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サイクル ロードレース コラム 2015年3月28日

【ヘント〜ウェヴェルヘム/プレビュー】全長239km、落車やメカトラ、海風による分断が勝負を分ける

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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2015年3月22日に26人の集団スプリントを制して、ミラノ〜サンレモを勝ち取ったジョン デゲンコルブが、ちょうど1年前の春、28人のスプリント勝負でもぎとったのがこのヘント〜ウェヴェルヘムだった。

つまるところ「スプリンターズクラシック」と呼ばれる今大会には、やはりラストスパートに自信を持つ男たちが、こぞってスタートラインに詰め掛ける。しかもイタリアの崇高なる「クラシッチッシマ(クラシックの中のクラシック)」より格式の下がるベルギー・フランドル地方のワンデーレースに、強烈な憧れを抱くスプリンターは多い。あのマーク カヴェンディッシュも、そんなピュアスプリンターの1人だ。3つのグランツールで通算43勝もの区間勝利を荒稼ぎし、3大ツール全てでポイント賞ジャージを手に入れ、2009年にはミラノ〜サンレモを、2011年には世界選手権を勝ち取った世界最速の人間が、ずっと欲しくて欲しくてたまらないもの。

「プロ入りするとき、7つの目標を設定した。そのうち5つはクリアできた。あと2つのうちの1つが、ヘント〜ウェヴェルヘムのタイトルなんだ。次はヘントで勝ちたい。絶対に!」

2012年2月にこう宣言したカヴだけれど、あれから3大会が過ぎ、いまだ夢は叶えられていない(ちなみに最後の1つは秘密とのことだった)。

ピュアスプリンターたちは、それにしてもなぜ、このヘントに惹きつけられるというのだろう?

……それはもちろん、今大会がフランドルクラシックだから!ツール・デ・フランドルの石畳激坂群を攻略しようと思ったら、少々特殊なフィジカルや耐性が必要だ。だけどヘントだったら、ピュアスプリンターのままでも、真の男「フランドリアン」になれるかもしれないから!それが証拠に、石畳クラシックの王者トム ボーネンと並び、高速スプリント列車の完成者として名高いマリオ チポッリーニも、ヘント〜ウェヴェルヘムを通算3度勝ち取っている。

大まかなコース設定は例年同じ。ヘント郊外のダインゼからスタートを切ると、ひたすら西へ進路を取り、北海沿いまで到達した後、少しだけ南下して、それから東へ進んでウェヴェルヘムでフィニッシュ。逆コの字型のコースは、時には海風がびゅーびゅー吹き付ける海岸道路を長々と走ることもあれば、今大会のように少し内陸部を南下することもあり。ラスト3分の1には急坂群が立て続けに登場し、坂道は時に石畳で覆われている。2015年の全長239kmのコースには、9回の登坂が組み込まれた。

春先のフランドル特有の悪天候や、石畳路での落車やメカトラ、海風による分断など、勝負を分ける要因はコース上のいたるところに待ち受けている。しかし中でもケンメルベルフが、伝統的に、同レースの審判の地となってきた。第一次世界大戦の激戦では「禿山」と化し、第二次世界大戦直後からはNATOの地下司令室が置かれてきた(冷戦終了まで使用された)戦略要地は、自転車の世界では石畳の坂道として知られている。

今年は160km地点と201km地点の2度登場するケンメル坂道は、登坂距離2.5km、平均勾配4.4%。最大勾配23%と上りも飛び切り厳しいけれど、なにより下りがところどころ勾配−20%を超える逆激坂!たとえば2009年のエドヴァルド ボアッソンハーゲンは、上りでアタックをかけたクシェンスキーに、下りでアタックで追いつき、悪天候の中でそのまま逃げ切り優勝を決めている。しかも道は極めて細く、直角カーブも待ち受ける。渋滞・落車は当たり前。たとえどんなに脚の状態が良くとも、位置取りのミスは命取り。あっという間に分断に巻き込まれてしまうかもしれない。2012年のカヴもまた、この下りで、優勝の望みを断たれたのだ。

2度のケンメルベルフで絞り込まれた集団は、ゴール前34.5kmのモンテベルフでこの日最後の上りを終える。あとは集団スプリントゴールへ向かって、ひたすら突き進むだけ――。いや、それでも、ヘント〜ウェヴェルヘムの勝負の行方は最後までわからない。ピュアスプリンターたちは、容易に勝利を確信してはならない。なにしろ2013年のペーター サガンは、ゴール前3.5kmの平坦なアスファルト路で、勝利への単独アタックを決めているのだから!

ちなみに28日の夜中に、ヨーロッパはサマータイムへと移行する。日本との時差は8時間から7時間に縮まり、ヘント〜ウェヴェルヘムに向かう選手たちは、貴重な睡眠時間を1時間削られることになる。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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