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サイクル ロードレース コラム 2014年8月31日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2014 第8ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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平坦なステージさえも、2014年ブエルタでは、総合ライダーたちの戦場に変わる。横風を合図に、壮絶な分断の試みが繰り広げられた。総合2位ナイロ・キンタナが一時は罠にはまった。フィニッシュラインでは、強い向かい風の中、スプリンターたちが最後の激闘を繰り広げた。並み居るライバルたちを力ずくで押しのけて、ナセル・ブアニが区間2勝目を毟り取った。

200km超の長いステージの、前半は、むしろのんびりとしていた。エリア・ファヴィッリとハビエル・アラメンディアの飛び出しを、プロトンはあっさりと見送った。スプリントリーダーを抱えるジャイアント・シマノとエフデジ ポワン エフエールが淡々と集団を制御し、5分ほどの差がしばらく保たれた。その合間には、第1中間ポイントで、緑ジャージのジョン・デゲンコルブが3位通過=1ポイント収集も行った。

ゴール前53km地点の、第2中間ポイント付近から、少し不穏な空気が流れ始めた。第5ステージでは、第2ポイントに向けて、クリス・フルームがアシストを使って飛び出していた。2位通過でボーナスタイムも2秒取得している。そしてこの日は……、やはり動きを見せたスカイを上手く牽制し、ティンコフ・サクソが3位通過をさらい取った。ただし、ボーナスタイム1秒を手にしたのは、リーダーのアルベルト・コンタドールではなく、護衛役のセルジオ・パウリーニョだった。

小さなせめぎあいは、大きな闘争の前触れに過ぎなかった。集団の追走スピードは、急速に増して行った。ゴールまで40kmを残して、早々とエスケープは吸収された。プロトンは、ゴール地までまっすぐに続く、荒野の一本道を走っていた。そこに、このラ・マンチャ地方特有の、強風が吹きつけてきた。

真っ先にプロトン前方に上がり、隊列を組んだのはスカイだ。ティンコフの面々も、しっかりと前線へと位置取った。そこに、トニー・マルティンとファビアン・カンチェラーラという、近年のタイムトライアル世界選主権を独占してきた2人のパワールーラーが、高速でペダルを踏みつけた。あっという間にプロトンは数分割された。

第一集団に踏みとどまれたのは、60人程度だけ。総合有力選手を支えるチームと、スプリンターリーダーを擁するチームが、入り混じって先頭交代を続けた。フルームも積極的にリレーに参加した。

「チームがファンタスティックな仕事をしてくれた。僕を常に前方へと引き上げてくれた。おかげで一度も苦境に立たされなかった」(フルーム、大会公式リリースより)

ゴール前13km、先頭集団の勢いもそろそろ々弱まってきただろうか……と、誰もが思ったに違いない、その時だ。今度はBMC軍団が、風の中を猛烈に突き進み始めた。特に2011年ツール覇者カデル・エヴァンスが、先陣を切って、サムエル・サンチェスのためにがむしゃらなスピードアップに乗り出した。急激に引き伸ばされた集団は、ぶちぶちっ、と中切れを起こした。25人ほどの選手が後方へと吹き飛ばされた。なにより総合17位ダニエル・マーティンに、9位ワレン・バルギル、そして2位ナイロ・キンタナが、ライバルたちに置き去りにされた!

「最終盤では横風が吹き付けるだろうことは、スタート前から知らされていた。用心して走らなければならないと、分かっていたんだ。でも吹きさらしのゾーンに突入すると、集団は緊張感に包まれ、棒状になり、そしてあらゆるところで切れ目が生まれた。僕もギャップを埋めなきゃならなかったんだけど、前の選手の車輪についていくことが出来なかった」(キンタナ、チーム公式HPより)

チームメートのキンタナが後方に取り残された一方で、マイヨ・ロホのアレハンドロ・バルベルデは上手く前方へと居残った。風はどちらかというと苦手なはずだけれど(2013年ツール第13ステージでは、風分断で10分近く失い、総合2位から16位へと陥落している)、この日は、アシストもいないのに、ただ1人前方で奮闘した。一方でスカイ、ティンコフ、カチューシャは、頼もしいチームメートが総合リーダーの側にしっかり寄り添った。特にコンタドールは、ダニエーレ・ベンナーティの仕事を絶賛する。

「ベンナはまさに生命保険だよ。常に僕を好位置へと導いてくれた。ただただ感謝の気持ちしかないよ。彼は貴重な『馬車馬』さ。いつだって僕を、自分のポケットに入れて、連れて行ってくれるんだ」(コンタドール、個人公式リリースより)

ちなみに、第5ステージでティンコフ・サクソが試みた分断は骨折り損に終わったわけだが、この日の分断も、最終的には総合争いにまるで影響はなかった。キンタナの属する第2集団は、残り5kmで無事に先頭集団へと追いついた。総合順位も、総合タイムも、総合14位までは変動がなかった。むしろマーティンは、17位→15位へと小さくジャンプアップしたほどだ。

実は、キンタナにとって幸いだったのは、バルギルとデゲンコルブが同じ集団にいたこと。つまりジャイアント・シマノにとっては、総合リーダーとスプリントリーダー、2人が一挙に分断にはまるという一大事だった。第2集団にいたチームメートだけでなく、第1集団からわざわざ2人が下りてきて、必死の引き上げ作業を行った。「ジャイアントが助けてくれた。僕らは共通の利益があったからね」とキンタナは感謝するが、「チームメートは自分自身を犠牲にして僕を前方に戻してくれた。でも、スプリントが始まる前に、ボク自身も限界に達してしまった」(いずれも大会公式リリースより)と、肝心のデゲンコルブはいっぱいいっぱいだった。区間4位で、ハードな1日を終えることになった。

区間トップ3に入ったのは、1度も分断にはまらなかったナセル・ブアニ、マイケル・マシューズ、ペーター・サガンだった。中でもピュアスプリンター度の最も高いブアニが、ラスト300mを独走し、フィニッシュラインを真っ先に駆け抜けた。……ただし、ゴール前40mからマシューズが急激に追い上げてきたため、ブアニは左側にほんの少しだけ体を寄せた。当然、オリカ・グリーンエッジは、すぐに審判団にビデオの見直しを要求した。ブアニの斜行による進路妨害ではないのか、と。

「私が申し立てに行ったとき、すでに開催委員会が審判団に見直しを要求していた。私も一緒に映像を見直した。そこで疑いは、確信に変わった。審判団の意見は2対2に割れたんだ。そして、最後に、告げられた。『難しい判定だったが、ブアニにステージ優勝を与える』と。これがレースさ。我々は審判団の決定を尊重する。また別の日に、ステージ優勝を狙っていくよ」(ニール・ステフェンス、チーム公式HPより)

第5ステージには「デゲンコルブに邪魔された」との申し出を取り下げられ、2位に泣いたブアニが、この日は自らに降りかかってきた異議申し立てを跳ね除けて、大会2勝目を手に入れた。

「長いスプリントだった。それにフィニッシュ前は強い向かい風が吹いていたからね。でも、ほんの小さな突破口を見つけたら、我慢できずに飛び出してしまったんだ。あと100m待っているべきだったかもしれないね。でも、前回のスプリントを2位で終えて、ひどくがっかりしたんだ。だって勝てる脚があったんだから。だから今日は絶対に勝ちたかった」(ブアニ、ゴール後インタビューより)

スプリンターたちの体を張ったどつきあいは、第12ステージまで一旦お預け。ここからの3ステージは、ますます熾烈な総合争いが繰り広げられることになる。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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