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サイクル ロードレース コラム 2013年7月11日

ツール・ド・フランス2013 第11ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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海からの湿った空気が、蒸し暑い塊になって、選手たちの体に容赦なく襲い掛かってきた。ゴールへ近づけば近づくほど、潮の香りは濃くなり、風の勢いも増していく。河口の真ん中に、にょっきりと突き出した小山へとつながる1本道は、完全なる吹きさらしだった。強い向かい風や、さらには干潟から飛んでくる砂ぼこりに、選手たちは大いに悩まされた。

それでもラスト2kmは、モン・サン・ミシェルを拝むには、まさしく特等席だったのだ。フランスに10年間住みながら、このユネスコ世界遺産をじっくり観察するのは初めてという新城幸也選手は、「向かい風なんですけれど、頭を下げずに、しっかり眺めながら走りました!」とニコリ。島のシンボルでもある修道院が、前日からストライキで閉鎖されていることに関しては、「ホント残念です。ファンの人たちだって、楽しみにしていたはずなのに……」と残念がる。

ちなみにこの日、大会を訪れたさいたまクリテリウム by ツール・ド・フランスの視察団から、新城選手の「出走決定!!」が発表された。ついでに言うとモン・サン・ミシェル観光協会が、「歓迎!日本チャンピオン!」と、この日の新城選手の写真を公式HPに掲載する予定だそうだ。要チェックである!

トニー・マルティンは、フランス2位の観光地を、ゆっくりと見つめている余裕はなかったに違いない。33kmの平坦タイムトライアルを駆け抜けた瞬間に、全力を使い果たした現役TT世界チャンピオンは、溶けたアスファルトの上に崩れ落ちた。182人中65番スタートのドイツ人は、ステージ後半に吹き付けていた斜め後ろからの追い風を利用して、36分29秒87(時速54.271km)のトップタイムを叩き出した。初日の集団落車で左半身と背中を大きく擦りむき、眠れない日々が続いたそうだが……、自らの得意分野にピタリと体調を合わせてきた。

「疲れてはいるけれど、調子はすごく良かったんだ。今日は走り出してすぐにリズムをつかむことができたし、いいスピードに乗れた。だから好タイムが出るだろうと確信していた。区間勝利のライバル?ずばりフルームだね。つまり最終走者が走り終わるまで、ボクが勝てるのかどうか、待たなきゃならないというわけ。でもフルームにとっては、ちょっと起伏が足りないと思う。だから前向きに、ステージの終わりを待つだけさ」(マルティン)

そう、つまり延々4時間半ほども待った甲斐があった。ほんの少しだけはらはらさせられることになるが……。なにしろマイヨ・ジョーヌ姿のクリス・フルームが、第1中間計測地点(9.5km地点)で1秒、第2中間計測地点(22km地点)で2秒、マルティンの1位通過タイムを上回ってしまったのだ!

「でも最終盤は風が強いことを知っていた。特に最終2kmは向かい風だということもね。だから、そこに向けてエネルギーを温存していたんだ。それが効果的だったのかもしれない」(マルティン)

時間の経過につれて、ステージ後半部分の風が、右からの強い横風に変わっていたのも幸いだった。こうしてラスト11kmだけを見れば、疲れたフルームを14秒上回り、マルティンが2011年グルノーブルでの個人TTに続くツール個人TT2勝目を手に入れた。2008年にプロ入りして以来、キャリア通算30個目の記念すべき個人タイムタイムトライアルタイトルでもある!

「落車後にドクターに『大丈夫』って言ってもらえてから、今日のタイムトライアルに集中してきた。チームメートやスタッフが、ボクを身体的にも精神的にも支えてくれたおかげでもあるんだ。おかげで今日までモチベーションを保ち続けることができたし、今日はまったく落車の影響を感じずに済んだ」(マルティン)

そんなオメガファルマ・クイックステップには、もう1つ、嬉しいニュースがあった。ミカル・クヴィアトコウスキーが区間5位(1分31秒遅れ)の好タイムを叩き出し、総合7位に上昇し(4分44秒差)、ナイロ・クインターナから純白の新人賞ジャージを奪ったのだ!「山ではクインターナが非常に強いから、パリまで守るのは難しいと思うけれど」と控え目に語る23歳だが、初めてのツール・ド・フランスでの大健闘に、メディアやファンからの注目度は日に日に上がっている。一方でチームには、衝撃的な事件も。チームメートのジェローム・ピノーのツイートによると、マーク・カヴェンディッシュが個人TT走行中に、沿道の観客から罵られ……、尿を振り掛けられたという!

大天使ミカエルは、フルームには祝福のラッパを吹き鳴らし、総合ライバルたちにはひどく厳しい審判を下した。マイヨ・ジョーヌは12秒遅れの区間2位でゴールしたのに対して、総合表彰台を狙う選手たちはことごとく……2分以上の遅れを喫した。バウク・モレッマが2分05秒(フルームから1分53秒)、アレハンドロ・バルベルデが2分12秒(同じく2分)、アルベルト・コンタドールが2分15秒(同じく2分03秒)、カデル・エヴァンスが2分30秒(同じく2分18秒)と、桁違いのタイムを失っている。

「当然のことながら、今日、自分が成し遂げたことを嬉しく思っている。ボクの目標はコンタドール、バルベルデ、エヴァンス、その他ライバルを引き離すこと。その目標はクリアできた。これは本当に良かった」(フルーム)

つまり総合では首位の地にフルームがさんぜんと輝き、総合2位以下はすでに3分25秒もの大量の重荷に苦しめられている。1年前の総合首位ブラッドリー・ウィギンスと2位フルームの、パリでのタイム差が3分21秒だから……もはや勝負がついたも同然なのだろうか。「諦めない」コンタドールさえも、「さすがにパリでのマイヨ・ジョーヌは難しくなってきた」と認めている。

「でもまだ10ステージ残っている。大会は折り返し地点を迎えたばかりだ。アルプスがやってくる。ライバルチームたちはおそらく、アルプスでボクを孤立させようと仕掛けてくるだろう。皆で力を団結して、ボクを困らせようとするはずだ。つまりこの先が非常に大切になってくる。まだまだ熾烈な戦いは巻き起こる」(フルーム)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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