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サイクル ロードレース コラム 2014年8月28日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2014 第5ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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スプリンター向けのステージで、総合リーダーがバトルを繰り広げた。スカイのクリス・フルームは小さなタイム収集作戦を企て、ティンコフ・サクソのアルベルト・コンタドールは大掛かりな分断作戦に打って出た。もちろん最後はスプリンターたちが、予定通りにゴールを争った。ジョン・デゲンコルブが2日連続で区間勝利の栄光に酔いしれた。

序盤3時間ほどは、ありふれた平坦ステージの戦いが行われていた。スタート直後に2選手が飛び出した。確かに、逃げたのはピム・リヒハルトと、世界選個人タイムトライアル3連覇中のトニー・マルティンだったから、スプリンターチームにそれほどのんびりしている余裕はなかった。タイム差が3分半に開いたところで、早くも集団制御に取り掛かった。特にジャイアント・シマノとエフデジ ポワン エフエールが熱心に仕事を行い、ゴールまでいまだ100kmも残っているというのに、差を1分半ほどにまで詰めた。

そのせいか、マルティンは志半ばで、自ら前にいることを放棄した。2013年ブエルタの第6ステージではゼロkm地点から、ひとりぼっちのエスケープに飛び出した。あの日は序盤30kmでリードを7分半に開くと、ゴール前ぎりぎり40mまで粘り続けた。しかし今ステージは、ゴール前82kmで、後方集団へと戻った。荒涼とした大地の中を、リヒハルトは1人で旅を続けることになった。

エフデジは変わらず集団コントロールに務めていた。1度目の中間ポイントでは、リヒハルト、マルティンに次いで、スプリントリーダーのナセル・ブアニが3位通過=1ポイントを手にした。マルティン吸収後の、ゴール前58.5km地点の第2中間ポイントへ向けても、フレンチ軍団はミニスプリントの準備をしていた

……ところが、黒いタンデムに先を越された!クリスティアン・クネースとフルームが矢のように飛び出すと、2013年ツール総合覇者が2位通過=ボーナスタイム2秒をさらいとった。エアロスーツを着込んだブアニと、先導役ムリロ・フィッシャーは完全に出遅れた。3位通過さえクネースに横取りされた。青い2人組は、すごすごとメイン集団へ引き下がるしかなかった。

「どんなチャンスだろうが、つかみに行かなきゃならないんだ。2秒というのは、たいしたタイムではないかもしれない。でも、これが大きくモノを言う可能性だってある!」(フルーム、大会公式リリースより)

2011年ブエルタをわずか13秒差で落とし、しかもボーナスタイム制度さえなければ19秒リードで総合優勝していたはずのフルームは、数秒の重要性を痛いほど理解している。ちなみに3年前のフルームは、ボーナスタイムを取ろうと意気込みすぎて、関係のない横断幕の下でスプリントした経験さえあるのだ。

スカイの攻撃が一瞬で完了すると、再びプロトン制御権はスプリンターチームの手に渡った。再び淡々とした時間が、戻ってきたかに思われた。ところが、小さな丘を、越えた直後のことだった。ゴール前41km、丘からの細く曲がりくねった下りを利用して、ティンコフ・サクソが猛然と集団前方に駆け上がってきた。そのまま隊列を組むと、とてつもない速度で前方へと突撃を始めた!

急激なスピードアップで、プロトンは瞬く間に長く棒状になり、そして細かく分断されていった。ティンコフのリーダー、コンタドールはもちろん、フルーム、キンタナ、バルベルデ、ウラン、ホアキン・ロドリゲス等々の主要総合リーダーは難を逃れた。有力スプリンターの2人、ジョン・デゲンコルブやブアニ、さらにはマイヨ・ロホのマイケル・マシューズも先頭集団に上手く滑り込んだ。……実のところ、後方に取り残された危険人物といえば2014年ドーフィネ総合覇者アンドリュー・タランスキーと2012年ジロ総合覇者ライダー・ヘシェダル、2012年ツール・ド・ラヴニール覇者ワレン・バルギルくらいなものだった。しかもバルギルは、後に先頭集団復帰している。

それでも、ティンコフは、加速を止めようとはしなかった。孤独な逃亡者リヒハルトをあっという間に飲み込んで、果敢なる突進を続けた。時にはモヴィスターも先頭牽引を手伝った。

「もっと情報が必要だったね。誰がいて、誰がいないのか。誰が後ろに取り残されたのか。僕らはまるで分からなかったんだ。最初の加速で、重要な選手を数人は置き去りにしたんじゃないかと思う。でも、彼らが戻ってきたことに、僕らは気が付かなかった。ちょっと混乱状態だったんだよね。でも、とにかく、トライはしたさ」(コンタドール、チーム公式リリースより)

つまりは、骨折り損のくたびれ儲け、だったようだ。今ステージの終わりに、ヘシェダルとタランスキーから3分以上のタイムを奪い取っただけだった。そして、もしかしたら、いくつかのスプリンターチームは後悔しているかもしれない。あのときティンコフに協力しておけば、と。なにしろ、後々80人ほどの集団スプリントを制した人間は、こんな風に語っている。

「ものすごく苦労して手に入れた勝利だよ。もしかしたら、これまで手にした大会7勝の中で、一番大変だったかもしれない。だってティンコフが加速したせいで、僕の側には、クーン・デコルトとワレン・バルギルの2人しか残っていなかったんだから」(デゲンコルブ、ゴール後インタビューより)

一旦は分断の罠にはまりながらも、第2集団のチームメートたちが奮闘したおかげで、バルギルは先頭集団へと無事に合流した。そして、集団ゴールへと突き進むプロトンの中で、普段は別の選手が担当しているはずの「スプリントのためのポジション取り」を、ピュアクライマーは見事にやってのけたのだ。

「ワレンが僕ら2人を好ポジションまで連れて行ってくれた。それからクーンが加速した。でも、その後、自分でなんとか対処しなきゃならなかったよ。カーブを曲がりそこねてしまったんだ。後輪から離されてしまったから、自分で距離を縮めに行かなきゃならなかった。でも、幸運にも、スプリントするだけのパワーが残っていた」(デゲンコルブ、チーム公式リリースより)

軽い上りフィニッシュで、飛び出したフィリップ・ジルベールを抜き去り、右後方から追い上げてくるブアニを振り払い、デゲンコルブは2日連続の区間勝利を手に入れた。2012年の5勝も含め、ブエルタ区間通算7勝目。今ステージはマイケル・マシューズのお下がりとして着ていた緑色のポイントジャージも、正式に手に入れた。

左側はライバルに、右側はフェンスに挟まれて、ブアニは怒りの拳を握り締めた。2位でラインを通過すると、審判団に不服を申し立てた。「デゲンコルブに3回幅寄せされた。降格処分にするべきだ」と。

「スプリントの映像を何度も見直したけれど、ジョン・デゲンコルブは違反を犯していない。彼はラインを守って走っている。ただナセル・ブアニが不可能な場所を通り過ぎようとしていただけである。結果を見直す必要はない」(審判長Jean-Michel Voets、大会公式リリースより)

マシューズは11位でフィニッシュラインに飛び込み、3日連続でマイヨ・ロホ表彰式に臨んだ。しかも区間13位と14位の間に小さな切れ目が生まれてしまったため、総合2位キンタナのタイム差を8秒→13秒へと開いたほどだ。ただし、この小さなリードは、翌日には消えてなくなるのだろう。第6ステージは今大会初めての、難関山頂フィニッシュが待ち構えている。

「明日は、僕にとっては、グルペットで過ごす休養日のようなもの。いずれにせよ、僕が総合首位の座を失うことは、あらかじめ決まってるんだから。明日はマイヨ・ロホですごす最後の日になるよ」(マシューズ、大会公式リリースより)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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