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宇都宮の目抜き通りには、翌日の悪天候を予測させるように、重い灰色雲が垂れ込めていた。肌寒い秋の夕方に、明るいブルーのジャージが、勝利への扉をこじ開けた。2年前に同じフィニッシュラインを制したスティール・ヴァンホフが、この日も鮮やかな勝者となった。
宇都宮駅から真っ直ぐ伸びる大通りを贅沢に使用した、1.55km×20周のサーキットコース。シーズンの終わりの、長距離移動と時差ぼけで少々疲れた体を抱える16チーム・全89人の選手たちは、序盤は比較静かにエスケープを泳がせておいた。
「明日の本戦へ向けて調子を上げるために、少しもがこうかな……と動いたら、あっさりと抜け出せた。さらに周回が進むうちに、もしかしたら、スプリント賞がいけるかもしれない、と思い始めた。だから頑張ったんです」
こう語るチームNIPPO・デローザ所属の中根英登は、チャド・バイヤーとネルソン・オリヴェイラと共に、詰め掛けた約3万8000のファンの目の前で長時間の逃げを続けた。5周目に設置されている第1スプリントポイントでは、ライン100m前からの加速で中根がトップ通過。スプリント賞の証である緑色のジャージを手に入れた。
10周目の第2スプリントポイントでは、果たして逃げの友に紳士的に譲ったのか、それとも本人が行ったように「脚がもうなかった」のか。中根の2度目のダッシュには伸びが足りなかった。オリヴェイラに先にラインを割られることになる。しかもその翌周回、つまり戦いも後半戦に入った第11周回目で、レディオシャックのポルトガル人に、突然のスピードアップを強いられた。慌てて追いかけるも、中根はここで力尽きた。
オリヴェイラとバイヤーだけが、あとほんの少しだけ、旅を続けた。15周目の第3スプリントポイントで、オリヴェイラが静かに2枚目の緑ジャージをつかみとった背後では、メイン集団が猛烈な勢いで追走を開始していた。
キャリア最後の公式戦を翌日に控えた福島晋一が、13周回目で渾身のアタックを打ったこともあった。残念ながらワールドツアーの強豪たちによる非情な制御に、42歳のベテランは抵抗し切れなかった。
もちろん、1チーム5人という小さな単位での参戦形式だから、近年世界各国のレースで幾度となく見られてきたような、豪華な長い列車が仕立て上げられたわけではない。漆黒軍団スカイのローラー車が走ることもない。ガーミンシャープやオメガファルマ、キャノンデール、サクソバンク・ティンコフ、さらには日本が誇るブリジストン・アンカーが、次々に先頭へ躍り出ては、逃げ集団との距離を縮めていく。そして18周回目に突入した直後、長いエスケープは終わりを迎えた。
吸収直後から、青いガーミン・シャープのジャージが、俄然存在感を発揮し始めた。チームタイムトライアル要員として欠かせないジャック・バウワーとアレックス・ラスムッセンの2人が、パワフルな牽引力を思う存分に発揮した。一方で昨大会の表彰台3人を擁するクリテリウムスペシャルチームは、ディフェンディングチャンピオンのヤロスワフ・マリチが、積極的に日本の別府史之を連れて先頭に付けた。「残り一周」を意味する鐘の音が、宇都宮の大通りに鳴り響き、クライマックスの到来を賑やかに告げた。
ゴール前600mの、クリテリウム最後のUターンを回った直後に、あらゆる俊足自慢が熾烈なスプリントへとその身を投げ出した。2010年トラック世界選手権でスクラッチ銅メダルの盛一大も、加速を切った。別府史之も軽い上りの、しかも向かい風の中、前方へと躍り出た。
しかしフィニッシュラインのギリギリ150m手前まで粘ったガーミンのヴァンホフが、あらゆる敵をなぎ倒して、両手をまっすぐ天につき上げた。長年「カヴ」のリードアウト役を務めてきたベルンハルト・アイゼルと、今年からやはりカヴ用最終発射台の1つ手前を任されているマッテーオ・トレンティンとを両脇に従えて、2度目の宇都宮キングになった。
「また日本で走ることができて、この場に帰って来ることができて、本当に嬉しい。チームが素晴らしい仕事をしてくれた」
チーム内でたった1人だけかぶったエアロヘルメットが、25歳オージーの意気込みを、雄弁に物語っていた。
別府史之は日本人として最高位の5位に、さらにトップ10圏内には8位盛、10位大久保陣が喰い込んだ。2年連続ツール・ド・フランス「マイヨ・ヴェール」の本領発揮が期待されたペテル・サガンは、前週に抜歯したせいで抗生物質服用中であり、「本来走るべきではなかった」状態ながら9位で戦いを終えた。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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