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大会初の休養日の前日、アスタナが改めて、2015年ジロの最強チームであることを見せつけた。前方ではパオロ・ティラロンゴが区間勝利を収め、後方ではファビオ・アルとミケル・ランダが総合争いを猛烈にかきまわした。ただし、水色の度重なる波状攻撃にも、ライバルたちは崩れなかった。アルベルト・コンタドールは、総合2位アルに対してタイムを1秒失っただけで、マリア・ローザをしっかり守った。リッチー・ポートも、スプリントに少々弱いところを除けば、一切のほころびを感じさせなかった。
翌日のことなど考える必要はなかった。持てる力を振り絞って、多くの選手がアタックに身を投じた。長く激しい戦いは実に52kmも続き、ついには11選手がエスケープへと乗り出した。カルロスアルベルト・べタンクールとステフェン・クルイスウィクは、2日連続の逃げだった。ソンニ・コロブレッリは25歳の誕生日だったし、総合で4分45秒遅れのアマエル・モワナールはマリア・ローザを意識していた。
「昨日から考えてた。もしかしたら今日、コンタドールはマリア・ローザを手放すつもりかもしれない……って。だから前ステージはラスト5kmで力を抜いて、今日に備えた。可能性はわずかでも、トライする価値があると思った」(モワナール、ゴール後TVインタビューより)
読みは決して間違ってはいなかった。当初の予定では、まさしく、ティンコフ・サクソは誰かにジャージを譲渡する予定だったから。
「でも前方のメンバーを見て考えなおした。うっかりタイムを与えてしまうと、総合争いで後々危険になりそうな人物が何人も潜り込んでいたからね。計画は変更。ジャージを手放さないことに決めたんだ」(マイケル・ロジャース、ゴール後TVインタビューより)
ティンコフ隊列は、いつものように、前方とのタイム差を慎重にコントロールした。それでも最大6分ほどのリードを与えられ、モワナールはほんの短い間だけ、「暫定」リーダーの座を楽しんだ。
キャノンデール・ガーミンは、逃げながら、計画を練り上げた。エスケープに乗ったのは、2012年ジロ総合覇者ライダー・ヘシェダルと、2013年ツアー・ダウンアンダー総合覇者トムイェルト・スラフテルの2人。ゴール地形はスラフテル向きだ。だから単独で飛び出して区間勝利を狙おう。ヘシェダルは後方で逃げ集団を制御しつつ、総合タイム差を縮めよう。ゴールまでいまだ70kmも残っているというのに、こうして、痩せたオランダ人は前方へひらりと躍り出た。大男のカナダ人は、8人のライバルたちと追走集団に残り、厳しい監視の目を光らせた。……しかし、キャノンデール・ガーミンの計画に、狂いが生じた。
実はティンコフ・サクソ以外にもう1つ、計画を変更したチームがあった。アスタナだ。エスケープ集団にティラロンゴが滑り込んだのは、本来の予定によれば、後々アルが追い付いてきた時にヘルプするため。ゴール前85kmでダリオ・カタルドが一瞬飛び出しにトライしたのも、前方待機が目的だった。
「朝の時点で、逃げに乗るよう指示された。区間を勝つためではなく、前にいるため。つまり最終峠でチームが動いた時に、すぐに助けに駆けつけられるように。最終盤の僕はそれができる場所に控えていた。でもチームカーが、無線で、連絡してきた。ステージを取りに行ってもいいぞ、って」(ティラロンゴ、公式記者会見より)
2010年はコンタドールの山岳アシストとして、また信頼できる先輩として、着実に任務を遂行した。昨ジロとブエルタでは13歳年下のアルのために献身を尽くし、それどころか、まるで保護者のように若き才能を見守ってきた。そんな「アシストの鏡」のようなティラロンゴが、ゴール前14km、自らのためにアタックを打った。
それでも、走りながら、注意深く無線に耳をそばだて続けたそうだ。後方で何が起こっているのかを、正確に把握するために。
「アルとランダがいい動きをしているのが、聞こえてきたよ」(ティラロンゴ、公式記者会見より) (インサウスティ、チーム公式HPより)
後ろ髪を引かれることなく、37歳の大ベテランは、安心してペダルを回した。むしろ、スラフテルに追いつけないかもしれないことのほうが、怖かったそうだ。すべては杞憂に終わる。残り8kmで獲物を捉えた。2時間近く孤独な逃亡を続けてきた哀れな男には、もはや敵と張り合う体力が残っていなかった。ラスト4.3km、ティラロンゴが特段スピードを上げたわけでもないのに、スラフテルはずるずると後退していった。
「僕らは信じられないようなレースをした。でも厳しかった。トムから『もう無理だ、勝てない』と無線で連絡があったから、僕も出来る限りの追走を試みた。結果は残念だったけどね。美しいチームワークだったさ」(ヘシェダル、ゴール後TVインタビューより)
本人さえ予定もしていなかった、3度目のジロ区間勝利だった。しかも3度目にして初めての、完全なる独走勝利だった。おかげでフィニッシュラインへと向かいながら、ゆっくりと勝利の喜びを噛み締められた。なにしろ前回2回は山頂フィニッシュで、特に2度目はあまりに爆発的なダッシュを披露したせいで、フィニッシュゾーンで横たわったまま動けなくなったほどだったから。
ちなみに1回目は、マリア・ローザ姿のコンタドールが、チームの枠を越えてアシスト役を務めてくれた。2012年ブエルタでは、逆にティラロンゴが、コンタドールの伝説的大逃げ(第17ステージ)をサポートした。しかし、今回ばかりは、ティラロンゴとコンタドールの協力体制は見られないのだろう。
ゴール前13km、後方メインプロトンから、アルがアタックをかけた。コンタドールやポートは難なくついてきた。ランダもアルのもとへと馳せ参じた。いつものように、4人の集団が出来上がった。そして唯一のアシスト格であるランダが、自らのリーダーのために猛烈に引き始めた。そしていつものように、コンタドールやポートは、アスタナ2人の後ろに張り付いた。
ところが今日は、少しだけ勝手が違った。ステージ最後の2級峠を越え、下りに入ると、アルとランダが2人のライバルに先頭交代を命じたのだ。
「最終盤はもっと守備的に走りたかったけれど、でもアルが、仕事に協力するよう言ってきた。後方にいる(リゴベルト・)ウランとのタイム差を開くのは、確かに大切だった。だから僕らは、一緒に仕事をしたんだ」(コンタドール、公式記者会見より)
アルとコンタドールはちょっとした共闘体制を組んだ。ポートも積極的ではなかったけれど――第14ステージの個人タイムトライアルに向けてウランを怖がっているのはアルで、TT巧者ポートではないから――、何度か前を引いた。4人は攻撃しあうこともなく、まとまって最終ストレートへと姿を表した。ただラスト200mで、アルが抜け駆けのようにスプリントを仕掛け、コンタドールとポートから1秒掠め取ることに成功した。
「アルにスプリントされて、1秒差を詰められた。それでも今の自分の状態に満足しているよ。優勝候補たちのタイムギャップはひどく少ないけれど、ウランとの差を開けたし、それに僕はマリア・ローザを着ている。明日は休養日だから、肩と脚をしっかり休められるしね」(コンタドール、公式記者会見より)
4人の協力体制の結果、ウランは46秒失った(アルに対しては47秒)。総合ではコンタドールからの遅れは2分10秒にまで広がった。アルは3秒差、ポートは前日と変わらず22秒差につけている。
ひどくめまぐるしく、濃厚な序盤9日間が幕を閉じた。人生14回目のグランツール(しかしジロは初出場)を戦うトム・ボーネンが、「今まで体験してきた中で、最も厳しいグランツール1週目だったよ」と漏らしたほどだった。生まれて初めてのグランツールに臨んだ石橋学は、1度目の休養日を待たずに、レース現場を去った。
またJ SPORTSレポートに10年以上レースフォトを提供している砂田弓弦フォトグラファーが、ゴール前75km付近の下りヘアピンカーブで、オートバイごと転倒した。幸いにも骨折はなかったものの、腰を2針縫合。右膝に水がたまり、CTスキャンでの再検査が必要とのこと。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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