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サイクル ロードレース コラム 2014年9月14日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2014 第20ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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標高1655mの山の上で、真っ赤な拳銃が火を噴いた。マイヨ・ロホ姿のアルベルト・コンタドールが、大会最後の難関山岳ステージを鮮やかに射止めた。過去グランツール5勝(失格された分を入れると+2勝)の大チャンピオンは、見事なまでの手練手管を発揮して、ライバルを完璧に封じ込めた。総合2位クリス・フルームとのタイム差を1分37秒へ開き、総合優勝をほぼ、手中におさめた。

見渡す限り山また山。人里遠く離れ、まるで秘境にさまよいこんだような、アンカーレスの頂へ――。

スタートから35km地点で、プリジミスラウ・ニエミエツ、ジェローム・コッペル、マキシム・ムドレル、ワウテル・ポエルスが逃げ出した。タイム差は最大10分半まで開いた。メイン集団では、ルイスレオン・サンチェスの山岳賞ジャージを守りたいカハルラル・セグロスエレヘアーが、真っ先に集団制御に乗り出した。続いてアスタナも追走に従事した。しかし、両チームとも、結局のところ主導権を手放すことになる。漆黒の衣を身にまとうチームが、赤ジャージに決戦を挑むために、前方へと競りあがってきたからだ。

ラスト45km、スカイがコントロール権を掌握した。この第20ステージと最終日タイムトライアルの2日間で、コンタドールとの1分19秒差を引っくり返そうと狙うリーダーのために。……クリスティアン・クネースは3日前に、ダリオ・カタルドはこの日の朝に大会を離れたけれど、残るアシスト6人全員が猛烈に働いた。最終峠手前の1級峠では、ヴァシル・キリエンカが高速で山岳列車を走らせた。引き始めはいまだ4分45秒あったタイム差を、20km先で1分にまで縮めた。その後はカンスタンティン・シウトソウがリレーを引き継いだ。

迫りくる脅威から逃げ切ろうと、エスケープ集団は必死の奮闘を続けた。4人の中でも特にニエミエツは、ぎりぎりで最終峠まで逃げを延長させた。しかし、第15ステージでコバドンガ山頂まで逃げ切った時とは、同じようには行かなかった。最終峠の序盤で、総合争いのビッグネームたちに、先を譲ることになった。

全長12.7kmのステージ最終峠でも、スカイのアシストが、健気なほどの献身を見せた。ゴール前10.7km、つまり登坂開始から2kmの勾配8%ゾーンにある第2中間ポイントでは、ボーナスポイント用スプリントをきっちりお膳立てした。ニエミエツに次ぐ2位通過を果たし、英国人は2秒を収集。ほんのわずかながら、首位コンタドールとの差を1分17秒に縮めた。さらに、その後にやってきた最大勾配18%ゾーンでは、フィリップ・ダイグナンが持てる力を全て振り絞った。激烈なペダリングで、メイン集団を一気に切り刻んだ。

「チームのみんな全てを投げ打ってくれた。とてつもない仕事をしてくれた。その目的は、厳しい展開に持ち込んで、最終盤に僕を攻撃へと送り出すこと。全てはタイム差をつけるため、アルベルトを苦境に追い込むためだったんだ」(フルーム、ゴール後インタビューより)

そんな中、真っ先にアタックを仕掛けたのはホアキン・ロドリゲスだった!総合では2分29秒差の4位で、表彰台までは57秒差。35歳大ベテランは、最後の瞬間まで諦めてはいなかった。いまだゴールまで9kmと遠かったが、大きな賭けに出た。

「ショーを盛り上げるためにアタックしたわけじゃない。勝つためにアタックした。タイムを稼ぎたかった。攻撃を仕掛けて、ライバルたちを驚かせたかった」(ロドリゲス、チーム公式HPより)

総合3位アレハンドロ・バルベルデは、弾かれたように追いかけ始めた。フルームも追走体制に入った。コンタドールはすかさず反応し、総合5位ファビオ・アルも後に続いた。レース先頭は一気に、今ブエルタ総合上位5選手へと絞り込まれた。

バルベルデとフルームは、そこから、交互に加速や小さな攻撃を繰り返した。若きアルは、ここ数日同様に、すぐに遅れがちになった。一方でコンタドールは――2日前はただバルベルデの背中に張り付いていたコンタドールは、この日はひたすらフルームの背中を見つめ続けた。この作戦は、ラスト9km地点からフィニッシュラインの数百メートル手前まで、徹底的に行われることになる。確かに、ほんの一瞬だけ、2人の間にバルベルデが割り込んだこともあったけれど……。

ゴール前6.2km、フルームが予告もなく、いつものクルクル高速回転に切り替えた。するとマイヨ・ロホの目の前で、プロ生活13年目の34歳ベテランが、痛恨のギアミスを犯した!コンタドールはすぐに、哀れな脱落者を追い抜いて、フルームの後輪に飛び移った。

「フルームが加速した時、うん、僕は、ちょっとしたスプリントをする羽目になったよ。2人に追いつくために後から壮大な努力をするよりは、(すぐに張り付いたほうが)エネルギーの温存になると思ったんだ。でも、フルームのリズム変化は、ものすごく強烈だった。だから、僕は並走を止めて、自分のペースで走ることに決めた」(バルベルデ、チーム公式HPより)

アルを振り払い、バルベルデを蹴落としたフルーム(とコンタドール)は、ついにロドリゲスにも追いつき、追い越した。山頂フィニッシュまで残り4.2km。2014年ブエルタ2強の、最後の一騎打ちが始まった。

「フルームとの決闘は、いつだって闘志を掻き立てられる。あれだけの勝歴を誇る実力者と、勝利を賭けて争うというのは、興奮させられるものだよ。それに、フルームとの対決は、決して簡単ではない。だって、彼が本気の全力疾走を始めたら、そこからはリズムが落ちることはないからね」(コンタドール、大会公式記者会見より)

7月のツール・ド・フランスで総合優勝を争うために、2人の大チャンピオンは、昨冬から長く厳しいトレーニングを積んできた。しかし、フルームは第5ステージで、コンタドールは第10ステージでそれぞれ落車の犠牲となり、失意のリタイアを余儀なくされた。手首を骨折した英国人は「大それた野望は持っていなかったんだよ。トップ10入り程度を目指すつもりだった」(ゴール後インタビューより)。右脛骨に亀裂が入ったスペイン人は、開幕前に「総合は無理だろう。徐々に調子を上げて、3週目の区間勝利を目指したい」と語っていた。そんな2人が、3週間の終わりに、総合優勝を争っている!

「最後の上りでは死力を尽くした。残念ながら、常に僕が彼を引く形になってしまったけどね。まあ、レースってのは、こういうもんさ。コンタドールを引き剥がそうとあらゆる工夫をしたけれど、僕より、彼のほうが強かったんだ」(フルーム、ゴール後インタビューより)

フルームは夢中で加速を繰り返した。独特のシッティング加速だけでなく、ダンシングでのスピードアップさえ試みた。コンタドールはただピタリと張り付き、決して離れなかった。そして、ラスト700m、エル・ピストレロは最後の仕上げに取り掛かった。散々力を費やしてきたライバルを、一瞬の加速で置き去りにすると、単独で山頂を目指し始めた。

山道に押しかけたファンたちは、熱狂しすぎて、コースに溢れ出した。チームオーナーのオレグ・ティンコフ氏は、「ビューティフルでワンダフル!コンタドールはヒーローだ!」と大声で感動を口にした。監督のビャルヌ・リースは、ただ静かに微笑みながら、スタッフと固い抱擁を交し合った。山頂にマイヨ・ロホ姿で現れたコンタドールは、おなじみバキューンジェスチャーを披露した後に、天に向けて両手を突き上げた。

「僕にとって一番スペシャルな優勝は、やっぱりフエンテ・デ区間で大成功を収めた2012年大会だけど……、このブエルタは、最もハイレベルなライバルたちを退けての優勝だ。明日の、最終ステージは、できることなら、勝利を満喫したい。喜びを噛み締めながら走りたいね」(コンタドール、大会記者会見より)

16秒後にフルームがゴールラインを越え、57秒後にバルベルデが、1分18秒後にロドリゲスが、1分21秒後にアルが山の戦いを終えた。区間を終えた順番は、そのまま、2014年ブエルタ総合の順番でもあった。総合2位フルームは1分37秒差、3位バルベルデ2分35秒差、4位ロドリゲス3分57秒差、5位アル4分46秒差。ブエルタを彩った5人の戦いは、最終日の、9.7kmの平坦個人タイムトライアルで幕を閉じる。

マイヨ・ロホ以外のジャージも、ほぼ確定した。2003年に夭折したスペインの山岳王、ホセマリア「チェバ」ヒメネスに捧げられたアンカーレス山のてっぺんで、LLサンチェスが山岳ジャージを確定させた。コンタドールから31分36秒遅れで走り終えたジョン・デゲンコルプは、この日も緑ジャージを持ち帰った。2位バルベルデとのポイント差は23pt、3位コンタドールとの差は24pt。つまり、両者いずれかが区間優勝して25ptを取らない限りは、デゲンコルプのポイント賞首位が揺らぐことはない。

ちなみに、デゲンコルプがゴールしたときには、表彰台はすでに撤収作業に入っていた。それを見た本人は、目を大きく見開いて、呆然としていたが……。それは6位ゴールのチームメート、ワレン・バルギルが代役で表彰台に上がっていたから。

なにしろ、ここは、熊しか住んでいないような、とてつもない山奥だ。チームバスが止まっているのは、細くうねった山道を、50kmほども走った先。しかも、選手たちがチームカーに分乗して、すでに暗くなり始めた道を進んでいるときに、突然大雨が降ってきた。街灯もない危険な山道で、しばらくは先導警察隊から待機を命じられたほど。サンティアゴ・デ・コンポステーラまでの215kmに、結局は、各チーム4時間近く費やす羽目になった!幸いなことに、上位5選手は、ヘリコプターで飛び去った。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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