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サイクル ロードレース コラム 2014年8月29日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2014 第6ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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今季おそらく最も華やかなメンバーが揃ったグランツールで、ビッグスターの競演が始まった。大会最初の本格山頂フィニッシュで、アレハンドロ・バルベルデが区間と総合を一挙に手に入れた。クリス・フルーム、アルベルト・コンタドール、ホアキン・ロドリゲス、ナイロ・キンタナは、それぞれあるべき位置についた。

ピム・リヒハルトとリュイス・マスが、長いエスケープを敢行した。アンダルシアの強い太陽の下を、2日連続で苦行を選んだオランダ人と、山岳ジャージを死守したいスペイン人は、ひたすら黙々と逃げ続けた。プロトンは2人に14分半もの大量リードを許した。

このタイム差を、まずはガーミン・シャープが縮めにかかった。前日の分断でアンドリュー・タランスキーとライダー・ヘシェダルがタイムを失ったが、ダニエル・マーティンはいまだ総合上位につけている。メイン集団前方で隊列を組み、熱心にタイム差コントロールを請け負った。ゴール前45kmまでくると、カチューシャも牽引に乗り出した。「激坂」で区間優勝大本命に上げられるロドリゲスを、好位置へ引き上げようというのだ。

ゴール前17kmからは、モヴィスターとオリカ・グリーンエッジが列車を走らせた。スペインチームは当然、「ダブルリーダー」キンタナ&バルベルデのために。オーストラリアチームは、マイヨ・ロホのマイケル・マシューズではなく、2011年ツール・ド・ラヴニール総合覇者エステバンン・チャベスのために。ちなみにラヴニールとは、「U23版ツール」とも呼ばれる、若手チャンピオンの登竜門。2010年はキンタナが、2012年にはワレン・バルギルが制したことでも知られている。

実のところ、ラスト4.6kmの1級「激坂」以外は、コースはそれほど難解ではなかった。その証拠に、ゴール前21.9kmと14.1kmの中間ポイントでは、ジョン・デゲンコルブがいずれも3位通過を果たしている。わずかなポイントでさえ、緑ジャージを守りたいスプリンターにとっては貴重だった。ブエルタでは、ジロやツールと違い、あらゆるステージのポイント配分が同じだ。平地ゴールを制しても、山頂フィニッシュを勝ち取っても、1位選手に与えられるのは一律25ポイント。ここから山頂フィニッシュ8回にタイムトライアル2回が襲い掛かってくることを考えると……、スプリンターがポイント賞首位を守り通そうと思ったら、こつこつポイントを収集していく以外に術はない。

ついでにデゲンコルブは、前日の誓い「明日はワレンを助ける。激坂に向けて、彼をベストポジションへと導きたい」(チーム公式リリースより)も果たした。前ステージで慣れないスプリント列車を走らせたバルギルのために、最終峠の麓まで、集団内での位置取りを手伝った。また2007年大会ではスプリンターとしてポイント賞に輝いたダニエーレ・ベンナーティも、赤ジャージのマシューズも、それぞれの総合リーダー(コンタドールとチャベス)をぎりぎりまで先導役を続けた。

道が上り始めるとマスは脱落し、リヒハルトは3kmのアーチで長い逃げを終えた。それでも前者は山岳賞ジャージを守り切ったし、後者は2日連続の敢闘賞を手に入れた。そして、いよいよ、本格的な山の戦いが、幕を切って落とした。

2日前にはバルベルデが、前夜にはフルームとコンタドールが軽いジャブを打った。今回勃発したのは、本物のバトルだった。カチューシャやガーミン、スカイのアシスト勢を押しのけて、ゴール前2.5km、モヴィスターの2人が集団先頭に競り上がった。キンタナを背後に従えて、とてつもない高速牽引を始めたのは……、アレハンドロ・バルベルデだった!

「僕はナイロのために働いた。それは誰の目から見ても明らかだったはずさ。僕は強烈なペースを刻んで、ライバルを千切りにかかった。決して後ろを振り返らなかった。ナイロから、リズムを刻み続けるよう、ずっと声をかけられていたから。『後ろにはもう10人か12人しか残ってないぞ』って」(バルベルデ、チーム公式HPより)

チームメートと共に1日中働いてきたマーティンは、瞬く間に犠牲となった。ゴール前2kmでは、グランツール総合優勝経験者としては真っ先に、カデル・エヴァンスが脱落した。バルギルも姿を消した。1.6kmではサムエル・サンチェスが後退し、1.2kmではリゴベルト・ウランさえ振り落とされた。「エル・インバティド」(無敵)の強いる驚異的なスピードで、ラスト1km、集団は10人にまで小さくなった。

「でも、誰かがアタックを仕掛けた場合に備えて、ほんの少しだけエネルギーを残しておいたんだよ」(バルベルデ、チーム公式HPより)

そんな、もしもの事態が、ゴール前700mに訪れた。勾配10%超の難ゾーンで、ロドリゲスが渾身のアタックを打った!「彼には、たとえ1mでも、与えてはならなかった」(チーム公式HP)と、バルベルデはすぐに追走に切り替えた。ほんの一瞬出遅れるも、背後ではフルームが、穴を埋めるために必死にペダルを回した。キンタナとコンタドールは、英国人の後輪にぴたりと張り付いた。

現在の自転車界が誇るグランツールチャンピオンが、ほぼ勢ぞろいした瞬間だった。5人合わせてグランツール総合優勝8回、表彰台11回。この場に足りないのは、2014年ツール覇者の、ヴィンチェンツォ・ニーバリくらいのものかもしれない。そして、本来ならば、「チャンピオンたちの直接対決」は、7月のフランスで見られるはずの光景だった。しかしフルームが第5ステージでリタイアし、コンタドールが第10ステージで去り、ロドリゲスは故障明けで、バルベルデはこれほど調子は上がっておらず、キンタナはそもそも不在で……。

このキンタナが、5人の中で一番に脱落した。2014年ジロ総合覇者のコロンビア人は、ゴール前300mで、ライバルの背中から滑り落ちてしまった。

「調子は悪くなかったんだけど、まだ、リズムが少しつかめていないんだ。いまだトップコンディションではない」(キンタナ、チーム公式HPより)

2013年ツール覇者のフルームは、前ににじり出た。左手首骨折の影響は、もはや感じられなかった。グランツール計5勝のコンタドールは、併走しながら、おなじみのダンシングスタイルでライバルたちの動きに警戒を払った。7月に右脛骨の亀裂骨折し、「激坂だから、今の僕には厳しいだろう。それでも、できるだけ長く、ライバルたちについていきたいものだね」とスタート前にTVインタビューで語っていたのだが。確かに、ラスト200mでバルベルデが切った、切れ味鋭い「十八番」の上りスプリントにはついていけなかった。それでも、先のアタックで力尽きていたプリトとは違って、フルームとコンタドールは、バルベルデと同タイムでゴールラインへ滑り込んだ。三者を分けたのは、ただ、ボーナスタイムだけであった。

「モヴィスターこそ倒すべきチーム!ロドリゲスは調子がいいようだし、コンタドールには感銘させられた。キンタナはもう少しいいんじゃないかな、と予想していたんだけど。でも、距離の長い峠では、間違いなく上げてくるはずだ。僕自身は満足している。タイムを失わなかったし、チームがファンタスティックな仕事をしてくれたから」(フルーム、大会公式リリースより)

「フルームとバルベルデと同タイムの3位でゴールできたなんで、僕にとっては、まさに勝利に等しい。膝は時々痛むけど、このまま持ってくれるよう、祈ってる。まだ調子は完全じゃないけれど、日に日に上がっていくはずだ。うん、この先は、間違いなく、チャンスがあればアタックするさ」(コンタドール、大会公式リリースより)

バルベルデにとっては、祖国のグランツールで区間8勝目。ボーナスタイムも10秒手に入れ、マイヨ・ロホを身にまとった。第2ステージ後には、思いがけず赤ジャージを着てしまい、ひどく居心地の悪い思いをしたが、今回は取るべくして総合首位の座を取った。

「僕にとって、チームリーダーはあくまでもナイロ。ナイロがこの先調子をどんどん上げていくだろうと、心の底から信じている。だからといって、自分のチャンスを排除してしまうつもりもない。もし、この先も調子がよければ、あと何度かは区間勝利を狙いにいく。最も大切なのは、僕ら2人のうちどちらかが、大会を制すること」(バルベルデ、チーム公式HPより)

そのキンタナは、15秒遅れで総合2位につける。ちなみに、今ジロでは、大会2週目の終わりまでは「風邪を引いて調子が悪い」と繰り返していた。一時はウランから3分45秒もの遅れを喫していたことを、どの選手も忘れてはいないはずだ。またコンタドールは総合3位・18秒差、フルームは4位・22秒差に駆け上がった。チームメートの奮闘のおかげで、チャベスは総合5位・41秒差。そのすぐ背後にロドリゲスが6位・45秒で控える。総合8位までが1分差以内に詰めている。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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