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マドリード到着まで48時間。総合争いがひっくり返った。すでに3秒しか貯金を残していなかったヴィンチェンツォ・ニーバリが、わずか5.7kmの山道の……正確に言えばラスト1kmで、6秒の損失を出した。大会序盤からいくつも記録を塗り替えてきたクリストファー・ホーナーは、41歳と325日で、またしても、自らの保持していた「最高齢グランツールリーダージャージ」記録を更新した。つまり2人の差は3秒。今大会最難関のアングリルが、文字通り、マイヨが・ロホ決戦の地となる。
猛スピードでレースは走り出した。そもそもスタート前から、ウォーミングアップにみな余念がなかった。しかも、広くゆったりとしたニュートラルゾーンを終えて、0km地点のアーチを潜り抜けると、道は途端にジェットコースターに変わる。透き通ったエメラルド色の海を、心静かに眺める余裕など、今日のプロトンにあるはずもない。
抜け出したのは大量20人。全22チーム中15チームが精鋭を送り込んだ巨大な集団は、序盤1時間を時速49.9kmという高速で駆け抜けた。ただし、どうしても、メインプロトンから2分半以上のリードを奪うことはできなかった。なにしろ後方ですぐに、前に乗り遅れたカチューシャが、厳しいテンポを刻み始めたからだ。
思い通りのリードが手に入らないことに、業を煮やしたのは、エドヴァルド・ボアッソンハーゲンとゲオルグ・プライドラーだ。88km地点で抜け駆けを敢行すると、18人の仲間を置いて、さっさと先へと旅立った。確かにその後、2人は3分近い差を手に入れたのかもしれないが……。
実のところ、エスケープ集団内で小さな収穫を持ち帰れたのは、(敢闘賞を手にしたボアッソンハーゲン以外)ニコラ・エデだけなのだ。青玉ジャージを着込だフレンチヒルクライマーは、ボアッソンハーゲン&プライドラーを追い上げる8人の集団にきっちり居残った。一方で山岳賞レース2位のダニエーレ・ラットは、最初のエスケープには滑り込めたのに、2つ目の波には乗り遅れた。おかげで区間1つ目の3級峠では、エデはそれほど邪魔立てされることもなく、3位通過権を勝ち取った。すなわち1ポイントを加算し、「真のライバル」であるホーナーとの差を、16ptに開いた。
残す第20ステージの4峠で、獲得できる最大ポイントは33。超級アングリルだけで考えれば15ポイント。すると、もしもホーナーが逃げに乗らず(この可能性は大きい!)、エデ本人、もしくはコフィディス・ソリュシオンクレディのチームメートが手前3峠でポイントを取りに行った場合、もしかしたら、念願の「ダヴィド・モンクティエの後継者」が誕生するかもしれない。
「脚の調子は、昨日よりもずっと良くなっている。とにかく明日、結果が出るんだ」(エデ)
ステージも終盤に入り、起伏の幅が徐々に大きくなっていくにつれて、ボアッソンハーゲン&プライドラーの余裕は少なくなっていった。メイン集団内でカチューシャはますます追う脚を速め、そこに大小の飛び出しがアクセントを加えた。ついには区間2つ目の3級峠=ゴール前12.5kmへの山頂手前で、後ろから突進してきた数人に、2人は捕らえられた。プライドラーだけは少々粘るも、すぐに先頭独走の名誉をホセ・メンデスに譲った。
そのメンデスも、ゴール前1.2kmで、全ての努力を無駄にすることになる。なにしろホーナーに言わせれば「決して難しくはない」山道だったけれど、総合上位の強豪たちが、「とてつもなく難解な戦術ゲーム」を繰り広げたからだ。
3秒差を守りたいアスタナは、山の麓へ向けてトレインを走らせた。総合8位ティボー・ピノ擁するエフデジ・ポワン・エフエールは、山に入った途端に小さな隊列を組んだ。総合5位の座に決して甘んじず、もう1勝を貪欲に追い求めるニコラス・ロッシュは、サクソ・ティンコフのチームメートに命じてスピードアップを企てた。とりわけラファル・マイカがあまりに強烈な牽引を見せたものだから、あらかじめ前方で待ち構えていたモヴィスター チームのホセ・エレーダは、総合3位アレハンドロ・バルベルデの助けに下りて行く途中で千切れていったほどだ。
しかし、マイカが最後の力を振り絞ってメンデスを飲み込み、ロッシュにバトンを渡した、直後のことだった。現プロトンの中で、おそらく最も切れ味の鋭い上りパンチ力を持つ男が、ついに本領を発揮した。1日中チームメートを働かせてきたロドリゲスは、ラスト1kmのアーチの下で、弾丸のように飛び出していった。オビエドで生まれ育ち、ナランコ山はいわば「庭」のようなモノと語っていたサムエル・サンチェスが、慌てて加速するも、合流はとてもじゃないが不可能だった。
「これこそ、ボクが欲しかったもの。チームメートたちには、実は何度か、牽引をやめるよう言ったんだ。だって、自分が本当に勝てるのかどうか、確信が持てなかったから。最終盤の勾配は、ボクにとってそれほどキツクなかったからね。でも、勝利への小さな望みを、抱き続けていた。すごく嬉しい。ようやく笑顔を取り戻せた」(ロドリゲス)
大会序盤には、大の仲良しであり、アシスト役のダニエル・モレーノが、区間2勝&マイヨ・ロホ1日を手にした。対するリーダー本人は、どうも少々冴えなかった。「総合3位に入ったツール・ド・フランス」の疲労による、調子の減退も噂されていた。しかし、振り返ってみれば7月だって、3週目にじわじわと順位を上げて行ったのだ。ツールの第19ステージでは、今の総合4位よりもさらにひとつ悪い、5位だった。そして第20ステージで、47秒差を引っくり返して、総合3位の座へ駆け上がった。現在、ブエルタ総合3位につけるバルベルデとのタイム差は、51秒だ。
「今日の勝利が、信じられないくらいに、気持を高めてくれた。もう1つ勝ちたい。でも、総合優勝に関しては、かなり難しいだろうね。それでも、望みは持ち続けてる。他のライバルたちだって疲れてる。全てがガラリと変わる可能性はある。だってアングリルは、どんなミスも許さないからね。表彰台に上るために、全力を尽くすよ。夢を見ようじゃないか」(ロドリゲス)
そのバルベルデは、ホーナーと一緒にプリトから14秒遅れで山頂へとたどり着いた。つまり総合首位までの1分06秒差に変動はなし。また、ニーバリは20秒遅れのゴールで、ジャージを失い、無言のままフィニッシュエリアを立ち去った。代わりに大ベテランが、マイクの前で極めて饒舌になった。
「精神的にも肉体的にも、とにかく感触は良かった。でも、レッド・ジャージを取り戻そうとは思っていなかったけれど、ただ、なるようにして、ボクのところへ来ただけさ。もちろんマイヨ・ロホを着られて嬉しいし、明日は守りにいく。ボクには強いチームがついているから、山の麓までは連れて行ってくれるはずだ。そこから先は、ニーバリやバルベルデから目を離さないようにしなければならない。それに、おそらくプリトが、表彰台を奪い去るためにアタックを仕掛けるだろう。心配はしていない。もしも明日、いい脚があって勝てたら、最高だろうね。でも、たとえそうじゃなかったとしても、ボクは断言することができるはずさ。これは素晴らしいブエルタだった、って」(ホーナー)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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