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サイクル ロードレース コラム 2014年8月26日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2014 第3ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ヨーロッパの大部分が記録的な寒さに襲われているというのに、イベリア半島南端の、アンダルシアは、この日も気温40度近くまで上昇した。暑さに負けず1日中せっせと働き続けたオリカ・グリーンエッジが、坂の上で、見事に2つの目標を達成した。マイケル・マシューズが区間勝利を手に入れ、ボーナスタイム10秒と共に、真紅のリーダージャージを身にまとった。

ほんの2ヶ月前に退位したばかりの元スペイン国王、フアン・カルロス1世の名を冠した航空母艦から、3日目の戦いは走り出した。エスケープ集団はすぐに出来上がった。2日連続で飛び出したジャック・イョンスファンレンスブルクに、ジョナタン・フュモー、ジェローム・クザン、ダニーロ・ウィス、リュイス・マスの5人組。最大8分のタイム差を許された。

行く手には4つの3級峠が待ち構えていた。前日に山岳ジャージを手にしたネイサン・ハースは、宣言通り、この日はポイント収集には向かわなかった。また先頭集団の5人全員が、青玉ジャージに興味を示したわけではなかった。各峠でポイント収集合戦を繰り広げたのは、クザンとマス、そしてウィスの3人。最初の2峠は、クザンが先頭通過で3ポイント×2=6ptを手に入れた。マスとウィスは、それぞれ3ptずつで並んだ。

ゴールまで70km地点、第1中間ポイントを利用してマスが独走を始めた。合計ポイントも9ptへと伸ばした。一方でクザン、ウィス、イョンスファンレンスブルクの追走3人組からは、3番目の峠で、ユーロップカーのフランス人が2位通過を成功させた。フランス語圏スイス人ウィスが、今ステージ終了後に山岳賞首位に立つ可能性は、ほぼ完全に断たれた。クザンは最終峠を2位で終えさえすれば、白地に青丸のジャージが手に入るはずだった。

ところが、4つ目の山頂で、ウィスは仕掛けてきた!……どうやら交渉決裂スプリントだったようなのだけれど(吸収後にプロトン内で笑いながらいきさつを話すクザンの姿が、世界中に放映された)、結果クザンは3位に沈んだ。ポイントは9ptで、マスと同点首位タイ。山岳賞選定のルール「各カテゴリーの山頂の1位通過の数」でも、2人とも「3級2回」で並んだ。こうして「それでも決まらない場合は、総合がより上位の選手を該当者とする」という最終ルールが発動された。総合172位のクザンではなく、総合97位のマスに山岳ジャージが与えられた。

前方の5人が熱い戦いを繰り広げていた背後では、オリカ・グリーンエッジが、黙々と集団コントロールを続けていた。スタート前にはマイケル・マシューズが、宣言していた。僕にとってはパーフェクトなフィニッシュだから、チームみんなで勝ちにいく、と。

オーストラリアチームは、2014年ジロで、マシューズと共に栄光の第1週目を味わっている。初日チームタイムトライアルを制すと、2日目からさっそくマシューズがマリア・ローザを身にまとった。第6ステージでは区間勝利も手に入れた。だから、このブエルタへは、栄光の再現するために乗り込んできた。初日チームタイムトライアルは首位から6秒差で終えた。マイヨ・ロホは射程圏内に捕らえた。第2ステージは完全なる平坦ステージだったから、「来るべきステージに向けた実践テストかトライアルランのつもり」(ニール・ステフェンス監督、チーム公式HPより)で取り組んだ。そして、この第3ステージこそが、その「来るべきステージ」だった。フィニッシュまで25kmを残して、邪魔者は全て吸収し尽くした。

リーダージャージを守るモヴィスターは、オリカ隊列の後ろで静かな午後を過ごしていたはずだった。ところが、とてつもない失態も犯した。補給が許可されているのは、通常、ゴール前20kmまで。だから、その20kmのアーチの手前で、沿道にスタッフが立っていた。道路右端を走る選手に、サコッシュを手渡すためだったのだが、受け渡しにしくじった。アドリアーノ・マローリ、初日マイヨ・ロホのヨナタン・カストロビエホ、マイヨ・ロホ姿のアレハンドロ・バルベルデが地面に転がり落ちた!幸いにもバルベルデは「ちょっと背中が痛い」(チーム公式HPより)程度で済んだようだが……。

グランツールを10大会連続完走し、11大会目に挑戦中のアダム・ハンセンのアタックを合図に、ゴール前13km、オリカ以外のチームも戦闘を開始した。カチューシャが引き、ジャイアント・シマノが隊列を組み、オメガファルマ・クイックステップも猛烈な加速を行った。アンダルシアの白い村へと続く坂道で、ラスト2km、先頭を奪い取ったのは「上れるスプリンター」ジョン・デゲンコルブを擁するジャイアント・シマノだった。

しかし、「プロトン屈指の激坂ハンター」ホアキン・ロドリゲス率いるカチューシャが、ゴール前1.1kmで先頭を取り戻した。ラスト800mではジャンパオロ・カルーゾが強烈な一発を繰り出し、他チームを霍乱する作戦に出た。猛然と後を追ったのが、ダニエル・マーティンだ。2013年リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで上りフィニッシュを制した「ヒルクライマー」は前方へと駆け上がると、ラスト300mでカルーゾをひらりと抜き去った。そのスリップストリームを、マシューズは、巧みに利用した。

この春のジロでは、マーティンは雨のベルファストで地面に滑り落ち、即時リタイアを余儀なくされた。マシューズとオリカ・グリーンエッジの仲間たちは、チームタイムトライアルの勝利に歓喜した。雨の第6ステージでプロトンのほぼ全員がドミノ倒しにあい、肋骨1本と手首を骨折したロドリゲスは、その夜に大会を離れた。マシューズは奇跡的に難を逃れた12人のうちの1人で、マリア・ローザ姿で2級山岳を駆け上がり、ピンク色の区間勝利をさらい取った。

良く晴れた南スペインで、この日もマシューズがキラキラと輝いた。昨ブエルタの区間2勝に続く、輝かしい勝利だった。ただし、マシューズもまた、今大会に「復活」をかける1人だった。ジロでは第9ステージに落車し、第11ステージ朝に大会を離れた。ツールが始まる4日前、トレーニング中にひどい落車をした。ぐるぐる巻きの包帯姿でチームプレゼンテーションに参加しながらも、開幕前日に出場を泣く泣くキャンセルした。

「もっと強くなって帰ってくる、そう固く信じて、一生懸命ハードな練習を続けてきた。今日はチームメートのために勝てたことが、とにかく嬉しい。チーム全体がひたすら自分のために身を粉にしてくれて、そして勝つことが出来たんだから、なおのこと素敵な勝利だよ。最後の上りはひどく厳しかった。でもチームが、僕を完璧なポジションへと連れて行ってくれた。そこから先は、僕の番だった。みんなのために計画を遂行しなきゃならなかった。飛び出して、強く願いながら、勝利を取りにいった」(マシューズ、大会公式記者会見より)

マーティンとロドリゲスは、「上れるスプリンター向け」と言われていた今ステージをそれぞれ2位と3位で終え、好調さを示すと共に、ボーナスタイムも6秒と4秒を手に入れた。バルベルデは落車の影響か、本来なら得意なはずの地形で、逆に7秒を失った。ナイロ・キンタナが4秒差で総合2位を動かなかった一方で、バルベルデは総合3位11秒差に小さく陥落した。また15秒差にリゴベルト・ウラン(4位)、23秒差にアルベルト・コンタドール(12位)、31秒差にクリス・フルーム(17位)、38秒差にロドリゲス(20位)、39秒差にマーティン(24位)と続く。

「病み上がり」で「リーダーではない」ティボー・ピノと、コロンビアから少々膨らんで帰ってきたカルロスアルベルト・べタンクールは前日に続いて大きくタイムを落とし、総合争いからは完全に脱落した。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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