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サイクル ロードレース コラム 2013年7月2日

ツール・ド・フランス2013 第3ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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からりと晴れた真夏日。お別れのプレゼント代わりに、コルシカが誇る美しい風景をたっぷりと見せてくれた。ユネスコの世界遺産に登録された巨大岩の入り江に、何よりも青い海……と単純に言ってしまうことのできないほどに青い青い海!

ゼロkm地点での、リエーべ・ウェストラの強烈な加速で、コルシカ最後のステージは幕を明けた。そこにセバスティアン・ミナールにアレクシス・ヴュイエルモーズ、2012年ブエルタ山岳賞サイモン・クラークに、現在山岳賞ジャージを着るピエール・ローランのチームメート役シリル・ゴチエが反応し、すぐさま5人のエスケープができ上がった。背後ではヤン・バークランツの1秒差の首位を守りきろうと、レディオシャック・レオパードがプロトンコントロールに努めた。おかげでチームメートのトニー・ギャロパンは、残念ながら「仕事に集中していて、景色などに一切目を配ることはできなかった」とのこと。

ところでグランツール大会序盤、エスケープを打つ狙いの1つに、「山岳賞ジャージ」が挙げられることが多い。たとえばクラークは、あくまで「メイン集団内のリーダーの体力を温存させる」というチーム戦術を掲げて前に滑り込んだが、「自分が上手にできること」、すなわち山岳ポイント収集にも精を出した。一方のゴチエは、こういったクラークのような人物を警戒するために、エスケープに送り込まれていた。なにしろスタート前のローランは「今日は『ディフェンシブ』に走る。つまり誰かチームから逃げに乗せて、他選手のポイント収集を潰してもらう」と語っている。だから2日連続でゴチエがディフェンス役を引き受けた。

メイン集団から最大4分半ほどのリードを許された前方集団では、4級峠→3級峠→3級峠と、熾烈な化かし合いが繰り広げられた。その3つ全てで、クラークが首位通過を仕留めた。約1年前に「青玉ジャージ=ブエルタ山岳賞」獲りで披露したお手並みを、フランスでも余すところなく発揮したのだ。対するゴチエは毎回奮闘するのだけれど、何やら仕掛けるのが早すぎたのかもしれない。3つ全てで、ポイント着順にさえ絡めぬままだった。すなわちこの時点でクラークがあっさり通算5ptを計上し、ローランの5ptと完全に並んだ!

大会ルール第25項・Cによれば、「2人以上の選手が同点で並んだ場合は、超級峠を先頭通過した数の多い選手に、山岳賞上位を与える。それでも同点が続く場合は、1級峠を先頭通過……(以下略)」にのっとって、「2級峠を1度先頭通過している」ローランが山岳賞ジャージを着用する権利を有していた。もちろんゴール前13m地点の2級マルソリーノで、もしもクラークが前から4番目までに通過し、ほんの1点でも挙げれば……。クラークがローランから赤玉を剥ぎ取るはずだった。

「ジャージは狙ってなかったんだ。取れたら、まさしくボーナスだったのさ」とゴール後にさらりと語ったものの、それでも、小さな野望を隠し持っていたのだろうか。ゴールまで20kmに近づくと、クラークはエスケープ仲間を無理やり振り落として行った。さらにゴール前13km地点に立ちはだかる、2級峠を、単独先頭で上り始めた。

こうなると、ローランものんびり守備的に構えてもいられない。アシスト役ダヴィデ・マラカルネと、まさしく「タンデム・アタック」を決めた!あとはあっさりクラークを抜き去ると、新たな5pt獲得と、山岳賞首位固めをきっちり完遂するだけだった。

その後は何やら前日と似たような状況、つまり「下りで1人先頭」になったローランも、ほんの少しだけ欲を出した。「総合上位を狙うため、コルシカを何事もなく終えたい」と願ってはいたけれど、ダウンヒルで思い切って脚を速めてみた。特攻隊長シルヴァン・シャヴァネルや、ラーシュペッテル・ノルダーグ、ミケル・ニエベが、メイン集団から飛び出しを仕掛けて、合流してきたのも大きかった。そうは言っても、白地に赤い丸の争いに敗れたオリカ・グリーンエッジと、むしろ緑色に愛着を持つキャノンデール プロサイクリングが、猛烈に追い上げ、そして集団スプリントへと無理やりに持ち込んでしまうのだけれど。

90人ほどの集団の中に、ピュアスプリンターは残っていなかった。最終2kmに急カーブ2つ&橋が待ち構えるカルヴィの町は、パンチャー系スプリンターに両腕を広げていた。第1ステージ(落車、154位)、第2ステージ(2位)に続いて、この日もダントツ優勝本命に上げられていたペーター・サガンが、思い切ってその広い胸に飛び込んでいった……はずだった。しかしハンドルを投げた彼のはるか右側では、サイモン・ゲランスもやはりハンドルを思い切って前方へと投げていた。

「勝てたのかどうか、定かじゃなかった。ただ、かなりの僅差だったことだけは把握していたし、早とちりして勝者気分にもすぐには浸りたくなかったんだ。勝利が確定したのは、数分だったしね」(ゲランス)

フォトフィニッシュ(写真判定)に委ねられた勝負の行方は、ぎりぎりでゲランスに軍配が上がった。小柄なオーストラリア人にとっては5年ぶりのツール区間勝利。同時にオーストリア国籍チームの「オリカ・グリーンエッジ」にとっては、2012年チーム創設以来初めてのツール区間勝利となった!!

「とてつもない勝利だよ。チームにとっては、すごい瞬間だった。これまで何度となく、勝利に近づいてきたけれど、どうしても勝てなかったから。願わくば、このチーム初勝利が、さらなる勝利を呼んで欲しいものだね」(ゲランス)

スロバキアの怪物君は、マイヨ・ヴェールで我慢するしかなかった。バークランツは黄色い衣装で嬉しい本土上陸を果たせるし、パリでの総合優勝本命たちはそろって「1秒遅れ」で、罠がいっぱいのコルシカを切り抜けた。こうして196人の選手たちは、2台の飛行機に分乗すると、ひどく慌しく第4ステージの舞台ニースへと飛んで行く。開催関係者やチームバス、キャラバン隊等々は7台の巨大フェリーに乗って、それぞれにコルシカに別れを告げる。

ツールの喧騒が去ったあとでも、美しき地中海の小島が、ひっそり静かになることはない。ちょうど入れ替わるように、コルシカは本格的なバカンスシーズンに突入する。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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