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【フレッシュ・ワロンヌ/プレビュー】ユイでの仕掛けるタイミングが勝負を左右する!優勝候補はアムステルでも好調だったバルベルデか?
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかHUY、HUY、HUY。週の真ん中の、壁よじ登り大会。名うての激坂ハンターたちが、歯を食いしばり、坂の上の栄光に向かって、全力でペダルを踏み込む。
フレッシュ・ワロンヌの勝負は、激坂ミュール・ド・ユイで決まる。登坂距離1.3km、平均勾配9.6%。坂の途中にある白い礼拝堂の手前の、左にぐるりと回りこむシケインは、最大勾配26%にまで達する。まっすぐ立っていられないほどの激坂を、2015年のプロトンは3度使用する(118km地点、176.5km地点、205.5km地点=フィニッシュ)。
ポッジオ、ケンメル、コッペンベルフ、アランベール、カウベルグ……と、クラシックには数々の勝負地があるけれど、ミュール・ド・ユイほどの決定力を備えたものはないだろう。朝からのエスケープも、終盤のアタック合戦も全て封じ込められる。本命は全員集合し、ユイでの最終一発勝負に賭ける。これぞいわゆる様式美。2012年は坂の途中まで粘った選手がいたが、てっぺんまで逃げ切った猛者は2003年まで遡らねばならない。なんと140km近いエスケープを成功させ、ユイの壁に2人で飛び込み、一対一の勝負を制したのはイゴール・アスタアルロアだった。数カ月後にロードの世界チャンピオンに上り詰めた強者である。
だったらユイの壁だけでレースをすればいいじゃない、なんて冗談も大会現場では飛びかう。レース開催委員会はどうにか「ユイ以外」の部分も盛り上げようと、毎年コース作りに工夫を重ねる。たとえば2012年以前は、コース最初の難所がユイ(第1回目通過)だった。スタートから70km近くは退屈なほど動きがなく……、だから2013年からは、ユイの前にも坂を入れてみることにした。2015年大会は3つの坂道をこなしてから、第1回目ユイ登坂にとりかかる。しかも昨大会は序盤1時間が時速49kmを超える猛スピードだったから、今年はさっそく22km地点に、第一の上りが投入された。ちなみに坂の名前はコート・デ・トラントシス・トゥルナン、日本語に訳せばズバリ、36のカーブのある上り。まあ実際のところそれほどカーブはきつくはないのだけれど、自動車やオートバイのタイムトライアルレースにも使われたりする、走り屋たちの間では有名な道らしい。
たとえば2014年には2度目と3度目のユイの距離を、それまでの約30kmから、一気に23.5kmに短縮してみた。ただし、2度目のユイ通過で動きがあるように、との狙いは残念ながら外れた。今年は再び距離は開いたが、代わりにゴール前5.5kmに新たな坂コート・ド・シュラヴが組み込まれる。登坂距離1.3km、平均勾配8.6%、最大勾配15%と、このニューフェイスはなかなか手強そうだ。……しかも、2015年フレッシュ・ワロンヌのラスト3坂、エレッフ→シュラヴ→ユイは、この夏のツール・ド・フランス第3ステージでそっくりそのまま拝借される!
開催委員会の新たな工夫は効果を発揮するだろうか。事前にアタックを仕掛ける冒険者たちの奮闘は、実を結ぶだろうか。それとも2015年のフレッシュ・ワロンヌの勝負も、やはり激坂ミュール・ド・ユイで決まるだろうか。
ユイに突入したからといって、早すぎるアタックは失敗のもと。壁を飛ぶように登る脚を持ち、どんなに絶好調でも、タイミングは大切だ。2010年アルベルト・コンタドールは、ゴール前300mで鮮やかに加速したが、最後はぐだぐだになり3位。2013年にカルロス・ベタンクールはゴールまで500mも残っているというのに、するすると前方へ駆け上がった。結局ゴール前150mからの猛烈な伸びに抜かれ3位。なにより、1年前は、ミカル・クヴィアトコウスキーがラスト250mで真っ先に加速を始めたけれど……、やっぱり3位。
去年のクヴィアトコウスキーは、アムステルでも早すぎた。しかし、失敗を経験に変え、昨秋世界チャンピオンとなった24歳は、どうやら最適のタイミングまで我慢できるようになったらしい。ステージレースに関しては相変わらず勇敢なアタックがお好きなようだけれど、今年のアムステル・ゴールドレースでは、自らは無駄に動かず、ゴールスプリントまで体力を温存した。自身にとって4度目の挑戦となる壁よじ登り大会でも、きっと今年は、その時が来るのをじっと待ているはず。
もちろんプロトン屈指の激坂ハンターといえば、やっぱり「プリト」の愛称でお馴染みのホアキン・ロドリゲスで、2012年に壁の王者となった。翌年には普段はアシスト役であるダニエル・モレノが、プリトの後押しで優勝を決めている。しかも所属チームのカチューシャは、石畳系クラシックではクリストフ&パオリーニのリーダー&アシストコンビが1つずつ勝利をもぎとったから、アルデンヌでも、プリト&モレノ組の連携プレーに注目したい。
フィリップ・ジルベールは、現役屈指のパンチャーではあるけれど、決して激坂ハンターではない。「僕にはあの激坂を攻略できるほどの脚はない」と常々繰り返している。それでも、「アルデンヌ生まれのクラシックハンター」の名にかけて、勝利を目指して走るはずだ。坂道の癖も、攻撃すべきタイミングも、完璧に把握している。アルデンヌ3戦を全制覇した2011年くらい絶好調ならば、間違いなく勝機はある。アムステルのカウベルグで、最高のタイミングで加速したにも関わらず、ライバルたちを振り払えなかった今のジルベールが……、絶好調には見えないけれど。
アムステルでも威厳ある逃走を見せたヴィンチェンツォ・ニーバリや、6位→4位→2位と毎年確実に順位を上げているダニエル・マーティン、ジュリアン・アレドンド&バウク・モレマのトレック組、ツール・ド・フランスの下見を兼ねて5年ぶりにユイの壁にやってくるクリス・フルームらの動向も気になるが、優勝候補には一応アレハンドロ・バルベルデを挙げておこう。
天性の上りスプリント力を持ち、ワンデーレースもステージレースも器用にこなすスペイン人は、2006年と2014年の過去2回、ユイの壁のてっぺんで両手を上げている。世界選手権表彰台6回という記録も凄まじいけれど、アルデンヌクラシック表彰台12回(うち優勝4回、2010年のリエージュ3位は後に取り消し)というのはもっと恐ろしい。去年はユイの壁ラスト1kmを、史上最速の2分41秒で上り切った。大会の3日後には35歳になるけれど、大会の3日前にアムステル・ゴールドレースで2位に食い込んだことも忘れてはならない。バルベルデはまだまだ健在だ。若手の脅威を感じつつも……。
「新しい世代が台頭してきている。デゲンコルブに、クリストフに、クヴィアトコウスキー……。我々の世代をそのうち追い抜いていくだろう。でも、僕ら年寄り組は、その時が来るのを少しでも遅らせるために、戦うのさ」(バルベルデ、アムステルゴールドレース後のコメントより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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