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寒空の広がるパリ郊外から、プロトンは南を目指す。地中海の明るい太陽を求めて……!
というのが伝統的なパリ〜ニースの風景なのだけれど、地球温暖化のせいなのか、近年はどうも様子が違う。2015年もやはり、天気予報によれば、開幕地にはぽっかぽかのおひさまが照りつける。予想最高気温は17度!トロピカルでエキゾチックな国々で調整レースを重ねてきた選手たちにとっては、絶好のコンディションの中、シーズン最初の本格欧州戦に走りだすことができそうだ。
むしろ今年のパリ〜ニース一行は、週の半ばに、雪景色に出会うことになりそうだ。6.7kmのプロローグのあと、平坦な大地でウォーミングアップを済ませ、ロワールの丘陵でしっかり足試ししたあと、迎える第4ステージ。今大会の最難関ステージが、7つの峠を越えた果てに、1級クロワ・ド・ショーブレでフィニッシュを迎える。
地元の人々にとってはクロスカントリースキー場としておなじみのこの山は、3月半ばも、いまだスキー客でにぎわっている。真夏のツール・ド・フランスで過去8回使用され、かつてグレッグ・レモンやヤン・ウルリッヒが先頭で駆け上がってきたけれど、パリ〜ニースのゴール地に選ばれるのは史上初めて。ちなみに「ショーブレ」という山の名は、「北風に吹きつけられ丸裸にされた頂」という意味だそうだから、この日の選手たちも要注意。つまり登坂距離10km・平均勾配6.7%・最大8.3%の山道が、標高1201mのふきっさらしの山頂へと誘う。
自転車レースの歴史オタクなら、翌第5ステージに登場する1級峠コル・ド・ラ・レピュブリックも、きっちりおさえておきたい。1903年第1回ツール・ド・フランスで、冒険野郎たちが初めて挑んだ1000m級の峠こそが、まさしくこの「共和国山」なのだ!ただし2015年パリ〜ツールの総合争いには、残念ながら大きな影響を及ぼすことはないだろう。ショーブレ峠で実力者に手渡されたマイヨ・ジョーヌは、土・日の地中海決戦で、最終的な持ち主を決めることになる。
ところで、パリ〜ニースの魅力は、なにも春の太陽だけじゃない。色の変化も楽しめる。むきだしの牧草地帯は、南へ行くに連れて、次第に緑色に染まっていく。南仏プロヴァンス地方までたどり着くと、沿道にはすでに色とりどりの花が咲き誇っている。特に黄色いミモザは花盛り。またパリ近郊ではスレート色(灰色)だった屋根の色は、フランス中部でレンガ色に変わり、さらにプロヴァンスに行くと建物の壁の色がピンクや黄色に変わる。チームスタッフや取材陣にとっては、お手軽な「ワイン巡り」の旅だったりもする。いつもはブルゴーニュやボジョレーを楽しめるのだけど、今年はロワールが主役。第3ステージのゴール地サン・プルサンは、同名のAOCワインで有名だ。ニースについたら、少々気は早いけれど、コート・ド・プロヴァンスの冷やしたロゼもいいかもしれない。
「ミニ」ツール・ド・フランスと呼ばれるパリ〜ニースは、グランツール総合覇者の「登竜門」でもある。ミゲル・インドゥラインは1989年にパリ〜ニースを制し、2年後にツールで初優勝を手に入れた。1982年から大会7連覇の偉業を達成したショーン・ケリーは、7年目の1988年に、ブエルタで初の栄光を勝ち取った。2007年に初優勝したアルベルト・コンタドールと2012年優勝のブラドレー・ウィギンスは、それぞれ4ヶ月後のツールで初めてのマイヨ・ジョーヌを持ち帰っている。史上通算14人が、そのキャリアにおいてパリ〜ニースとグランツールの両方を制してきたが、パリ〜ニースより先にグランツールを勝ち取ってしまった早熟なチャンピオンは、偉大なるエディ・メルクスとトニー・ロミンゲルの2人だけ。
そして2015年パリ〜ニースのグランツール優勝経験者は、ウィギンス1人。当然ながら、未来のグランツール覇者候補は、片手では足りないほど揃っている。昨ツール総合2位ジャンクリストフ・ペロー、昨ジロ総合3位ファビオ・アールを筆頭に、ラファル・マイカ、リッチー・ポート、ロメン・バルデ、ティージェイ・ヴァンガーデレン、ワレン・バルギル、ウィルコ・ケルデルマン、アンドリュー・タランスキーetc……。
虎視眈々とマイヨ・ジョーヌを狙う「未来のチャンピオン」たちは、第6ステージ・土曜日の山岳ステージと、第7ステージ・日曜日の登坂タイムトライアルで最後の戦いを繰り広げる。第6ステージは、全長180.5kmのコースに1級峠3つ、2級峠3つがぎゅうっと詰め込まれている。しかし勝利の女神は、単なるヒルクライマーではなく、むしろ超一級のダウンヒラーに微笑みかけるに違いない。なにしろ最終峠ペイユをこなした後は、ニースの海岸道路プロムナード・デ・ザングレまで、なんと全長25kmのロングダウンヒル!もしも「南仏の太陽」が雨雲で隠されていた場合……、とてつもない大波乱も起こりえる。
そして最終日は、エズ峠を舞台とした、全長9.5kmの登坂タイムトライアル。3年前に復活した「決戦コース」は、2012年ウィギンス、2013年ポートと、いずれもマイヨ・ジョーヌがトップタイムをたたき出してきた(2014年は行われなかった)。今年も、美しき鷹の巣村を抱くこの山で、黄色いジャージが圧倒的な力を魅せつけるのだろうか。平均勾配4.7%、最大8.5%の山道での、約20分の孤独な努力の果てに、第73代パリ〜ニース覇者は誕生する。
そうそう、総合争いとは関係ないけれど、FDJ時代は「犬猿の仲」で、今季ついにチームメートの関係を解消したナセル・ブアニとアルノー・デマールによる本気のスプリント勝負も見逃せない!
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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