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緩から急へ。難関山岳の合間の、いわゆる「移動ステージ」と呼ばれた短距離ステージには、ラスト25kmにめまぐるしいスペクタクルがぎゅっと詰め込まれていた。アクロバチックな道の果てに、サーシャ・モドロが区間2勝目を挙げた。チームメートの献身できっちり危険を回避したアルベルト・コンタドールは、41人にまで小さくなった先頭集団で1日を終えた。大きな落車もなく、問題になるメカトラもなく、総合争いにもほぼ変動はなかった。
険しい山を抜け出したプロトンは、午後ゆっくりとした時間にのんびりと走り出した。ずいぶんと久しぶりに、気持ちの良い青空にも恵まれた。美しく雄大な湖の風景に、心が洗われた。スタート直後に、マルコ・バンディエーラ、イーリョ・ケイセ、ジャコモ・ベルラートをあっさり前方に送り出すと、しばらく集団は静かな時を過ごせるはずだった。
ところが、モドロもコンタドールも口を揃えて言ったように、「ロードブック上で見た感じよりも、ずっとコースは難しかった」。しかも、山や悪天候に耐えて、ここまで走り続けてきたスプリンターたちが、注意深くタイム差制御に乗り出した。ランプレ(モドロ)、トレック(ジャコモ・ニッツォーロ)、ジャイアント(ルカ・メズゲッツ)が集団前線に数人を配置し、前方の3人には、最大3分ほどのリードしか与えなかった。なにしろ、今大会ようやく訪れた4度目のスプリントチャンスだ。今回を逃すと、あとはミラノ最終日しか、輝ける機会は残されていない。中間スプリントでポイント稼ぎも行いつつ(エリア・ヴィヴィアーニとニッツォーロが10ptずつ)、ゴール前26kmで3人をさらりと吸収した。
最終盤のプロトンは緊張感で溢れていた。道幅はひどく細く、トンネルが繰り返し現れ、小さなカーブや起伏が延々と続く。つまりは……アタック向き!
吸収直後にさっそく数人が動いた。アダム・ハンセンとパトリック・グレッチュが飛び出し、ダルウィン・アタプマも後に続いた。しかし2011年ブエルタから10大会連続でグランツール完走を果たし、史上新記録となる11大会目も完走目の前、という34歳タフガイは、むしろ単独で先を急ぐほうを選んだ。すぐに2人を振り払うと、得意の独走力で、すぐさまメイン集団に20秒近いタイム差を押し付けた。
残念ながら、ハンセンの勝つタイミングではなかったようだ。連続完走5大会目(2013年ジロ)と、10大会目(2014年ブエルタ)にひとつずつ区間を勝ってきたオージーは、おそらく15大会目となる2016年ツールを待たなければならないのだろう。ゴール前10kmで、挑戦は終わりを告げた。
マリア・ローザを守る蛍光イエローが、そこからは隊列を先頭で引っ張った。ただひたすら無事にコンタドールを……、自宅へと連れて帰るために。ゴール地のルガノには、妻のマカレナや、たくさんの「近所の友達」が待っていた。
「かれこれ3年ほどルガノに住んでいるから、スペシャルな気分だよ。それに、3週間も家を離れていたから、家族や友達に久しぶりに会えることが嬉しいんだ。ここを『地元』と感じるかって?うん、もちろん、ルガノは僕の地元さ」(コンタドール、公式記者会見より)
護衛隊の隙を突いて、パンチャーたちもチャンスに賭けた。トムイェルト・スラフテルやフィリップ・ジルベールが攻撃を試みた。なにより、ゴール前3.5kmに待ち受けるヘアピンカーブ×2+急ダウンヒルに向かって、ルーカ・パオリーニが、突っ込んだ。現場では「ミラノ〜サンレモのポッジォからの下りみたいだ!」との声が上がり、湖畔のボルテージも最高潮に上がった。
追走はスプリンターチームの仕事だった。ニッツォーロを背負ったトレックが猛烈に追いかけた。ゴール前1.2kmで、パオリーニを捕らえた。ゴール前1kmのアーチの下で、ランプレが代わって先頭を奪い取った。ロベルト・フェラーリとマキシミリアーノ・リケーゼの2人の後輪には、もちろん、モドロが入り込んでいた。
「この4年間トレインなしでやってきて、いくつか勝利も手にしてきたけれど、今よりずっと難しかった。そして今、僕にも専用列車ができた。自分が最強だとは思わないけれど、他の選手に対して、アドバンテージがあるのは確かだよ」(モドロ、公式記者会見より)
かつては自らもエーススプリンターとして走ってきたフェラーリが、この1月から、生まれて初めて「モドロ発射台」として働き始めた。ツアー・オブ・カタール以来、徐々にチームワークをくみ上げて行った3人の歯車が、5月のジロ後半にピタリとあった。フェラーリ→リケーゼと先頭を引き継ぎ、ラスト150mでモドロがトップへと躍り出た。
「僕のラスト150mのダッシュ力は、かなりのものだと自負してる。僕をこの距離で先に行かせたら、もう簡単には追い抜けないはずだ。それに第13ステージのイェーゾロよりも、ずっと難しいフィニッシュだった。今日のようなコースのほうが僕は好きなんだ。おかげで圧倒的なスプリントを実現できた」(モドロ、公式記者会見より)
その第13ステージで最後まで競り合ったニッツォーロを、またしてもモドロは封じ込めた。つまりニッツォーロは、人生7度目のジロ区間2位に終わったのだけれど……、代わりに生まれて初めてのポイント賞首位に立った。2週前からコツコツ中間ポイントも収集してきた努力の成果が、ついに報われた。表彰台で赤いジャージを身にまとった。
コンタドールもまた、2015年ジロは区間2位が1回、区間3位が3回と、ステージ勝利はない。2008年大会もまた、区間勝利ゼロでマリア・ローザを勝ち取った。ちなみにあの年は、ジロ出場を予定していなかったのに、ビーチバカンスから1週間前に急遽呼び戻されての即席優勝だった。
「ミラノのことを考え始めている。予定通りに、ピンクでたどり着くことをね。ステージ優勝は二の次だ。だって5週間後には、他のレースが待ち受けているんだからね。この大会と同じくらいに難しいレースなんだよ」(コンタドール、公式記者会見より)
これまではミラノのことも、ツール・ド・フランスのことも、「まだまだ先のこと」「1日1日に集中していく」と語っていたコンタドールが、ついに、7月のマイヨ・ジョーヌを思い描き始めた。ダブルツールの快挙を達成するためには、もちろん前提として、ジロを制覇しなくてはならない。ミラノ到着までは残り4日に迫っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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