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1時間17分52秒の長く苦しい努力の後に、2時間近く待たされたヴァシル・キリエンカは、ようやく最後に笑顔になった。自らを「タイムトライアルスペシャリスト」と呼び、チームからこの日の朝「俺達は勝ちに行く」と発破をかけられていたベラルーシ人が、ジロで初めての個人タイムトライアル勝利を手に入れた。区間勝者からわずか14秒遅れのタイムを記録したアルベルト・コンタドールは、落車のせいで失ったマリア・ローザを、あっさり1日で取り戻した。リッチー・ポートとリゴベルト・ウランは、ナショナルTTチャンピオンジャージ姿で大幅にタイムを失い、完全に総合優勝争いから退いた。
雨、風、長さの三重苦。59.4kmというのは、ジロ史上でも11番目に長い個人タイムトライアルだった。桁外れの長さに、恐れをなして……、というよりこの先は、最終日ミラノくらいしか本当のチャンスが残っていないからなのだけれど、トム・ボーネン、アンドレ・グライペル、マイケル・マシューズという3人のスプリンターが帰宅の途についた。1年前に最終日の集団スプリントを制した思い出が、ルカ・メズゲッツを大会に留まらせたのかもしれない。スロヴェニア人スプリンターは、1時間32分21秒の最下位で走り終えている。
出走選手179人中、95番目に走りだしたキリエンカは、3つの中間計測地点ですべてトップタイムを叩きだし、そのまま最後まで首位に居座った。2008年の第19ステージは、冷たい雨の降る中で、ピッツォ・デッラ・プレゾラーナの山頂で独走逃げ切り勝利を飾った。2011年は最終日前日のセストリエーレまで(今年と同じだ!)、やはり1人で逃げ切った。そして、今回も、ある意味では……逃げ切り勝利だった!
世界選手権個人タイムトライアルで2012年3位(45.7km)、2013年4位(57.9km)、2014年4位(47.1km)と好成績を並べてきた男は、序盤の平坦ゾーンで、大量にリードを稼いだ。後半の、アップダウンコースが始まると、少しずつ貯金を失っていった。ラスト約10kmのタイム順位だけ見れば、40秒遅れの26位でしかない。しかし、ヒルクライマーたちの猛烈な追い上げを振り切って、見事なジロ区間3勝目を手に入れた。
「今日はチームとしてタイムトライアルを勝ちにいった。ゼネラル・マネージャーのブレイルスフォードが、『今日は俺達が勝つぞ』と声をかけてきた。誰が、とは言わなかった。僕達全員で勝ちにいったんだ。もちろん僕だってチームの重要な一員で、僕も今日はチームのために仕事をした。僕は結果に満足しているし、きっとチームも満足してくれていると思う」(キリエンカ、公式記者会見より)
もちろんスカイは、大喜びのはずだ。しかし、ポートが得意種目を利用してタイムを取り戻すどころか、4分20秒遅れの区間55位で……、8分52秒遅れの総合18位に沈んでしまったことに関しては、簡単には消化できないかもしれない。
「このジロは、リッチーにとって、ラッキーではなかった。データ上では簡単そうに見えたコースが、実際のところは、ひどく難しい日になってしまった。総合争いはもはや難しいだろう。でも、ここらか先も、勝利に向けて戦っていく」(キリエンカ、チーム公式HPより)
オレグ・ティンコフ氏も、大喜びしていた。コンタドールのマリア・ローザだけでなく、なんと、キリエンカの区間勝利にも、賞賛の声を送った!
「アルベルトがリーダージャージを取り戻して、本当に満足している。でもキリエンカの勝利もすごく嬉しい。だって彼のことは、若い時から知ってるから。僕の昔のチーム(ティンコフ・クレジットシステム)で、選手をしていたんだからね。つまり僕にとっては、可愛い子供2人が、いっぺんに素晴らしい成績を上げたようなもの。二重の喜びだ!」(ティンコフ氏、TVインタビューより)
前ステージの落車でファビオ・アルから36秒を失い、19秒差の総合2位に陥落したコンタドールは、ゴール直後は、失ったタイムのことを深刻に考えたという。ただし、夜のうちに、「たいした秒数じゃない」と思い直したそうだ。その後は、チェーンに打ち付けた左足の膝の様子が、不安になった。それも今朝起きて、ローラー台を回してみたら、「たいしたことなさそうだ」と分かった。それでも、前半飛ばしたキリエンカとは逆に、第1中間ポイントまでを1分06秒遅れの19位でゆっくり走った。
「コース前半は、少し抑えめにペダルを回したんだ。ただ実際に走ってみて、調子が問題ないことが分かったから、後半は全力で飛ばしたよ」(コンタドール、ゴール後TVインタビューより)
そこから8位→4位→3位と順位を上げていった。後半のアップダウンゾーンだけみれば(35.1km〜フィニッシュまで)、キリエンカを1分01秒も上回るスピードに達している。
ちなみに、アップダウンゾーンを最速で走ったのは、アスタナのタネル・カンゲルトで、コンタドールさらに14秒速かった(区間は1分17秒遅れの6位)。またアスタナではルイスレオン・サンチェスも、12秒遅れで区間2位に入る大健闘を見せている。
カザフチームから、こうして2人が好成績を上げた一方で、上位3選手にとっては難しい雨の単独走行となった。1分49秒差で総合5位につけていたダリオ・カタルドは、4分50秒差の6位に順位を下げた。1分14秒遅れの総合3位ミケル・ランダは、4つランクダウンの総合7位4分55秒に。そして水色のジャージの代わりに、生まれて初めてピンク色のアエロスーツを身にまとい、最終走者を務めたファビオ・アルは、3分01秒差の区間29位で走り終えた。59kmの長くて、短い、マリア・ローザの1日だった。
「長かった……。コンタドールは、素晴らしい走りを見せたね。でも、僕自身は、今日の走り自体には、満足しているんだ。ジロはまだ長いし、明日からは山が始まる。戦いは続くんだ」(アル、ゴール後TVインタビューより)
総合は2位に逆戻りし、コンタドールからの遅れは2分28秒にまで開いた。しかし、ある意味、多少なりとも予想していた結果だったようだ。24歳の若者は、すぐに気持ちを切り替え、これから立て続けにやってくる得意の山に強く望みをつなぐ。
「アルにとっては、今日は、よい1日ではなかったかもしれない。でも、明日のマドンナ・ディ・カンピーリョでは、もしかしたら、よい1日にできるかもしれない。僕は来年再びジロ・デ・イタリアに戻ってこられるかどうか、分からない。だから、あらゆる瞬間に、最善を尽くしていきたい」(コンタドール、公式記者会見より)
優勝争いは、コンタドールとアルの2人だけに、絞りこまれたのだろうか。なにしろ予想外なほどに、リゴベルト・ウランも失速した。「数日前の落車で、左半身が痛み、ふさわしいポジションを見つけられなかった」(チーム公式リリースより)と語るコロンビアTTチャンプは、コンタドールからは新たに1分31秒失い、アルからはたったの16秒しか稼げなかった。総合では4分14秒差の4位。マリア・ローザははるかに遠ざかった。
むしろ1分48秒遅れの区間15位アンドレイ・アマドールが、前日の総合8位から総合3位・3分36秒差にジャンプアップ。さらにツール・ド・フランスで総合4位に2度入った経験を持つユルゲン・ヴァンデンブロックが、総合11位から4分17秒差の総合5位へと浮上してきた。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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