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パリまであと残すところ3日。いまだやり残したことがある選手たちは、大急ぎで帳尻合わせに向かわねばならない。望みは、当然、立場やチームによって様々だ。区間勝利に、総合争いに、チーム総合順位に、さらには白地に赤い水玉模様の「マイヨ・ジョーヌに次ぐ人気者ジャージ」!特に5つの峠が立ちはだかり、最大75ptを回収できる今ステージは、山岳賞を追い求める選手にとって絶好のチャンスだった。
「この山岳ジャージを夢見ていたけれど、でも人生においては、常に望んだものが手に入るとは限らない。クリス・フルームやナイロ・クインターナという山岳巧者がいるし、山頂フィニッシュのポイント2倍ルールのせいで、ジャージ獲りは本当に難しい。だからこの先は、ジャージではなく、区間勝利に集中して行く。さもないと、あべこべの走りをしちゃいそうだから」(ピエール・ローラン)
7月14日、モン・ヴァントゥの山頂で大切な赤玉シャツを失った直後に、ローランはこう語っていた。前夜には名誉挽回を期して、ラルプ・デュエズで飛び出しを企てた。ただあえなく、空振りに終わっていた。そしてこの朝、スタートから巻き起こった40人規模のアタック合戦に、今日こそはと飛び乗った。
総合5位以内を目標に据えて100回大会に乗り込んできた26歳は、マドレーヌ峠で頭角を現した。先に独走していた2012年ジロ覇者ライダー・ヘシェダルに追いつくと、簡単に振り払った。山岳ポイントを順調に積み重ね、さらに単独先頭を突っ走る……。ところがゴール前20km、最終峠コル・ド・ラ・クロワ・フリの登坂途中のことだ。後ろから猛スピードで追い上げてきた人物に、至極あっさりと抜き去られてしまったのだ!
区間だけでなく、赤玉ジャージさえも、あとわずか1pt足りずにつかみ損ねた。翌20ステージはこの可愛らしいジャージを着て走るけれど、あくまでもフルームからの「貸与」に過ぎない。
「今日はむしろ区間勝利を考えていた。山岳ジャージは、状況によっていけるかもしれないと思っていた。でも1人で走っていた時間が長かったし、ファリアダコスタに追い抜かれて、気持ちが切れてしまったんだ。そうしたら疲労も一気に襲ってきた。明日は総合本命たちが区間勝利を取りに行くだろうし、最終峠には50ptが付く。だから山岳賞を取り戻すチャンスは、正直言ってかなり少ないと見積もっている。それでも、チャンスがあることは確かだ」(ローラン)
フレンチクライマーの夢を叩き割ったのは、20人程度の追走集団から飛び出したルイアルベルト・ファリアダコスタだった!すでに第16ステージで両腕を天に突き上げているポルトガル人は、貪欲に、たった1人で2度目の栄光へと突き進んだ。
3日前も、ゴール直前のマンス峠上りでアタックを仕掛けた。「上りで時間を稼ぎ、下りは余裕を持って走る」の方程式を、見事に成功させた。この日も作戦は同じ。コル・ド・ラ・クロワ・フリの山頂までに、得意の登坂力で後方を約1分引き離した。激しい通り雨に濡れた下りは、慎重にこなした。フィニッシュラインにたどり着いた時には、いまだ48秒のリードを保っていた。何種類ものガッツポーズに、おまけにVサインを披露する余裕さえあったほどだった。
「うん、確かに同じようなやり方で勝ったね!でも、前にローランが飛び出していたから、少々難解ではあったんだ。それにスタート時に思っていたほど、自分の調子が良くなかったし。だから体力を温存しながら最後の上りを待って、ローランを抜き去った。2勝を上げられて本当に嬉しい。しかも今回は100回記念大会だから、ボクにとっては、よりいっそう大きな勝利だよ!」(ファリアダコスタ)
運がなかったのはローランだけではない。アンドレアス・クレーデンも、下りを利用して必死に前を追いかけたけれど、奮闘むなしく区間2位で1日を終えた。やはり3日前のギャップでも、ファリアダコスタを追いかけて、区間5位(2位集団)に泣いた。そして9年前の……ここル・グラン・ボルナンでも、ランス・アームストロングに小集団スプリントで打ち負かされ、区間2位に沈んでいる。そう、今は失墜したボスが、例の有名な「ノー・ギフト」のセリフを吐いた日のことである。
マイヨ・ジョーヌ集団内では、サクソ・ティンコフが、ステージ前半からコントロール権を握り締めた。平地や下りではマッテーオ・トザットが激しくプロトンを牽引し、上りではニコラス・ロッシュがテンポを刻んだ。逃げ集団にさえ、ヘスス・エルナンデスとセルジオ・パウリーニョを送り込んだ。「アルベルト・コンタドールがアタックを仕掛けるに違いない!」、「またしてもゴール前の下りか?」と誰もが色めき立った。しかもサクソボーイズの超高速リズムが、フルームの周りから、スカイのアシスト勢を次々とむしり取っていった。最終峠に入る頃には、護衛役はリッチー・ポート1人になっていた。
ところが、コンタドールは極めて珍しく、自発的には動かなかった。むしろ、積極的にアタックするつもりなどなかった、と言うのだ。
「今日のチームは素晴らしい仕事をしてくれた。あれはチーム総合首位を守るための動きだったんだ。たしかに、ボク自身でアタックしてもいいかな、と思った瞬間もあった。調子が良かったからね。でも、ロマン・クロイツィゲルと離れずに走ることが、やっぱりベストだと考えたんだ。下りアタック?いやいや、雨が降ったから、今日はあれほどの危険は冒すつもりはなかったよ(笑)」(コンタドール)
つまり肝心のチーム順位は、コンタドール、クロイツィゲル、そして逃げに乗ったヘルナンデスの三者が上位タイムを叩き出したおかげで、総合首位を守り抜いた。ただレディオシャックが2位クレーデンと、やはり逃げていた3位ヤン・バークランツのおかげで、3位12分29秒差から2位3分39秒差へと一気に詰めてきた。個人がダメなら、せめてチームだけでも……と願う両チームの、第20ステージの動きには密かに要注目だ。
すでにマイヨ・ジョーヌから5分11秒も離され、逆転首位が絶望的になった総合2位コンタドールの代わりに、総合トップ10や表彰台の「より上」の位置がいまだ諦め切れない選手たちが、小さな攻撃に転じた。最終峠では総合11位アレハンドロ・バルベルデが真っ先にアタックを仕掛け、幾度も畳み掛けた。表彰台まで26秒差のホアキン・ロドリゲスも加速を打ち、逆転総合2位まであと21秒のナイロ・キンターナは、山頂で抜け駆けにトライした。両者の駆け引きには、さすがのコンタドールも反応せざるを得なかった。またゴール前のダウンヒルでは、前夜のサレンヌで見せたダウンヒルアタックの比ではないけれど、やはり総合4位クロイツィゲルを使ってコンタドールは集団スピードを上げた。
バルベルデの大胆さはついに実を結ぶことになる。ライバルを数人蹴落として、総合9位へとジャンプアップを果たした。ちなみに本日の大エスケープ集団に滑り込んでいたダニエル・ナバーロは、もっともっと上手くやった。なにしろ総合13位から、一気に8位格上げを成功させたのだから。一方、表彰台の2番目と3番目の場所を巡る人々は、ゴール地にみんなまとめて転がり込んだ。総合2位〜5位の4人は、相変わらず47秒差以内でひしめいている。
そして黄色いジャージのフルームは、ただひたすら、コンタドールの一挙手一投足だけに集中しているようだった。もちろん、雨や疲れや、低血糖症に足元を救われぬよう、十分に気を払うことも忘れなかった。幸いにもアタックは数える程度だったし、ポートの支援体制も十分に機能した。
「それほど静かなステージでもなかったんだよ。サクソは雨の中、最後の上りで加速を強いてきた。それから、下りでも、雨の中でスピードを上げた。あれは危険な行為だよ。でも全てのアタックに反応することができて、満足している。それに今日はしっかり補給も取ったしね。かなりホッとした」(フルーム)
前日までは「パリのフィニッシュラインまで、マイヨ・ジョーヌ争いは分からない」と極めて慎重な姿勢を崩さなかったフルームも、この日のゴール地では、「あと125km」という言葉を何度も繰り返した。そう、パリ前夜の第20ステージ最終決戦は、峠こそ6つ突き立っているものの、距離は極めて短い。
「明日は総合争い最後の日。すごく興奮しているよ。だって125kmで5分間を失うなんて、ほとんどあり得ないくらい難しいことだから。もちろんボクらチームは警戒を解いてはならないし、最後の最後までステージを制御し続けなければならない。そうすれば明日の夜は、シャンゼリゼ入りを翌日に控えて、ようやくリラックスできるからね」(フルーム)
マイヨ・ヴェール姿のペーター・サガンは、27分19秒遅れの大集団でゆっくりとフィニッシュラインを越えた。パリまで2ステージを残して、ポイント賞2位マーク・カヴェンディッシュとのポイント差は102pt。あと2日間で手に入る最大ポイントは105ptだから、第19ステージ33.5km地点の中間ポイント(最大20pt)を越えれば……、シャンゼリゼで2年連続の緑色の栄光が確定する!もちろん、完走が条件だ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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