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サイクル ロードレース コラム 2014年7月9日

ツール・ド・フランス2014 第4ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ツールがいつもの表情を取り戻した。英国に比べたら、たしかに観客の数は少ないかもしれない。けれども、バカンスシーズンに入ったばかりのフランスは、「おらがツール」を暖かく迎え入れた。熱狂的過ぎるイギリスの観客に少々困惑気味だった選手たちも、大会の祖国で、ようやく腰を落ち着けて走り出した。

だからと言って、決して静かな1日などではなかった。そもそも前日に英仏海峡の地下トンネル内で停電が発生し、ユーロスターが立ち往生していた。電車移動を予定していた大会関係者や関係車両は、慌てて飛行機やフェリーに乗り換える羽目になった。たとえばゴールエリア設置隊が目的地にたどり着いたのは、朝の7時。世界190カ国にテレビ配信するための設備は、各ゴール地に、毎日新たに組み直される。普通ならば、朝までに準備が完了していなければならないのに……!

ゼロkm地点でトマ・ヴォクレールが飛び出したこともまた、フランス初日が、退屈で平凡なステージでは終わらないであろうことを予感させた。これまで区間勝利4つと山岳賞ジャージ、さらにおなじみのマイヨ・ジョーヌ着用10日×2回を、全てロングエスケープで勝ち取ってきた元フランスチャンピオンは、ルイス・マテマルドネスを伴って逃げを始めた。しかもユーロップカーのゼネラルマネージャー、ジャンルネ・ベルノドーはこの日が58回目の誕生日で、コフィディスのスポンサー会社の本拠地は、この日のフィニッシュ地ヴィルヌーヴ・ダスク……。チーム関係者の胸は高鳴った!

逃げの真っ最中には、2人はこんな会話を交わしていた。ヴォクレール「あまり速く走りすぎないこと。かといって、ゆっくりすぎてもダメだ」、マテマルドネス「了解!」、ヴォクレール「上りはテンポ良く登ろう」、マテマルドネス「了解!!」、ヴォクレール「そしてラスト30kmに入ったら、全力疾走だ!」、マテマルドネス「了解!!!」

ベテラン策士の意見に、スペイン人クライマーは全面的に賛成したようだ。2人は協力関係を崩すことなく、強風吹き付ける北フランスを突進し続けた。マテマルドネスがメカトラで脚止めを喰らったときには、ヴォクレールはペダルをこぐ脚を緩めて待った。それでも、やはり、平坦なスプリンター向けステージで、後方メインプロトンから3分15秒以上のリードを奪うことは出来なかった。

……もちろん最大の衝撃は、間違いなく、クリス・フルームの落車だ。2010年ツール覇者アンディ・シュレクが、ロンドンでの落車負傷を理由に不出走を選んだこの日に……、2013年ツール総合覇者が地面に叩きつけられたのだ!

スタートからわずか5km。ヴォクレールとマテマルドネスが徐々に遠ざかり、集団内に「逃げ許容」の雰囲気が満ちてきた、そんな時だった。目の前を走るオリカ・グリーンエッジの選手と、軽く接触し、フルームは左半身をアスファルトに打ち付けた。その後すぐにプロトン復帰を果たしたし、最終的には先頭集団でゴールしているものの、膝、太もも、肘、肩にたくさんの擦り傷をつくった。「大事にならぬよう、用心として」(by監督ニコラ・ポルタル)、左手首にはリストガードも付けられた。精密検査の結果、骨折はなかった。

石畳ステージを前に、不安がよぎる。関係者たちの脳裏には、嫌な思い出が蘇ったかもしれない。ほんの1ヶ月前、クリテリウム・デュ・ドーフィネ第6ステージで、やはりフルームは沿道に転がり落ちた。翌日にはリーダージャージを失い、翌々日には大失速して一気に5分もの遅れを喫した……。

ゴール前71.5kmの中間ポイントで、グリーンジャージ着用者ペーター・サガンとポイント賞3位ブライアン・コカールが点取り合戦を行った直後に(サガン3位通過、コカール5位通過)、メイン集団は突如として動き始めた。

下り坂と風に誘われるように、キャノンデールやロット・ベリソルが猛加速。集団は細長く伸びて行き、ところどころでプツンッと切れた。新人賞候補ミカル・クヴィアトコウスキーや今区間入賞候補アルノー・デマールが後方に取り残された。すでに17分近く総合タイムを失っているホアキン・ロドリゲスがまたしても遅れ、スカイのアシスト3人も罠にはまった。ククヴィアトコウスキーを救うために、オメガファルマ・クイックステップのアシスト2人が前集団から下がり必死の牽引を行ったため、幸いなことに大半の選手は遅れを取り戻した。

逃げる2人にとっては、決してありがたくない加速だった。しかも、ゴール前55km、プロトンとの差がわずか37秒に縮まった時に、マテマルドネスが運悪くパンク。先頭に1人残されたヴォクレールには、もはや選択肢はなかった。予定より25kmも早かったが、全力疾走にとりかかった。ダンシングをして、顔を左右に振り、歯を食いしばり。しかし残り16.5km、ヴォクレール劇場の幕は閉じた。華やかで熾烈なスプリンターチームの競演に場を譲った。

「外の空気を吸いたかったというか、走る喜びを味わいたかった。エンジンのならし運転もしたかったし。35歳のボクは、言ってみれば、『古びたディーゼル車』。だから前方に走り出て、脚を思い切り動かして、心拍数を最大限まで上げられたんだから、悪くなかったさ。2人だったから、本気で逃げ切れるとは思っていなかったしね。とにかく今回のエスケープで、調子の良さを実感できた。その点では大いに満足しているよ」(ヴォクレール、ゴール後インタビューより)

そして、またしても、マルセル・キッテルが区間勝利をもぎ取った。マーク・カヴェンディッシュの抜けたオメガファルマ・クイックステップが、残る8人全員でトレインを組んだが、まるで対抗できなかった。この春のミラン〜サンレモで見せたように、ルーカ・パオリーニがアレクサンドル・クリツォフを好位置で発射したけれど、ラインギリギリで出し抜かれた。分断からの復帰で体力を使ったデマールは、あと少し足りなかった。全員まとめてやっつけられた。実のところキッテルは、ラスト1kmで脱線し、アシストの背中を見失っていた。最後はハンドルを投げて――。

「すごく満足しているけれど、すごく疲れた。ラスト1kmに入ってからは、チームメートの後ろに張りついているのさえ難しかった。しかも最終コーナーがひどく厄介で。途端に、みんながどこにいるのか、分からなくなってしまった。自分がいつ、どのタイミングでスプリントを打てばいいのかさえ、分からなかった。だからロングスプリントを打たざるを得なかった。追いつけるか確信はなかった。でもギリギリで上手く行ったんだ。体内エネルギーを、最後の1滴まで汲み出したよ」(キッテル、公式記者会見)

だから珍しく、圧勝とはいかなかった。代わりと言ってはなんだけれど、夜にはサッカードイツ代表が、ワールドカップ準決勝でブラジルを7−1で粉砕した。ドイツの最強スプリンターは、これにて3−0。4日目で早くもハットトリックを決めて、この先、どこまでスコアを伸ばしてしまうのか。

スプリンターチームに混ざって、最終盤までティンコフ・サクソも猛烈なトレインを走らせた。落車や分断のリスクを避けるためであり、なによりアルベルト・コンタドールの総合7位の順位を1つでも上げるためだった。

総合首位ヴィンチェンツォ・ニーバリの後ろには、2秒遅れで20選手が並んでいた。つまり、何も考えずのんびり集団後ろでゴールしていたら、あっという間に総合21位まで転落してしまう可能性があった。しかし、翌第5ステージ「石畳ステージ」を前に、絶対にそんな事態は避けねばならなかった。チームカーの隊列順序は、各チームの総合トップ選手の順番で決まる。コンタドールが総合7位なら、チームカーは前から7番目。総合21位なら(総合20位以内に他のティンコフ・サクソの選手がいなければ)、前から21番目。……メカトラの発生しやすい石畳ステージで、もしもの場合に無駄な時間を失いたくなければ、チームカーはできるだけ前にいなければならない!

アシストたちの懸命の作業は、無事に実を結んだ。区間18位でゴールしたコンタドールは総合5位に前進し、チームカーは前から5番目の位置を確保した。ちなみに総合表彰台候補を擁するライバルチームは、アスタナが1番目、BMCが4番目、モビスターは6番目、スカイは7番目、ロットが8番目、ベルキンが9番目となる。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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