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個人タイムトライアルと難関山岳2連戦に挟まれた、ごく短い平坦ステージ。総合狙いの選手たちにとっては、いわゆる休息を兼ねた移動ステージとなった。風邪気味のナイロ・キンタナにとってちょっぴり残念だったのは、コース途中から空模様が怪しくなり、気温も大幅に下ったこと。ところによっては季節はずれの霰さえ降って来て……。それでも最後まで、マリア・ローザ争いには、特筆すべき事件は起こらなかった。コロンビア人として史上初めてピンクジャージで走ったリゴベルト・ウランも、静かに1日を終えた。
「いやいや、静かだったなんて、とんでもない!最終盤はプロトンがかなりナーバスになっていて、危険な場面もたくさんあったから」(ウラン)
一方でスプリンターたちにとっては、ひどい失態ステージとなってしまった。この日を逃したら、最終日のトリエステまで、大集団スプリントのチャンスは訪れないというのに!
スタート直後にエスケープ集団が出来上がった。マキシム・ベルコフ、ジャクソン・ロドリゲス、マルコ・キャノーラ、ヘルト・ドックス、アンジェロ・デュリク、ジェフリーホアン・ロメロの6人は、プロトンからわずか最大3分半のリードしか奪えなかった。山岳ポイントを取りにキャノーラが小さな飛び出しを見せた以外は、とにかく最終盤まで、協力体制を崩さず逃げ続けた。
当然のように、後方プロトンでは、スプリンターチームが追走の手綱を握った。マリア・ロッサ擁するFDJ ポワン エフエールが真っ先に仕事に取り掛かり、仕事の大半を請け負った。チーム ジャイアント・シマノや、さらにはキャノンデールとトレックファクトリーレーシングも、集団先頭でそれなりに手伝った。いつも通りの、セオリー通りの、平坦ステージが繰り広げられていた。
しかし、どこかでズレが生じた。
「まあ、大会前半から落車が多くて、みんな疲れが溜まっていたからね。それにスプリントのための追走作業を、責任持って引き受けるべきは、ブアニのチームなんだ。マーク・カヴェンディッシュやマルセル・キッテルというビッグスプリンターたちは、常にきっちり責任を果たしているじゃないか」(エリア・ヴィヴィアーニ)
ライバルチームたちは、できる限りFDJのアシスト勢に脚を使わせて、少しでもブアニを苦しめたかった。対するFDJ側の言い分は、俺たちはもう3勝しているから、まだ勝ってないほかのチームが積極的に前に行くべきなんじゃないのか……ってこと。ブアニが声を上げ、腕を回し、他のチームたちに牽引をうながすシーンも見られた。
「別に焦っていたわけでも、怖かったわけでもないよ。まあ、単純に、ボクらスプリンターチームが失敗したんだ」(ブアニ)
ゴール前17km。前を行く6人とメインプロトンとの差は約1分半。キャノーラが加速をしかけ、アンジェロ・デュリクとジャクソン・ロドリゲスが企みに飛び乗った。3人に小さくなったエスケープ集団は、いっそう力強くペダルを回し始めた。ラスト10kmで1分24秒、5kmで1分10秒。さすがにジャイアントやトレックが猛烈に追いかけ、ガーミン・シャープさえトレインを組んだが、ラスト1km地点でもいまだタイム差は32秒。スプリンターたちは、万事休した。
ひたすらリレー交替を続けてきた3人が、ついに勝利へのバトルを始めたのはゴール前3.5km。またしてもキャノーラの加速がきっかけだった。
「どうして、こんなスプリンターステージで逃げたのかって?全てが決められたとおりに進んで、サプライズが一切起こらないなんて、そんな人生はないんだよ。思いも寄らない出来事が起こる可能性は、どこにだってあると考えていたから」(キャノーラ)
背後に徐々に大きくなっていく圧力を感じながら、3人は精一杯の駆け引きを行った。ラスト250mの90度カーブには、キャノーラが先頭で入った。
「ユース時代は、重要なレースをたくさん落としたものさ。フィニッシュライン300mで捕らえられてね!」(キャノーラ)
アンチドーピングを強く訴え続けてきた25歳は、イタリア選手にとって最も重要なレースで、ついに逃げ切り勝利を手に入れた。人生初めてのジロ区間優勝であり、2014年ジロでは初めてのプロコンチネンタルチームによる区間勝利だった。
キャノーラの歓喜の瞬間から11秒後に、プロトンがゴールになだれ込んできた。4位争いの集団スプリントはブアニが制し、赤ジャージを難なくキープした。ニッツォーロはまたしてもブアニの次点で(第2・4・7・10ステージがブアニの直後にフィニッシュ)、ポイント賞でもフランス人に次ぐ2位(26pt差)のまま。そして翌日からジロ一行は、本格的な難関山岳へと突入していく。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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