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サイクル ロードレース コラム 2014年9月8日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2014 第15ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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激しい通り雨が去ると、選手たちよりも一足早く、谷間から霧が駆け上がってきた。戦いの熱気が山頂を満たす頃には、雲は風に飛ばされ、陽の光さえ差し込んできた。ブエルタ屈指の伝統峠コバドンガで、ポーランド人プリジミスラウ・ニエミエツが、見事な逃げ切り勝利を決めた。後方メイン集団では、全長12.2kmの山道で、1ダース以上のアタックが乱れ飛んだ。アルベルト・コンタドールも実に10回近く加速を繰り返した。前日同様、一部のライバルからはタイムを奪い、一部のライバルからは差を詰められたが、マイヨ・ロホは問題なく守りきった。

太陽の下でプロトンは走り出した。アタック合戦は1時間近くも続き、48km地点でようやく、5選手が好エスケープに乗り込んだ。プリジミスラウ・ニエミエツ、ハビエル・アラメンディア、キャメロン・メイヤー、クリストフ・ヴァンデワール、そしてだジョン・デゲンコルブ!

緑ジャージ着用者の狙いは、当然、55km地点の中間ポイントだった。しかも、道が本格的に険しさを増すほんの少し手前の、97.4km地点に、第2中間ポイントも置かれている。ポイント収集用エスケープを打つには、なんとも都合の良いコース設定だ。こうして逃げの切符を力ずくでもぎ取ったデゲンコルブは、2つの中間ポイントでは極々あっさり先頭通過をさらった。4pt×2=8ポイントを新たに追加した。

それ以外の4選手は、もちろん、山頂フィニッシュ勝利に目標を設定していた。任務完了のデゲンコルブが静かに前集団を離れても、雨雲が頭上に現れても、残された4人は先を急いだ。リードは最大11分奪った。最終峠コバドンガの麓でも、いまだ4分15秒の差を保っていた。

協力関係を捨てて、ゴール前10.5km、真っ先に加速を切ったのは「トラック競技で世界チャンピオンタイトル8つ」のメイヤーだった。そこに「ミケーレ・スカルポーニの最終山岳アシスト」を長らく務めたニエミエツが、10km地点で追いついてきた。2人の逢引は、そこから5kmに渡って続く。

「この山は良く知っていた。2012年大会で走ったからね。昨日も逃げたけれど、調子はあまり良くなかった。だから今朝のミーティングでは、『動かず、脚の調子を回復するように』と指示された。ただ1回だけアタックにトライした。そうしたら、絶好のエスケープに乗れたというわけなんだ。最終峠に入った時点で、残り5kmで勝負に出よう、って考えた。そして、その残り5kmで、考えを実行に移した」(ニエミエツ、ゴール後記者会見より)

残り5km地点での賭けは、見事に成功した。1度の加速でオーストラリア人を完全に振り払い、山頂まで1人先頭で駆け上がった。34歳ポーランド人は、生まれて初めての区間勝利を勝ち取った。ちなみにアルデンヌクラシックで表彰台2回のミカル・クヴィアトコウスキーや、ツール・ド・フランス区間2勝&山岳賞ラファウ・マイカは、それぞれニエミエツより10歳年下の同国出身である。

「僕らの国の自転車競技レベルは、今年大きく上がった。世界選手権でも9枠を獲得した。クヴィアトコウスキーに、マイカ、そして僕がここブエルタで区間勝利を手に入れた。勝利の1つ1つが、ポーランド自転車界にとっては大切なものだ」(ニエミエツ、ゴール後記者会見より)

メイン集団は、ワレン・バルギルの攻撃をきっかけに、めくるめくアタック合戦へと飛び込んだ。1年前に2区間をもぎ取ったフレンチヒルクライマーは、最終峠に入った直後に、1度目の加速を切った。そう、ここから先、22歳の若者は全部で6回アタックを打つことになる。

「周囲のビッグネームたちが、互いに顔を見合わせて警戒しあっているような感じがしたんだ。だから、僕は、試してみることにしたんだ。それに何度も飛び出したおかげで、結局のところ、他の選手のビッグアタックを事前に食い込めることが出来たんじゃないかと思ってる。なにより僕自身が、本当にアタックを楽しんだ。だって、本当に調子が良かったんだもの」(バルギル、ゴール後インタビューより)

カチューシャも、アタック合戦を守り立てた。バルギルの加速には、ジャンパオロ・カルーゾが真っ先に反応した。ゴール前7.5kmでは、カルーゾとダニエル・モレノが揃って飛び出し、リーダーのホアキン・ロドリゲスを迎え入れる体制を整えた。そしてゴール前5.7kmには、プリトが渾身の一発を繰り出した。

「僕らチームは責任を果たしたと思う。前を牽引し、アタックを繰り返した唯一のチームだった。でも、カルーゾや僕がアタックするたびに、コンタドールがカウンターアタックを仕掛けてきた。彼の目的が何なのか、僕には良く分からなかった」(ロドリゲス、チーム公式リリースより)

コンタドールの目的は明白だった。ロドリゲスとアレハンドロ・バルベルデを警戒しつつ、クリス・フルームを突き放すこと。前ステージ終了時点で1分29秒遅れのプリトと、わずか42秒遅れのエル・インバティドには、ビッグアタックを打つ隙を与えるわけにはいなかったし、1分13秒差の英国人は、ラスト7km付近からじわじわと遅れ始めていたからだ。

それに実を言えば、相手のやり方に困惑させられたのは、お互い様である。上述のロドリゲス加速後、100m先でコンタドールがカウンターアタックを切った。これ以降はアタックを5回、バルギルやプリトの攻撃を潰すための加速を4回繰り出すことになる。そして、そのいずれの時にも、ロドリゲスとバルベルデは赤ジャージの背中にぴたりと張り付いた。毎回フルームも突き放した。ところが、そのうちに三つ巴の警戒合戦が始まって、走行スピードは緩やかに落ちていく。すると前日同様「ひたすら自分で走った」フルームは、ほんの近くまで追い上げてくる……。

「もしも、僕が1人だったら、きっと完全にフルームを突き放せたと思うんだ。でも2人を警戒し続けなきゃならなかった。とくに勾配がころころと変わる山道で、プリトが強いてくる強烈なリズム変化にも対応しなきゃならなかった」(コンタドール、公式記者会見より)

「少々『奇妙』な状況だったね。その場にいる全員が、自分のやりたいことを行動に移した。それはたいていアタックという形だった。プリトは最後の上り部分でトライしたし、アルベルトは何度も何度も飛び出して……。フルームはいつも通りのやり方で走ったね。調子が良くなさそうに見えるのに、ずっとペースを刻み続けてるんだから」(バルベルデ、チーム公式HPより)

バルギル、カチューシャ、コンタドールの波状攻撃に、総合5位リゴベルト・ウランは完全に振り切られた。ファビオ・アルは小さく離されながらも、決して大きく遅れることはなかった。もちろん、フルームも。その前では、コンタドール・バルベルデ・ロドリゲスのスペイン人トリオが、3人仲良く壮大なる駆け引きを続けた。

ニエミエツがジャージの前を閉め、きちんとメガネをかけなおしたせいもあって、ポーランド人の歓喜からわずか5秒後にバルベルデとロドリゲスはフィニッシュラインに突っ込んだ。ゴールへ向けたスプリントでは、どうしても2人に敵わないコンタドールは、その5秒後に山頂へたどりついた。マイヨ・ロホの7秒後にはアルとフルームが努力を終えた。レースを大いに活気付けたバルギルは、コンタドールから34秒遅れて、忙しかった1日を終えた。

コバドンガを終えて、総合の上から4番目の順列に変わりはなかった。総合2位バルベルデがボーナスタイム6秒も手に入れて、首位コンタドールとの差を42→31秒へと再び詰めた。フルームとロドリゲスは、なんと1分20秒遅れの同タイムで並んだ。すなわち大会ルール第12条に従って、第10ステージの個人タイムトライアル時に記録された「100分の1秒」のタイム差で順位が決定された。こうしてフルームは1分20秒52差の総合3位となり、ロドリゲスは1分20秒64差の総合4位につける。

「サンティアゴ・デ・コンポステーラへの道が、また一歩、近づいたように感じてる。今僕の身に起こっていることは、数週間前の状態を考えたら、まるで夢のような出来事だよ。この先も1日1日、夢をつなげていく。たしかに、ライバルたちとのタイム差は大きくないし、いつなんどき引っくり返されるか分からない」(コンタドール、大会公式記者会見より)

3週目に恐ろしい追い上げを見せて、ジロ総合3位へと駆け上がったアルは、ついにブエルタでも総合トップ5の座に滑り込んだ(2分22秒遅れ)。バルギルは総合13位→10位(6分36秒遅れ)に上げ、「次は一ケタ台を狙う」(ゴール後インタビュー)と力強く断言する。

また、バルベルデは複合賞の白いジャージに加えて、山岳賞の青玉ジャージもさらいとった。デゲンコルブがなんとかポイント賞の緑ジャージは堅守しているが、やはりバルベルデに24pt差にまで詰められた。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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