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サイクル ロードレース コラム 2015年5月25日

ジロ・デ・イタリア2015 第15ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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1998年にジロ&ツールのダブルツール制覇を成し遂げたマルコ・パンターニが、翌年に人生最後のジロ区間勝利を上げたのが、このマドンナ・ディ・カンピリオだった。そして翌日、マリア・ローザを着たまま追放されて……。喜びと悲しみ、両方の思い出が残された特別な山を、バスク人のミケル・ランダが勝ち取った。圧倒的な数的有利に持ち込んだアスタナの高速列車に、1人で耐え続けたアルベルト・コンタドールは、マリア・ローザを悠々と守り切った。

ティンコフ・サクソはどうしても飛び出したくて、アスタナがどうしても飛び出させたくなかった。スタートからの高速アタック競走は、総合首位と2位を擁する2大チームの、睨み合いの場となった。バトルは1時間以上も続いた。大きな集団のまま2級峠に差し掛かり、エスケープ集団よりも先に……、グルペットが出来上がったほど!

それでもスタートから54km、2級峠への上り坂で、ようやくジョヴァンニ・ヴィスコンティとイルヌール・ザカリンが逃げ出した。山岳賞ジャージ姿のベナト・インサウスティもすぐに合流した。

ところが、後を追って飛び出した小さな集団は、恐ろしい勢いで迫ってきたティンコフ軍に飲み込まれてしまった。そして、インサウスティが何事もなく平安に山頂1位通過を果たした後、ティンコフはまんまと前方へ1人送り出すことに成功する。下りを利用して、セルジオ・パウリーニョが逃げの3人へと追いついた。

敵の抜け駆けを、もちろん、ファビオ・アルが許すわけもなかった。水色の隊列は猛烈にスピードを上げ、自陣からディエゴ・ローザを仕向けた。ユベール・デュポンを含む3人が行動を共にし、さらに2人が追い付いてきた。先頭集団は10人に膨れ上がった。

ティンコフとアスタナから、逃げに1人ずつ。しかし、その2人は、まるで働こうとしない。エスケープのメンバーにとっては迷惑な話だったに違いない。30kmくらい一緒に走り、タイム差が3分差程度にしか開かないと分かった時点で、反応は真っ二つにわかれた。ヴィスコンティ、カンスタンティン・シウトソウ、デュポン、そしてブレント・ブックウォルターは、再度アタックをかけて先を急いだ。取り残されたその他選手は、黄色と水色の人と共に、ゆっくりと後方集団の復帰を待った。

両チームのせめぎ合いは延々と続いた。10人の逃げが行ってしまってからは、ティンコフが残り8人で隊列を組み、集団制御を精力的に務めた。パウリーニョとローザを回収し、1級ダオーネ峠へと突入すると、ゴールまで残り37km。いよいよアスタナ山岳列車が発動した。

すでにリッチー・ポートは、メイン集団から退却していた。アスタナのパオロ・ティラロンゴが猛烈な牽引を始めると、今度はリゴベルト・ウランがついていけなくなった。2週間前のジロ開幕時には、コンタドールやアルと並び、2人は総合優勝の大本命に上げらていた。しかし、落車やメカトラ、ペナルティ等々でタイムを大幅に失い、前日の個人タイムトライアルで完全に優勝争いから脱落した。そして、この日……、2人の総合トップ10入りさえも怪しくなった。

「今日はスタートから調子が良くなかった。最初の登りでも、メイン集団に留まるためにもがき苦しんだ。それから、ダオーネ峠の加速で、ついていけなくなった。力を振り絞ることが出来なかったし、呼吸さえ上手くできなかった」(ウラン、チーム公式リリースより)

最終的にウランは8分遅れでこの日のステージを走り終え、総合4位から、15位(12分15秒遅れ)へと大きく後退した。ポートは27分04秒遅れの小さなグルペットでたどり着き、総合27位(35分57秒遅れ)で大会2週目を締めくくった。

ティラロンゴの恐ろしいスピードに、ティンコフ最後のアシスト、マイケル・ロジャースさえもついていけなくなった。ステージ序盤に大いに働いたコンタドールボーイズは、ゴール前30kmで、まさかのゼロ人になった。一方でアルの周りは、いまだ4人の親衛隊が固めている。コンタドール1人vsアル+アスタナ4人という、とんでもない不均衡な状況ができあがった。

「今日のアスタナはとんでもなく強かったよね。まるでチームトライアルみたいだった。僕は、彼らの後輪に入り込んで、走り続けた」(コンタドール、公式記者会見より)

その後の下りで、数人の選手たちに混ざって、ユルゲン・ヴァンデンブロックが落車した。メイン集団から大きく引き離された。前日TTの好走で、総合5位に浮上したばかりだったというのに、この日だけで6分近くタイムを失い、総合11位・10分05秒差へと後退を余儀なくされた。つまり、こんな風に、道のあちこちに危険が潜む道で、コンタドールは孤独な戦いを強いられた。メカトラや落車時に、すぐにサポートに駆けつけてくれるチームメートのいないまま、アスタナ隊列の背後で黙々と走り続けた。

前で逃げていた選手たちは、デュポンを除いて、最終峠の直前で吸収されていた。すると、水色の隊列の背後ろから、突如としてピンク色が飛び出した。なんと、山の麓に設定されていた中間スプリントで、2位のボーナスタイム2秒をコンタドールが取りに行ったのだ!……びっくりするような動きを見せた後、再び、スペインの偉大なるチャンピオンは、静かに前から6番目の場所へと戻った。

山に入ると、まずはローザが先頭を務め、デュポンを吸収した。続いてティラロンゴが猛烈に牽引して、先頭集団を10人に絞り込んだ。続いたタネル・カンゲルトはパンターニ風に「下ハン」で、マドンナ・ディ・カンピーリョの町中まで引っ張った。アスタナはひたすらにテンポを刻むだけで、特に揺さぶりをかけてくるわけでもなかったから、コンタドールはただ黙ってついていけばよかった。

ゴール3km、町を抜けて、短いパヴェ区間に差し掛かった。この時点で勢力バランスは、コンタドール1人vsアスタナ2人。ここで、ようやく、アスタナが、動いた。

仕掛けたのはランダだった。コンタドールはためらわず張り付いた。ふと後ろを振り向くと、アルと少し距離が離れていることに気がついた。今度は、マリア・ローザが加速してみる番だった。

「足の調子はすごく良かったし、今日はステージが勝ちたかった。特にここはマドンナ・ディ・カンピーリョだ。伝説的な峠だよ。パンターニのことも考えた。彼からは大いにインスピレーションを受けてきたから」(コンタドール、公式記者会見より)

しかし、ランダがすぐに潰しに走り、アルもユーリ・トロフィモフと共に追い付いてきた。ようやくアスタナは、数的優位を、利用し始めた。アルが加速し、ランダが加速し、アルが張り付き、ランダが張り付き……。そうこうしているうちにトロフィモフに矢のように追いぬかれてしまったこともあったけれど、ついにゴール前600m、ランダが決定的な一発を決めた。

第8ステージでも、1日中アスタナが働いた末に、ゴール前4.5kmでランダは飛び出した。しかし前を行くインサウスティに追い付けず、2位でひどく悔しい思いをした。アスタナも「一体何がしたかったのか」と大いに作戦を批判された。この第15ステージでは、少なくとも、ランダは勝った。25歳で、生まれて初めてのグランツール区間勝利を手に入れた。

「勝ちたかった。目標を達成できたことで、心が軽くなった。今日の作戦は、どちらかが最終的に飛び出せるまで、アルと僕とが、順番にコンタドールにアタックを仕掛けることだった。スプリントにもつれ込んだら、僕が少し強いかな、と思っていたけれど、最終的には僕にとってベストな形が作れた」(ランダ、公式記者会見)

アルにとっては、決してベストではなかった。トロフィモフが2位に滑り込んだ後、区間3位はコンタドールにさらわれた。もちろんボーナスタイム4秒を献上し、ゴールタイム自体も1秒差を付けられた。つまりは、チームメートを大いに働かせた結果、総合タイムをまた新たに7秒失った(2分28秒→2分35秒差)。一方のランダは、4分46秒差の総合4位につける。

「僕の調子はいいけど、コンタドールから5分を奪おうと思ったら、『カンピオニッシモ』じゃなきゃできないよ。不可能だとは言いたくないけれど、ほぼ不可能だ。だからまずは、アルのポジションを守っていくほうが簡単だ。そして彼の調子が良い日に、コンタドールを倒しに行く。だって遅れは2分半しかないんだから」(ランダ、公式記者会見より)

同じスペイン人の勝利を賞賛しつつ、コンタドールは、2度目の休養日をピンク色で迎えられたことに喜びを隠せない。2週間前に海岸線から走りだし、ドロミテにたどり着いた174人の選手たちも、山間の村でつかの間の休養を楽しむ。

「まだ先は長いし、誰にでもいい日もあれば、悪い日もある。でも今現在の僕は、とても良い調子だから、本当に嬉しいんだ。たしかにアスタナは、2人の好調な選手を抱えている。だから僕は各ステージを、これからも慎重に戦っていかなければならない。もしかしたら、守備的に走る代わりに、アタックする必要があるかもしれない。脚の調子さえ良ければね」(コンタドール、公式記者会見より)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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