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サイクル ロードレース コラム 2013年9月5日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2013 第11ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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戦いの舞台はスペイン北部へと移り、後半戦が始まった。1度目の休養日を終えて、仕切りなおしの個人タイムトライアルは、2つの主要テーマで彩られた。1つ目は来る世界選手権へ向けた、スペシャリストたちの前哨戦。そして2つ目は、この先の10日間のめくるめく激戦へと誘う、マイヨ・ロホを巡る男たちの争いだ。

185人中52番目に走り始めたトニー・マルティンが、まずは51分37秒のトップタイムを記録した。アルカンシェルジャージを身にまとう現役世界チャンピオンは、そもそも、「今シーズンの個人タイムトライアル全勝」という、とてつもない野望を抱いていた。さすがに全勝は無理だったけれど、ここまでの8ヶ月で、10戦8勝。苦渋をなめたのはツール・ド・ロマンディのプロローグと、ツール・ド・フランスの山岳TTの2回だけ。ちなみに、いずれも2013年ツール覇者のクリス・フルームの前に、屈している。

「自分の走りには満足している。向かい風に立ち向かう必要があったけれど、それでも、好スピードを保てた。上りさえも上手くこなせた。調子もいい。世界選手権へ向けて、大切な一歩を踏み出すことができた」(マルティン)

しかし、36分後に出走したファビアン・カンチェッラーラが、全てを凌駕した。3級峠がコースの真ん中に聳え立つコースの、第1タイム計測(=山の上り始め)では14秒、第2タイム計測(=山を半分ほど下った地点)では34秒、そしてゴールでは37秒のリードを奪い去った。記録は51分00。「カンチェッラーラは、頭一つ抜け出していた」と、ライバルのマルティンも、ただ称賛するしかなかった。……山頂でのタイムだけは、予想外なことに、ヒルクライマーのドメニコ・ポッツォヴィーボが先頭に立つのだけれど!

「厳しいコースだった。完璧なスペシャリスト向けというわけじゃなかった。自分自身にこう言い聞かせながら走った。『自分のレースをしろ。自分のペースで走れ。とにかく自分にぴったりのリズムを見つけ出すんだ』って」(カンチェッラーラ)

年頭に「今年はタイムトライアルに重きをおかず、春クラシックに集中する」と宣言したスイス人は、E3→フランドル→ルーベと3つのワンデーレースを圧倒的な力でもぎ取った。その一方で、タイムトライアルはオーストリア一周と国内選手権の2勝のみ。しかも8月上旬のポーランド一周では、2012年ツール総合覇者ブラッドレー・ウィギンス相手に、タイムトライアルで大敗を喫していたのだが……。

「区間を勝てたのはステキだけれど、ただ勝つだけじゃなく、細部にこだわることも大切なんだ。正しいホイールを選べたか、とか、そういうこと細かいことに関してね。その点でも、最高の1日になった。なにより、ボクにとっての第1目標は、世界選手権に向けて仕上げること」(カンチェッラーラ)

過去4度世界王座に君臨し、北京五輪でも金メダルの栄光を手にしたカンチェッラーラは、どうやら本番に向けて順調に仕上げしつつある。しかも、アシストとして「クリストファー・ホーナーのためにたくさん仕事」しつつ、第4ステージ上りフィニッシュで区間2位、第6ステージで区間3位と、ロード種目への対策さえも怠りない。もちろん、マルティンの方も、第6ステージで170km以上の一人逃げをかますなど、好調さをうかがわせる。

2人の次なる激突……つまり世界選手権男子エリートタイムトライアルは9月25日水曜日。地形はこの日とは全く違う。ほぼ完璧なる平坦だ。

そして、タイムトライアル2大巨頭のすぐ後に続いたのが、ポッツォヴィーボだった。第1中間地点ではカンチェッラーラから5秒遅れ、山頂では13秒リードという目を疑うような数字を並べたヒルクライマーは、最終的に1分24秒遅れでフィニッシュラインへと飛び込んだ。

「すごくハッピーさ!午前中に下見をした際に、いい感触を抱いていた。ボクのような小柄な人間には、ちょっと風が強すぎるかなとも感じたけどね。その通り、風の多い下り部分では、カンチェッラーラのように速くは走れなかったけれど、この成績にとてつもなく満足している。おかげでやる気がわいてくる。いい走りが続けられたら、トップ5入りも狙えると思う」(ポッツォヴィーボ)

休養日前のステージを総合10位で終えたイタリア人は、この驚くべき走りで4人を一気にごぼう抜き。総合6位にジャンプアップした。しかも、すぐ上の総合5位ホアキン・ロドリゲスまでは、わずか11秒差に迫った。そう、ロドリゲスは、ツールの山岳TTでこそ目を見張る成績を上げたものの、この日はいつものTT苦手なプリトに逆戻り。カンチェッラーラからは3分01秒を、マイヨ・ロホ候補としては最高成績を記録したヴィンチェンツォ・ニーバリからは、2分36秒を失った。

一方でニコラス・ロッシュは23秒遅れ、前輪パンクという不運に見舞われたアレハンドロ・バルベルデは27秒遅れと、むしろニーバリ相手に好走を見せたと言ってもいい。なにしろこの春のジロで、ニーバリは2度のタイムトライアルを、いずれも好成績で終えている(1度目はマリア・ローザを獲得、2度目は区間を獲得)。この日も、冬季間に強化に励んだというタイムトライアルが、シチリアっ子を総合トップに押し出した。……最終走者のクリストファー・ホーナーから、1分29秒とマイヨ・ロホをむしり取って。

2度失ったマイヨ・ロホ(第2ステージ、第4〜7ステージ)を、ニーバリは見事に取り戻した。休養日に蜂に刺され、両まぶたがぷっくりと腫れあがり、サングラスを外せない状態だったにも関わらず!

「(蜂に刺されたことが)今日のパフォーマンスに影響したかどうかは分からない。今朝になって、腫れもずいぶん引いてきたんだけど、まだ痛みはあった。徐々に良くなってきているし、アレルギーもない。UCIから目の腫れに効く薬品の使用許可をもらってはいるけれど、MPCC(信用ある自転車競技のためのムーブメント、アスタナが参加している団体)が同意してくれるかどうか分からない」(ニーバリ)

2010年ブエルタ覇者の後ろを、33秒差でロッシュが、44秒差でバルベルデとホーナーが追いかける。マイヨ・ロホ候補は、果たして4人に絞り込まれただろうか。2分33秒差のプリトに、いまだ反撃の余地はあるか。

「ここから、いよいよ、重要な山岳ステージがやってくる。タイムトライアルが終わっても、ボクのメインライバルは変わらない。ロドリゲスに、バルベルデ、それからホーナーだ。いや、特にロドリゲスとバルベルデかな。たとえロドリゲスが、今日、大きくタイムを失ったとしてもね」(ニーバリ)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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