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「ここまで移動、雨、落車、200km超3連戦……と、かなりナーバスな戦いが続いてきたけれど、ようやく落ち着いた感じ。これからは総合争いに集中することができるね」(エヴァンス)
カデル・エヴァンスは、2014年ジロ・デ・イタリアの最初の難関山岳ステージを大いに歓迎した。そしてピンク色に着替えた。本格的なマリア・ローザ争奪戦が始まった。
真っ先に前方へと飛び出したのは、10選手だった。中でもエドヴァルド・ボアッソンハーゲンは、いわるゆる「バースデー勝利」を狙っていた。初日のスヴェイン・タフト=37歳=マリア・ローザ、3日目のマルセル・キッテル=26歳=区間勝利に続いて、この日27歳になった卯年のおうし座も、何かしらの成功で誕生日を祝いたかったはずだ。ステファノ・ピラッツィはもちろん2年連続の山岳賞ジャージを。ジュリアン・アレドンドは、得意の山で区間勝利を。様々な思惑を乗せたエスケープは、後方に最大8分半のリードを奪った。
大会初の1級峠は、多くの選手のやる気を駆り立てた。しかも、このカルペーニャの山道は、夭逝の山岳王マルコ・パンターニの普段の練習場所だったという!こんな伝説の山で、ピラッツィは加速を切った。アレドンドとペーリ・ケムヌールだけを引き連れて、グングン山頂を目指した。メインプロトンでは、モビスターが前方で隊列を組み上げた。ナイロ・キンタナの攻撃に備えて、チームメート4人が猛烈な牽引を行った。
しかし、この日は多くの選手が、先頭から引きずりおろされる運命にあったようだ。6日間マリア・ローザを守り続けたマイケル・マシューズは、寂しそうな笑顔で、後方へと消えていった。モビスターのアシストたちはすぐに体力切れに陥り、AG2R・ラ・モンディアルに統率権を奪い取られた。なにより、気合たっぷりで繰りかえしアタックを仕掛けたピラッツィは、アレドンドの一発にあっさり振り切られた。残り38km、コロンビア産ヒルクライマーが単独で先頭に立った。
昨年も一昨年も、ちょうど今頃は、ニッポの一員としてツアー・オブ・ジャパンへ参戦していた。2012年には南信州ステージも制している。今年のアレドンドは、戦いの舞台をグランツールに移し、新たな優勝を追い求めていた。孤独に走る間に、青いジャージの権利は、自動的にやってきた。
「でも目標は、とにかく、区間を勝つこと。それだけだった。山岳賞なんか、ボーナス程度にしか考えていなかったよ。ラスト3kmまでは、本気で勝てると思っていた」(アレドンド)
153km逃げた末に、アレドンドもやはり、先頭から転がり落ちることになる。後方から1人で追いかけてきたピエール・ローランに、ゴール前3kmで捕らえられ、残り1.8kmで振り切られたのだ。
「今夜イタリアに来る妻と、それから生まれてくる子供に、勝利をプレゼントしたかったんだ。脚の調子は良かった。それにジロ開幕時から、チームメートたちがものすごくいい仕事をしてくれたし」(ローラン)
ゴールまで30km。2011年ツールでラルプデュエズを制したフレンチヒルクライマーは、1級峠からの下り坂で、メイン集団から飛び出していった。幸いにも前方にはケムヌールが待っていた。同僚の助けを得て、まずはボアッソンハーゲンを追い抜いた。それからピラッティと、アレドンドを捕らえて、追い越した。
「信じた。信じたよ。あとほんのわずかのところまで、勝利に近づいた。あと少しで、全てがうまく行くはずだった」(ローラン)
AG2R・ラ・モンディアルはアシスト3人体制で長時間に渡って牽引し、集団内から多くの邪魔者をそぎ落としたが――2011年ジロ覇者のミケーレ・スカルポーニが、真っ先に落ちた――、肝心のリーダー、ドメニコ・ポッツォヴィーボは目立った行動は起こさなかった。カンスタンティン・シウトソウやラファル・マイカ、ミケル・ランダは小さな謀反を起こしたが、エヴァンスのアシスト、スティーブ・モラビートが集団にきっちり蓋をした。有力者たちのリズムは淡々としたまま上がらなかった。
ラスト1km地点でも、ローランのリードはいまだ17秒残っていた。信じた。本人だけでなく、多くの関係者が、逃げ切り勝利を信じた。ダニエル・モレーノが、ゴール前450mでアタックを仕掛けるまでは。
スパークリングワインの蓋が開いた瞬間のように、一気に、メイン集団から選手たちが走り出していった。ローランは何の抵抗も出来ぬまま呑み込まれた。アレドンドのチームメート、ロベルト・キセロフスキーが先行し、そして、フィニッシュラインの75m手前でディエゴ・ウリッシが先頭に立った。もはや誰からも引きずりおろされることはなかった。先頭のままで、ウリッシが2つ目の頂上フィニッシュを手に入れた。
「最後の上りはボク向きだと分かっていたんだ。昨日の夜、監督と一緒にロードブックを見直したし、グーグルマップで地形もチェックしていたから。でも、ローランが逃げを成功させるかもしれない、とハラハラさせられた。モレーノが飛び出した瞬間は、もう少し待とうと考えた。それからキセロフスキーが力強いアタックを仕掛けたから、今こそ動くべきときだ、と思ったのさ」(ウリッシ)
イタリア代表監督ダヴィデ・カッサーニに「この秋の世界選手権でリーダーを張れる素質がある」と称賛されたウリッシは、多くのメディアから「もしかして総合争いも行けるのでは?」と噂され始めている。24歳の本人に言わせると「今年はまだ!数年後は、もしかしたら……」とのことだが、8日目を終えた時点で、1分43秒差の総合6位につけている。
もちろん順調に、37歳のエヴァンスが総合首位に立った。リゴベルト・ウランが57秒差で2位に、ラファル・マイカが1分10秒差の3位(新人賞ジャージも獲得)に繰り上がった。この日だけでタイムを9分半以上も落としたスカルポーニに代わって、この先リーダー役を任されることになるファビオ・アールは1分39秒差の5位に。区間3位のボーナスタイムを手にしたウィルコ・ケルデルマンは1分44秒差の7位に。ラスト450mの小爆発を利用したキンタナは、エヴァンスとの差を2秒縮めて1分45秒差の8位にジャンプアップ。小爆発についていけなかったイヴァン・バッソはエヴァンスからさらに16秒を失い、総合は1つ後退して11位。ポッツォヴィーヴォとローランは、努力の甲斐あって14位→10位、24位→13位と順位を上げている。
ところで2002年と2010年の過去2回、エヴァンスはマリア・ローザを身にまとったことがある。いずれも……たった1日で手放してしまったのだけれど。今年こそは、無事に2日目を迎えられるのだろうか。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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