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台風27号の影響で濡れた路面を、確かめるように。本場ツール・ド・フランスからやってきたプロトンは、静かなリズムで、さいたま新都心へと漕ぎ出した。
「海外選手は、落車の危険を恐れて、ポイントレースでは絶対に仕掛けてこないだろうと考えました。だから、チャンスをつかむなら、ここだ、と思っていたんです」(畑中)
海外32選手・日本23選手を2グループに分けて行われたポイントレースの第1レースで、読み通りに優勝をもぎとった畑中勇介は、こう語った。第2レース目も、やはり日本選手が地元の意地を発揮。中島康晴が勝者欄に名前を刻んだ。
メインイベントのクリテリウムレースが走り出すころには、幸いにも、すっかり路面は乾いていた。いよいよ海外組も本領発揮。1周回目の終わりには、アルカンシェル姿のルイ・コスタ、2013年ツール区間4勝マルセル・キッテル、マイヨ・ジョーヌのチームメートであるゲラント・トーマスといった超有名選手が、8人の逃げ集団に滑り込んだ。一周2700m(×20周)のきわめて短いサーキットコースに、テクニカルな直角カーブ7回+Uターン1回が詰め込まれていたせいで、エンジン全開のトップスピード走行……というわけにはいかなかったけれど。
それでもじわじわと走行速度が上がる中、7周目に差し掛かると、オリカ・グリーンエッジが黙々と仕事を始めた。20秒ほどあった差を詰めていき……日本の別府史之を発射!そのまま前方集団に追いついた別府は、ポイント賞が設置された8・12・16周回目のフィニッシュラインを、積極的に獲りにいった。こうしてポイント賞を確実なものとしただけでなく、最終盤の落車→自転車交換にも関わらず、2009年パリのシャンゼリゼ大通で見せたときのような熱っぽい走りで敢闘賞も獲得した。
「とてもエキサイティングなレースだった。いい走りが見せられたし、自分自身も走って楽しかった」(別府)
その背後では、福島晋一も、単独で集団の前方へと踊り出た。約1週間前のジャパンカップでキャリア最後のUCIレースを戦い、この日は、ファンの前で走る人生最後の機会だった。長い選手生活の締めくくりに、42歳は、一貫して示してきた「アタック精神」を改めて披露した。
「さいたまを最後の出口に選んで、本当に良かった。前に追いつけなかったら、ボクを応援してくれているアラフォーのみなさんをがっかりさせてしまう……。だから後のことは考えないで一踏み、一踏み、なんとか粘って行きました」(福島)
先頭集団に追いついたあと、「そこからもう1つ飛び出したかったな」……と笑う福島晋一には、たくさんのファンから「お疲れ様でした」の声が上がった。残念ながら、ラスト7周ほどのところで、エスケープ集団と共に福島もメインプロトンへと吸収されていった。
粘り強い別府がさらにレースをおもしろくかき回し、背後ではキャノンデールやアルゴス・シマノのトレインが厳しい制御を試みた。過去2年のツールでひどく恐れられてきたスカイの暗黒列車も、圧力を増してきた。そしてラスト1周半、黄・緑・虹の超大型アタックが、炸裂した。
2013年ツール・ド・フランス覇者クリス・フルーム、2012・13年ツールポイント賞サガン、2013年世界チャンピオンのコスタが、するりと集団から抜け出した。キッテルの編成する追走隊列をものともせず、豪華なトリオは先を急いだ。
ちなみにこの3人だけで、2013年ツール区間5勝(フルーム2、サガン1、コスタ2)。ワールドツアー個人ランキングは2位フルーム、4位サガン、9位コスタと、いずれも一桁台。もちろん、フルームは山岳とタイムトライアルにめっぽう強く、コスタはアップダウンコースでインテリジェンスな走りを見せ、スプリントならサガンにお任せだ。だからこそ、「サガンが一緒だと、勝てないかもしれないから」と、フルームは単独アタックを仕掛けた。ツール・ド・フランスの名を冠した大会だからこそ、絶対にマイヨ・ジョーヌが勝たねばならない、そんな使命を果たすために。
9月末の世界選手権は背中の痛みのせいで途中棄権し、仙腸関節の炎症でジロ・デ・ロンバルディアも欠場したフルーム。約1ヶ月ぶりのレースで、「最後は脚が動かなくなってしまった」けれど、ファンや開催委員会の期待にしっかり応える独走を披露した。フィニッシュラインではVサインを天に掲げながら、満面の笑みを周囲にふりまいた。
「日本の自転車熱の高まりを感じた。また来年のツール・ド・フランスでマイヨ・ジョーヌを獲って、そして来年のさいたまクリテリウムに戻って来たいね」(フルーム)
2位争いのスプリントを制した緑サガンは、本来パリならば「白」ジャージに値する新人賞に輝いた。虹色コスタは、同じく「赤玉」ジャージに相当する山岳賞となった。また「日本人ベストライダー賞」を意味する川室賞(1926年ぶツール・ド・フランスに史上初めて出場した川室競にちなんで)は、5位窪木一茂に贈られた。
日本チャンピオンジャージで臨んだ新城幸也は、早い段階で遅れ始め、29秒差の49位でゴール。「連日メディアやファンサービスに引っ張りだこで、おまけにボクらの日本滞在の世話もしてくれている。昨夜はご飯を食べる時間もなかったほどなんだから……」と、ユーロップカーのチームメート、ジェローム・クザンは体調不良だった新城を責めないで欲しいと訴える。
史上初めてのさいたまクリテリウム by ツールドフランスは、こうして華やかに幕を閉じた。通算20万人の観客を集めたイベントは、興行的には大成功。ASOツール・ド・フランス開催委員会も、さいたま市も、継続開催に前向きな意欲を示しているという。ゴール直後の喧騒が納まり、宵闇が迫る会場のあちこちでも、また来年、そんな挨拶の声が飛び交っていた。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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