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スタート直後に、ハビエル・アラメンディア、アレックス・ラスムッセン、グレゴリー・ヘンダーソンの3選手が飛び出した。今大会初めてのエスケープは、その後100kmほど進むまでは、静かに放っておかれた。
なにしろ区間争いの選手にとっても、総合争いの選手にとって、ついでに言えば総合・ポイント・山岳・複合の4色ジャージ争いの選手にとっても、この日の勝負ポイントはただ1カ所しかなかったからだ。つまりラスト11km地点から始まる1級山岳だけ。だからメイン集団は慌てて追いかける必要などなかった。マイヨ・ロホ擁するアスタナ プロチームは、ただ淡々とコントロールに努めた。タイム差は大量13分20秒にまで開いた。
ゴールまで残り60kmほどに近づいてからようやく、プロトンはじわじわと前方3人との距離を縮めて行った。それでもアクセル全開でふかしたのは、ゴール前16km、つまり登坂開始5kmに迫ってから。有力候補を抱える数チームが、突如として、集団前方へと競りあがった。山道へと好ポジションで飛び込むために、激しい位置取り合戦が繰り広げられた。
先頭を勝ち取ったのは、アレハンドロ・バルベルデ擁するモヴィスターだった。逃げ続けた3人をあっさりと回収し(ラスムッセンだけは敢闘賞で報われた)、入れ替わるように飛び出しを試みたアメッツ・チュルーカも決して遠くへは行かせなかった。ホセ・エレーダが厳しいリズムを刻み、メイン集団を後方から少しずつ分解して行った。
グロバ峠で最も難しい勾配10%ゾーンを、ようやく過ぎた頃のことだ。ゴールまで7km地点で、オレンジ色のジャージが、数人ぱらぱらと遅れ始めた。今シーズン末でチーム創設以来19年の歴史を閉じるエウスカルテル・エウスカディのために、「総合優勝をもたらしたい」と意気込んでいたサムエル・サンチェスが、大いに喘ぎ苦んでいたからだ。
「突然、あらゆる力がなくなって、ペダルが漕げなくなってしまった」(サンチェス)
総合有力選手の不調を見て取るや、非情にも、エレーダはよりいっそう足に力を込めた。しかもパンプローナ(歴史的なバスク地方と見なされている)に本拠地を置くモヴィスターは、バスク集団のアストゥリアス人を完全に突き放すために、山男シルヴェスタ・シュミットを前線へと送り込んだ。前夜のチームタイムトライアルばりに、エウスカルテルは必死で追走を試みるも、無駄な抵抗だった。大会2日目のゴール地にたどり着いたときに、サンチェスは2分41秒を失っていた。総合ではすでに3分41秒遅れとなる。サブリーダー格のミケル・ニエベだけは、幸いにも、メイン集団で1日を終えた。
モヴィスターの猛攻は、もう1人、大きな犠牲者を生んだ。シュミットのテンポに、ゴール前4.5km、今度はスカイ プロサイクリングのリーダー、セルジオルイス・エナオモントーヤが息切れしてしまったのだ!
そしてこの日、同じコロンビア出身でアシスト役であるはずのリゴベルト・ウランは、同僚を待たなかった。春先のジロ・デ・イタリアでは、遅れたブラドレー・ウィギンスを「待つように」指示され、おかげで大きくタイムを失ったものだが……。スカイの監督陣は、同じ過ちは繰り返さなかった。やはりエナオモントーヤは2分41秒遅れでゴールし(総合2分49秒遅れ)、一方でウランは他の強豪たちと同タイムで山頂のフィニッシュラインを越えている。
モヴィスターは牽引役を最大5枚にまで増やし、サンチェスやエナオモントーヤから希望を奪い去り、コロンビアから帰国したばかりのカルロス・ベタンクールをも遠くへと置き去りにした。マイヨ・ロホを着るヤネス・ブライコヴィッチも、さんざん苦しませた挙句に、最後に突き放した。ただし山の上での栄光を、争いには行かなかった。
「こんな素晴らしい1日の終わりに、区間を勝ちに行けなかったなんて、ちょっとほろ苦い味がするよね。でも、それ(区間勝利)が目的ではないから」(バルベルデ)
その代わりにレオポルド・ケーニッヒが、ゴール前1.5kmでアタックを仕掛けて、ステージの終わりに熱を吹き込んでくれた。なにしろチェコ一周総合覇者にして、ツアー・オブ・カリフォルニアでは区間勝利を上げた注目株の攻撃に、「プリト」の右腕ダニエル・モレーノ、Ag2rのエース役ドメニコ・ポッツォヴィーボ、さらにはサクソ・ティンコフが贅沢に揃える4枚の切り札の1人、ニコラス・ロッシュが次々と反応したからだ!
「ケーニッヒが飛び出したとき、今こそボクのチャンスだ、と思ったんだ。だってスプリントにもつれ込んだら、バルベルデのような選手には勝てないから。だから飛び出した」(ロッシュ)
その中でも、「1年以上勝っていないから、絶対にこのブエルタでは区間勝利を上げたい」と開幕前に意気込みを語っていたポッツォヴィーボが、「それほどボクの脚質には合っていなかったんだけど」と言いながら、ラスト1kmから畳み掛けるように加速した。しかし、2011年ツアー・オブ・北京第3ステージ以来、約2年近く勝ってなかったロッシュのほうが、勝利への渇望は大きかったようだ。ゴール前500mで抜き去ると、そのまま1級山頂で両手を天につき上げた。
「とにかく冷静でいるよう心がけた。かなり遠くからスプリントを始めて、そのままフィニッシュラインまで押し切った。本当に嬉しい。ようやく、解放された気分だよ。だって自分のキャパシティを徐々に疑い始めるようになってしまっていたし、勝てないことにフラストレーションも感じていたからね。でもチームメートのロジャースから、絶対に、もうすぐ勝てる、と言われていた。そして、ボクはついにやった。しかも一番お気に入りのブエルタで!(ロッシュ)
過去4度参戦したブエルタは、全て総合16位以内で終えてきた(2010年は繰り上がり6位)。「ブエルタとは相性がいい」と、常々語ってきた。つまりスペインで、勝つべくして、勝ったのだ。2歳年下の従兄弟ダニエル・マーティンに遅れること2年、待望のグランツール区間初勝利だった。しかも1987年にジロ&ツール&世界選手権全制覇を成し遂げた「パパ」ステファン・ロッシュさえ手に入れたことのない、貴重なブエルタの勝利(ステファンは1992年大会の1回参加のみ。1994年までブエルタは春開催だったため、ジロやツールとの連戦は非常に難しかった)。さらに区間勝利には3色のジャージ、緑=ポイント賞、青玉=山岳賞、白=複合賞さえもついてきた。
メイン集団に最後まで居残った総合勢の面々は、ホアキン・ロドリゲスが12秒遅れで先んじた以外は、みな揃って14秒遅れのメイン集団でゴールした。つまり前夜チームメートに首位通過&マイヨ・ロホを譲ったヴィンチェンツォ・ニーバリが、至極あっさりと、2日目で赤色のジャージを身にまとうことになった。
「今日のようなフィニッシュは、ロドリゲスやバルベルデに向いていた。だからボクはただ、総合争いのことだけを考えて走り続けた。状況をきっちりコントロールするよう心がけたんだ。全てが上手く行った」(ニーバリ)
ボーナスタイムを手に入れたロッシュは、総合では8秒差の総合2位につける。また初日TTTでファビアン・カンチェッラーラが疾走してくれたおかげで、レディオシャックのアイマル・スベルディアにクリストファー・ホーナー、ロベルト・キセロフスキーが10秒遅れで総合3〜5位の座を、ベン・ヘルマンスが27秒遅れで7位の座を占める。結局はリーダーを張ることになりそうなウランは22秒差の6位に、最終峠でチームを働かせたバルベルデは27秒差の総合8位につけた。ロドリゲスはわずか2秒だけ接近したものの、ニーバリからの遅れは57秒と、いまだに大きい。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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