人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2013年7月18日

ツール・ド・フランス2013 第17ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

切り立った上りと、細く曲がりくねった急な下りがそれぞれ2回ずつ。舗装状態は良好とは決して言えず、むしろ最悪で、湖から吹き上げる風も強かった。しかも15時15分過ぎには――つまり総合上位の選手たちがスタート地でウォーミングアップをしていた頃だ――、局地的な大雨さえ降ってきた!

しかし、178人中178番目に力強く飛び出したマイヨ・ジョーヌは、極め付きの難ルートも、次々と襲い掛かってくるライバルも、沿道のファンたちからのブーイングさえも、全てきれいさっぱり跳ね飛ばした。178人中1番目の、51分36秒66という最速タイムを記録した。これにて今大会3つ目の区間勝利。クリス・フルームは、もはや手に負えないほど強い。

「フィニッシュラインを通過したときに、自分がトップタイムを叩き出したことを知って、信じられなかった。だって今日は、来るべき日のことを考えて、危険をなるべく冒さずに、かつタイムロスをできるだけ少なく抑えることだけを考えていたから」(フルーム)

実際に危険は潜んでいた。朝の下見の時点で、早くも落車が発生する。総合9位ジャンクリストフ・ペローが、第1の下りで地面に転がり落ちた。すぐにレントゲン設備で検査が行われ、右鎖骨亀裂が判明。ただ本人の強い希望により、なんとか出走にこぎつけたが……。本番のゴール前1.5km。ステージ最後の急な右カーブで、北京五輪のマウンテンバイク銀メダリストは、再び激しく右半身から落車した。かろうじてくっついていた鎖骨も、今度は完全に真っ二つになった。36歳のベテランは、パリまで4日を残して惜しくもリタイアを余儀なくされた。

新城幸也も、まさしく同じカーブで小石に前輪を取られた。ちょうどダウンヒルが終わる直前のアクシデントだった。右上半身と右スネの擦過傷が落車の激しさを物語る。「でも時速はちゃんと30km程度に抑えて、慎重にカーブに入ったつもりだったんですけど……」とのこと。ゴール後はさすがに少々疲れた表情を見せたが、「今日の午後はゆっくり休めるので、きっと大丈夫です」と断言する。

ノーマルバイクで日本チャンピオンは32km全てを走りきった。一方でタイム短縮を狙うスペシャリストや総合上位勢の中には、2つ目の山の頂上=20km地点=第2中間タイム計測地点で、自転車をノーマル→タイムトライアル専用に交換する選手も多かった。もちろん自転車交換のためには、選手たちは一旦立ち止まらねばならないし、選手の背後を走るチームカーの屋根の上から自転車を大急ぎで下ろさなければならない。当然ながらタイムロスも発生する。たとえば世界タイムトライアル王者トニー・マルティンにとっては、暫定首位につけていたリエーべ・ウェストラからの遅れを、わずか7秒縮める程度の効果しかなかった。まあ、そもそも、この日のコースは、タイムトライアルスペシャリスト向けには作られていなかったのだけれど。

「でも、自転車交換が大きな違いを生んだ可能性は大きい。今朝の試走時に、最後の下りは大きなギアで降りたほうがよいと考えた。フィニッシュラインに向けて大きく踏み込んでいくためにね」(フルーム)

マイヨ・ジョーヌはつまり、2つ目の山の頂上のほんの少し手前で、ノーマルバイクからTTバイク「ボリッド(フランス語で火の玉、高速車)」にさっと素早く乗り移った。都合上、第2計測タイムが少々遅れてしまおうが(アルベルト・コンタドールから11秒遅れ)、そんなものはまるで気にも留めずに。

雨が降り出す前に、トップタイムを叩き出したのはティージェイ・ヴァンガーデレンだった。第1週目で総合争いからあえなく脱落した昨大会の新人賞は、汚名返上とばかりに暫定首位に立った。この若きアメリカ人チームメートから、ほんの14分後に走り出したフィリップ・ジルベールは、コース中盤で土砂降りの雨にたたられた。ただし不幸に見舞われたのは、幸いにもほんの一部の選手だけ。2013年ツール・ド・フランスを初めて邪魔しにやって来た思い黒雲は、至極あっさりと、頭上から立ち去ってくれた。路面も急速に乾いていく。時折り、あちらでポツリ、こちらでポツリと水滴は落ちてきたけれど、ラスト15選手が雨に足を引っ張られることはなかった。

雨上がりには、スペイン軍団が驚異的な山の脚を見せつけた。「ブエルタにいるような気分にならなかった?」と、フルームに冗談のような質問が飛んだほどだ。真っ先にセンセーションを巻き起こしたのは、アレハンドロ・バルベルデ。風ステージで総合2位から転がり落ち、この日は総合15位の場所からスタートを切ったスペインの「エル・インバティド(無敵)」は、「TJ(ティージェイ)」の記録を1分20秒以上も塗り替えた。

これ以上の衝撃を、ホアキン・ロドリゲスがもたらすことになる。タイムトライアルが自身最大の弱点で、幾度も、特に2012年ジロをTTで失った「エル・プリト(小型葉巻)」が、51分43秒20というとてつもないトップ記録を叩き出した!2度目の上り途中のメカトラで、予想以上に早い段階でTTバイクへの交換を強いられたにも関わらず、である。

これもまた、アルベルト・コンタドールに、0.73秒差で打ち砕かれてしまうことになる。「エル・ピストレロ(ガンマン)」は、総合勢としては珍しく、スタートからゴールまで、ディスクホイール搭載車1台で全力疾走した。しかし、得意のピストルを、表彰台の上でぶっ放すことはできなかった。念願の区間優勝に、あと9秒足りなかった。

「いい走りができたから嬉しいけれど、ほんのわずかの差で勝てなかったのは残念だ。最後の下りで雨が降ったから、少し速度を緩めることに決めたんだ。だって昨日、転んだから。フルームの方はリスクを冒したのかどうかは分からないけど、とにかくボク自身はリスクを冒したくなかった」(コンタドール)

来る難関3連戦に向けて好調さをアピールしたスペイントリオに対して、オランダ軍団は少し勢いを落としてしまった。しかも総合6位だったローレンス・テンダムは、ラスト5kmの左カーブで大きく道を外れ子供と衝突。総合2位だったバウク・モレッマは、ペローや新城が引っくり返った魔のカーブで、こちらはフェンスに激突。それぞれに「子供がそれほど問題ない様子で、安心してる。ボクはリスクを冒しに行って、逆に30秒失ってしまった」(テンダム)、「下りでブレーキが上手く効かなくて、自信がなくなっていた。カーブを切るのが遅すぎた。転ばなかったから大した問題ではないけれど、5秒くらいは失ったかな……」(モレッマ)と、悔しそうなコメントを残している。

すなわちマイヨ・ジョーヌを除く、総合2位以下の「表彰台争い」や「トップ10入りの戦い」は、様々な動きがあったことになる。コンタドールは総合2位にジャンプアップしたし、確実なTTを実現させた同僚ロマン・クロイツィゲルは3位上昇。モレッマは2位から4位へと下落しただけでなく、表彰台まで1分半以上もの差を喰らった。コロンビアの星ナイロ・クインターナは5位キープ。プリトはテンダムとの位置を入れ替えて6位へ。さらにペローの離脱により、総合10位圏内に1つ空席ができ、前日11位だったミカル・クヴィアトコウスキーが滑り込んだ(9位)。

「ただね、ボクのライバルは、スペイン勢だけじゃないんだよ。オランダ勢も、それからコロンビア人やチェコ人だって、まだまだ総がかりで戦いを挑んでくるだろう。特にコンタドールは、総合の遅れがたとえ4分半あろうが、総合優勝に向けて最後の最後まで攻撃を仕掛けてくるはずだ。ボクもパリまで、全力でジャージを守っていく。ラルプ・デュエズでの区間勝利?確かに伝説の山ではあるけれど、今のボクにとって一番大切なことは、ジャージの保守だよ」(フルーム)

表彰式の喧騒が去り、ゴール地の撤収が始まった頃、バケツの底を抜いたような雨が落っこちてきた。翌日の、100回記念大会最大の目玉ラルプ・デュエズの2回登坂も、雨の予報が出ている。フルームを筆頭に、多くの選手たちが「(ラルプ直後の)サレンヌ峠から下りは危険すぎる。イベント的要素も大切だけど、安全が第一。雨で危険な場合は、下りを中止して、ラルプ・デュエズ1回で終わりにして欲しい」と声を上げている。コース責任者ジャンフランソワ・ペシューは、第17ステージ終了時点では、「コース変更は一切行わない」と明言している。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ