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雨の月曜日も、変わらぬ熱狂が英国の地を包み込んだ。ヨークシャーでの週末で500万人以上の観客動員を記録した2014年ツール・ド・フランスは、ロンドンで荘厳に第一幕を締めくくった。1974年にツールが英国に初上陸して以来、この日までに全部で8ステージの戦いが行われたが、またしてもイギリス人の地元勝利はならなかった。女王様のお膝元で、ドイツ人マルセル・キッテルが今大会2勝目を上げた。
前夜のアップダウンステージで少々疲れを抱えたプロトンから、ゼロkm地点で、ヤン・バルタとジャンマルク・ビドーが飛び出した。あっさりと逃げは見送られた。アスタナは黄色のヴィンチェンツォ・ニーバリを大切に取り囲み、静かに、しかし決して遅くないリズムで集団制御を続けた。エスケープの2人には最大でも4分15秒程度のリードしか与えなかった。
全長155kmのステージを、3分の1ほど終えてからは、スプリンターチームも仕事にとリかかった。ジャイアント・シマノとロット・ベリソルが「ゴール勝負」のためにスピードコントロールを行い、キャノンデールとユーロップカーは「中間ポイント獲得」に向けて隊列を組んだ。108km地点の中間スプリント地点が近づいてくると、新城幸也もトレイン牽引役を務めた。おかげでエーススプリンターのブライアン・コカールは、ペーター・サガンをかわして3位通過=メイン集団トップ通過をまんまと成功させた。
あとは何事もなく予定通りエスケープを吸収しつつゴールへ向かうだけ……だったはずだが、雨脚が急に強くなったせいで、終盤に嫌な集団落車が発生した。新城もユーロップカーの総合リーダー、ピエール・ローランと共に脚止めを喰らった。そのまま両者ともメイン集団に再合流できぬまま。新城は区間首位から38秒遅れで1日を終えた。昨夜起伏ステージを大いに刺激したローランに至っては、単純な平坦ステージで1分05秒も失ってしまった。
雨はサスペンスも長続きさせた。ゴール前20kmでタイム差は1分半。濡れた路面など恐れず、前方の2人は前進を続けた。特にバルタが猛烈にペダルを踏んだ。ゴール前10kmで30秒。落車のリスクを避けるために、メイン集団では総合リーダーたちが最前列へと詰め掛けた。アルベルト・コンタドール擁するティンコフ・サクソの蛍光イエローが、ひときわ目に付いた。ゴール前8.5kmで20秒。バルタが単独で最後の賭けに出た。ジャイアント・シマノとロット・ベリソルは加速ギアを入れ、英国の星マーク・カヴェンディッシュのいないオメガファルマ・クイックステップも前列へ大胆に切り込んできた。ラスト6km、集団はひとつになった。幸いに、雨も、上がった。
テムズ川、タワーブリッジ、ビッグベン、ウェストミンスター寺院、バッキンガム宮殿。ステージの終わりには、豪華なロンドン観光地巡りが組み込まれていた。ただ、おそらく、時速70km以上の猛スピードで集団ゴールへと突き進む選手たちは、周りの風景を眺めている暇などなかったに違いない。たとえばビッグベンの目の前の直角カーブで数人が地面に転がり落ちた直後、ジャイアント・シマノ列車の先頭を引いていたジョン・デゲンコルプは、必死に何度も後ろを振り返っていた。鈴なりの観客がボリューム最大で興奮の声を上げ続けたせいで、選手たちは無線も、互いに怒鳴りあう声も、なにも聞こえなかったようだ。そんな時、頼れるものは、視覚と「勘」だけだった。
「互いにコミュニケーションを取るのが難しかった。叫び合ったけれど、観客たちの声援のほうがはるかに大きかったからね。だから、勘に頼って動くしかなかった。事前に適切な計画を立てていたこと、そして全ての選手が自分の役割を全うしたことで、ボクらはしっかりまとまって走り続けることができた。こうしてマルセル(キッテル)を、ベストポジションへと誘うことができたんだ」(クーン・デコルト、チームリリースより)
圧倒的な勝利だった。マイヨ・ヴェール姿のサガンは、2位で満足するしかなかった。むしろがむしゃらにスプリントする代わりに、冷静にキッテルの後輪に張りついて、確実に区間2位のポイントを懐に入れた。カヴの代役マーク・レンショーは3位に。2年前のロンドン五輪ではトラック競技オムニバスで銀メダルを勝ち取ったコカールは、4位に入った。ポイント賞争いではサガン、キッテルに次ぐ3位につける。
ロンドン中心部を猛スピードで駆け抜けた後、ツール一行は大急ぎで英国の地を後にした。ゴールエリアから15kmほど離れたロンドン・シティ空港で飛行機に飛び乗ると、ツールの母国フランスへと旅立った。22チームが全4班に分けられて、一番早いグループのフライトは18時予定だったから……、つまりフィニッシュのわずか1時間50分後!だからマイヨ・ジョーヌや区間勝者の記者会見も、それぞれ3問で手短に切り上げられた。
「アシストたちに感謝してる。雨のせいでちょっとストレスを感じてしまって、チームトレインから脱線してしまったんだ。でも、みんながボクを最高の位置に引き戻して、最前列まで連れて行ってくれた。あとはただ、ボクがスプリントを切ればよかっただけ。正しいタイミングで加速できた。パーフェクトな終わりだった」(キッテル、公式記者会見より)
「1日を上手く終えることが出来て満足している。雨のせいで、集団内にはひどく緊張感が漂っていた。ただチームがしっかり周囲を固めてくれたから、問題なくマイヨ・ジョーヌを守ることができた」(ニーバリ、公式記者会見より)
大会関係者やメディアも飛行機や、フェリーで英仏海峡を渡った。海底トンネル列車ユーロスターで移動する予定の関係者も多かったが、ステージ当夜(7月7日)はトンネル内の設備故障のため列車の遅延や運休が相次いだ。急遽、パリ周りのフライトに振り替える関係者の姿も見られた。誰にとっても長い夜だった。移動の疲れを癒し、+1時間の時差を調整するために、翌第4ステージはゆっくり午後に走り始める。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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