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若い頃から、勇敢にアタックを繰り返してきた選手は、大選手になっても、アタック魂を忘れなかった。2012年世界チャンピオンのフィリップ・ジルベールは、今大会2度目の区間勝利を、猛スピードの下りアタックでさらい取った。グランツール6勝のアルベルト・コンタドールは、マリア・ローザ姿で――しかも総合2位には4分以上のタイム差を保持していたというのに――、ひとりで飛び出した。ライバルたちから新たに1分13秒を奪い取って、残す2日の難関山岳ステージに向けて、さらなる余裕を手に入れた。
スイスのルガノ湖から、イタリアのマッジョーレ湖へ。ヨーロッパでも有数の高級保養地は、この日も、初夏のまぶしい光に恵まれた。平坦な120kmの後に1級峠が突然1つだけ聳え立つ、そんな奇妙なステージは、猛スピードで走り始めた。ヒルクライマーでもなく、スプリンターでもない選手にとって、逃げ切りのチャンスは実質この日が最後だった。だから多くの選手たちが前へと突き進んだ。45kmほどバトルを繰り広げた末に、ようやく、エスケープ集団が出来上がる。
14選手が飛び出す権利をつかみとった。ところが、しばらくすると、2人が落車で前線から弾き飛ばされてしまう。特にダミアーノ・クネゴは、右鎖骨骨折で、即時リタイアを余儀なくされた。だから残る12人だけで先を急いだ。プロトンからは最大13分ものタイム差を得た。
ゴール前46km、肝心の1級峠を登り始めた時点で、いまだ11分50秒もの大量リードを保持していた。なにしろ勾配がとびきり厳しかったから(平均9%、最大13%)、先頭はすぐさま4人に絞り込まれた。アマエル・モワナール、カンスタンティン・シウトソウ、フランチェスコ・ボンジョルノ、ダヴィド・デラクルスの後ろを、しかし、フィリップ・ジルベールやシルヴァン・シャヴァネルはあせらずマイペースで追いかけた。
上りの後には、必ず下りがある。特にステージのラスト20kmには、長くて、急で、ヘアピンカーブ満載のダウンヒルが待っていた!
その下りで、まるで矢のように、ジルベールが全てを抜きさった。不意打ちを喰らった4人は、すぐには動けなかった。あっという間に差はついた。後方からシャヴァネルやら、数人の逃げ仲間が合流し、ついには7人で束になって追いかけたけれど……。まるで危険を恐れず、カーブを積極的に攻め続けるジルベールとのタイム差は、縮まるどころか、広がる一方だった。
「勝ちたいなら、危険を冒さなきゃならない!僕にとって、自転車レースというのは、まさしく情熱そのもの。サドルの上でリスクを冒すことに、大いなる喜びを感じるのさ。全速力で坂を下り降りて、集団で高速走行して。僕の送っている人生は、たしかに、普通の人の人生とは違うのかもしれない。ストレスを感じる職業ではあるよね。でも、この人生が、僕は大好きなんだ」(ジルベール、公式記者会見より)
第12ステージは、クラシック風の坂道フィニッシュを鮮やかにさらい取った。この日は、長い下りの果てだった。開幕前の目標だったマリア・ローザは取れなかったけれど、2015年ジロ・デ・イタリアは、ジルベールにとって間違いなく成功だった。しかもベルギー人としては、1979年ロジェ・デフラミンク以来となる、ジロ同一年区間2勝を達成した!
「確かに、これまでのキャリアの中で、最も『堪能できた』勝利かもしれない。というのも、ゴール前3〜4kmで、チームカーの監督から無線で、後続とは1分差がついていることを聞かされていたから。そこからは、勝った、と確信しながら走ることことが出来たから」(ジルベール、公式記者会見より)
コンタドールの戦いは、1級峠に入る直前に始まった。ティンコフ・サクソ隊列が、突如として、「スプリント列車」に変化した。
……ちょうど、そんな時に、メイン集団内では落車が発生する。スカイの5人が足止めを喰らい、アスタナも3人が巻き込まれた。その中には、総合2位のミケル・ランダも、含まれていた。しかし、落車騒ぎをよそに、蛍光イエローのスプリントトレインはうなりをあげ続けた。そして、1級峠の山道に入った直後、ロマン・クロイツィゲルのリードアウトでコンタドールが発射された。
第16ステージは、パンクでライバルたちから置き去りにされた後に、モルティローロの前半5kmほどを独走した。ただし2日前のコンタドールには、あれ以外の選択肢はなかった。一方でこの日のマリア・ローザは、自らの意図で、全長10kmのモンテ・オローニョを孤独に突き進むことを選んだ。
「いやいや、リベンジではなかったんだよ。前方で加速した理由は、山に先頭で入ることが非常に大切だと分かっていたから。登り口の道幅はひどく狭くて、せいぜい2人が並んだら、それでいっぱいになってしまう。後方にいればたしかにエネルギーを温存できるかもしれないけれど、分断や落車の危険性は大きい。だから、僕らは、エネルギーを使うほうを選んだんだ」(コンタドール、公式記者会見より)
なにより、ファビオ・アルの調子が良くなさそうだ、と見てとったという。読みはズバリ的中した。マリア・ローザと一緒に山に入ったマリア・ビアンカは、コンタドールの一発に、まるで付いていけなかった。またランダも1人で追走を試みたけれど、2日前のコンタドールのようには出来なかった。アスタナの元リーダーと元アシストの2人は、他の総合勢に混じって、コンタドールのはるか後ろを追いかけるしかなかった。
「山が近づく前までは、ずいぶんと静かな1日だったのに。でも、落車が起こって、アルベルトがアタックして……、全てが一変してしまった」(アル、ゴール後TVインタビューより)
ただコンタドールは、決して、全速力で山を駆け上がったわけではない。ゴールまでは46km残っていた。明日も難関山岳ステージが控えている。だから自分のペースで、タイムトライアルのような気分で、黙々と登り続けた。一時はライバルたちに2分近くタイム差を開いたけれど、無理に独走を続ける必要もないとさえ考えた。
「ヘシェダルが後ろから1人で追いかけてきていると、無線で聞かされた。だから彼ならきっと、良い同盟を組めるんじゃないか、って考えたんだ。もちろん、まずはヘシェダルがアルの集団から十分なタイム差をつけることが、前提条件だったわけなんだけど。だから慎重に様子をうかがった。山頂近くまで来て、彼がいまだ後ろを走っていることを確認したから、合流を待つことに決めた。それが最良の選択だと考えたから」(コンタドール、公式記者会見より)
さらには2012年ジロ覇者とのコラボレーションを、「インタレスティングでインテリジェントな決断だった」と現行マリア・ローザは断言した。
山頂間近で合流した2人は、この時点でアル集団に1分07秒差をつけていた。しかも下りに入ると、エスケープ集団から落ちてきたダヴィデ・ヴィッレッラが、チームリーダーのヘシェダルのために牽引を買って出てくれた。おかげで、後方の集団がいつしか16人に膨らんだにも関わらず、決してタイム差を詰められることはなかった。総合2位&3位を擁するアスタナだけでなく、総合4位アンドレイ・アマドールや5位ユーリ・トロフィモフのために、モヴィスターやカチューシャさえも猛烈に加速を試みていたけれど……。
総合首位コンタドールと、第17ステージ終了時点で総合10位につけていたヘシェダルは、最終的に、総合2位から9位が全員揃った追走集団から1分13秒のリードを手に入れた。2015年ジロ・デ・イタリア最後の難関山岳2連戦を控えて、首位コンタドールと総合2位ランダのタイム差は4分02秒→5分15秒へと開いた。ヘシェダルは総合順位を1つ上げた。
「とにかく、またしてもタイムを稼ぐことが出来て、満足している。マリア・ローザを守るためには、それが最も大切なことだから。でも、さすがに、疲れたけどね」(コンタドール、公式記者会見より)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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