカイセンとケイゼルの目的は、当然フーガ賞(大逃げ賞)だった。大会序盤から熾烈な距離稼ぎ合戦を続けてきた両者は、今ステージが終わった時点でカイセン通算683kmでフーガ賞1位、ケイゼル通算656kmで2位。こちらもやはり、ひどい接戦状態に変わりはない。
後半はロドリゲスを支えるカチューシャ チームが、隊列を責任持って引っ張った。起こりうる落車やメカトラブル等々の危険を避けるため、総合ライバルたちによる分断やアタックの試みを避けるため。ゴールには赤ジャージのためのポイントだけでなく、ピンクジャージ争いを左右しかねないボーナスタイムも儲けられていたのだから。ただ10秒差にまで追い詰められた逃げ集団からドラージュが最後の可能性を求めて加速し、さらにゴール前10kmで疲れ知らずのラルスイティング・バク(ロット・ベリソル)が合流すると、再びプロトンの指揮権はスカイへと委ねられた。
2012年ジロ・デ・イタリアで見られるのはおそらく最後になるに違いない、真っ黒なスプリント列車が、ヴェデレーゴの町へと突入して行く。ラスト5kmは直線で、たとえばゴール前300mに邪魔な直角カーブが牙をむくこともない。ゴールラインには真夏のような強烈な太陽が照り付け、観客たちの興奮も頂点へと達していた。残り4kmでドラージュとバクは吸収された。カヴェンディッシュは、アシスト2人に導かれて、ゴール前1kmのアーチをくぐった。有終の美を飾るにふさわしい、パーフェクトな舞台が揃ったようだった。
ただ勝利へ向けて、いつも通りにスプリントを打ったはずだった。ただしトップスピードに乗ってペダルを回す世界チャンピオンの側を、アンドレア・グアルディーニ(ファルネーゼヴィーニ・セッライタリア)がすり抜けて行ってしまった。
「ああ負けたと思ったら悔しくて、自然にああいう行動にでてしまったんだ」
と、カヴェンディッシュがハンドルに拳を叩き付ける横で、若きピュアスプリンターは両手を天に勢い良く突き上げた。プロ入り初レースだった1年前のツール・ド・ランカウイで区間5勝を上げ、一躍自転車界から大いなる注目を浴びた23歳は、初挑戦のジロの、最後のチャンスで、ついに念願の勝利をつかみとった。
「今大会は経験を積むつもりで出場したんだ。だからまったく……特に第1週目は、自分が勝てるとは思っていなかった。でもスタート時には198人いたプロトンも、すでに30人ほど数が減ってしまった。20人ほどいたスプリンターも今では5人か6人しか残っていない。しかも誰もが疲れていた。だからボクにも可能性があると分かっていた。実は今日、かなり自信があったんだ。だって最後の60kmは完璧なるフラットで、つまりボクのために作られたようなステージだったからね」
結局2位でゴールしたカヴェンディッシュは、さらに20pを手に入れた。ポイント収集の1日を終えて、ロドリゲスとの差は29pとなった。
もちろんマリア・ローザは特にゴールポイントを取りに行くこともなく、区間65位で1日を終えた。ほかの総合勢、つまり2位30秒差ライダー・ヘシェダル(ガーミン・バラクーダ)や3位1分22秒差バッソも、何事もなく静かに先頭集団でステージを終えた。ただ4位1分36秒差ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)だけは最終盤でメカトラの犠牲となったが、アシストたちの助けを得て、無事に集団復帰を果たしている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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