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【ボルタ・ア・カタルーニャ:レビュー】イネオス・グレナディアーズが総合ワン・ツー・スリーフィニッシュ!頂点に立ったアダム・イェーツ「表彰台からの景色が素晴らしい」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介表彰台にのぼったイネオスの3人
3月半ばをすぎると、トップシーンはクラシックレースとステージレースとが並行する。それもあって、この時期のステージレースへはグランツールを見据える者が自然と集まってくる。
2週間ほど前に走ったパリ~ニースやティレーノ~アドリアティコは、スプリンターもいれば、クラシックハンターもレースをかき乱そうと動き回っていたから、どうしても慌ただしくなってしまう。腰を据えて「仮想グランツール」に取り組むならば、戦線が二手に分かれる今だと考えていた…のかもしれない。あくまでも推察にすぎないけれど。
そう思わせるほどに、イネオス・グレナディアーズの布陣は豪華だった。アダム・イェーツ、リッチー・ポート、ゲラント・トーマス、そしてリチャル・カラパス。グランツールレーサー4人に、ローハン・デニス、ジョナタン・カストロビエホ、ルーク・ロウの万能アシスト陣。このメンツがそのままツール・ド・フランスに出場していても、なんら不思議ではない、むしろ群を抜くチーム力になっているかもしれない。ほぼベストメンバーで、ボルタ・ア・カタルーニャに臨んでいた。
彼らは狙い通り、第3ステージからギアをトップに入れた。今年のツールでは大会終盤の勝負どころがピレネー山脈に設定されるが、そのシミュレーションのごとくコンディションと戦術確認に勤しんだのだった。
今シーズン初戦のカラパスこそ調整の一環としてアシストに回ったが、残るリーダー格3人は、レース前のミーティングで誰から仕掛けてもよいと申し合わせていた。結果的に、真っ先に動いたアダムがライバルを圧倒。ポートとトーマスはアシスト経験も豊富だから、こうした状況下では教科書通りのチームプレーに集中。アダムを追いたいライバルたちを徹底的にマークし、彼らの戦意を喪失させることに労力を割いた。
それからはもう、いつか見た「イネオス・グレナディアーズの姿」だった(チームスカイの姿、といった方がふさわしいか…)。メイン集団の先頭にメンバーを固めて、レース展開にピッタリ合致させたペーシングで粛々と進行する、あの光景である。ライバルたちに攻撃するスキを一切与えない。そんなペースで進んでいくから、かえって堪りかねず脱落していく選手が現れる。気が付けば、個人総合のトップ3をアダム、ポート、トーマスが固めていた。
美しい景観
総合争いの形勢がはっきりし始めた大会後半は、逃げグループに先導させたり、スプリントに執念を燃やすチームにレース構築を任せたりと、スマートかつセーフティーに最終目的地・バルセロナへと到達。最後の最後まで何が起こる変わらないから、フィニッシュラインを通過するまで気を抜かずに走り続けたとはいえ、少なからず総合トップ3の座が脅かされるような場面は発生しなかった。
「最高の1週間だった。大きな野心を持ってスタートしたけれど、終わってみればワン・ツー・スリーフィニッシュ。これ以上ない結果になった。完璧なチームパフォーマンスだったよ」(アダム・イェーツ)
チームとしての「勝利」はもとより、アダム個人にとっても特別な大会になりそうだ。2年前、今回と同様にピレネーの難所であるバルテル2000を征服しながら、続く山岳ステージでライバルから遅れたことが影響し最後の最後までトップに立つことができなかった。その悔しさを忘れてはいなかった。
「この大会に戻ってきて良かったと心から思っている。表彰台の中央からの景色が素晴らしかった。チームメートが左右に立ったことも、達成感をより大きなものにしている」(アダム)
今大会には、いまをときめくグランツールチャンピオンのタデイ・ポガチャルやプリモシュ・ログリッチは参加していなかった。それぞれティレーノ~アドリアティコとパリ~ニースを走って休養に入っていたから、イネオス陣営との直接対決はお預け。ただ、いずれにせよイネオス・グレナディアーズは、昨年手放してしまったツールの覇権奪還に向け、一度目の「予行演習」を大成功させたことは確かである。
そして、二度目、三度目と繰り返していく演習では、立ちはだかる難敵をいかに攻略していくかがテーマとなる。
普段はログリッチの護衛役であるセップ・クスは「彼らの戦術は今のプロトンにおけるスタンダード。僕たちもメンバーがそろえば十分に戦うことができる」と牽制する。個人総合12位に終わった彼は、現状のコンディションと、このレースへのチームの注力具合の差がリザルトに表れたと分析。戦力が整えば自分たちだってレースを支配できる、そう確信している。
もちろん、イネオス陣営もボルタのようにすべてが上手くいくなんて思ってはいないだろう。彼らが示した強さが、ライバルチームを焚きつけるきっかけになって、プロトンが群雄割拠の様相を呈していくことになる。「本当の戦い」は、まだまだこれからなのである。
一方、大会最終日恒例のバルセロナステージは、「逃げのスペシャリスト」トーマス・デヘントが勝利。過去4回ステージ優勝を挙げ、2018年と2019年にはリーダージャージを着たこともある「カタルーニャ・マエストリア」が新たな勲章を手にした。
「毎シーズン、この大会のメンバー入りをチームに希望しているんだ。ステージ優勝に加えて山岳賞も2回獲っている相性の良いレース。100周年記念大会のバルセロナステージを勝つことができ、特別なことを成し遂げた実感があるね」(トーマス・デヘント)
バルセロナで勝つのは8年ぶり。そのときとは少しコースが変わっているが、この街で勝利する価値に違いはない。今回は、マテイ・モホリッチとの一騎打ち。下りのたびに差をつけられては直後の平坦で追いつくことを繰り返していたから、仕掛けるなら上りしかないと分かっていた。
「最終周回の上りで彼がついてくるようなら、ステージ2位で満足しようと思っていた」というが、そこは勝ち方を知る男。モホリッチの勢いが落ちているのを見逃さず、一撃のアタックで勝負を決めてみせたのだった。
毎ステージ印象的な場面が生まれた1週間の戦い。ステージレース戦線は、カタルーニャからバスクへと舞台を移して次なる戦いを迎える。イツリア・バスクカントリーには、アダムやカラパスに加えて、今大会でステージ1勝を挙げたエスデバン・チャベスも参戦予定。さらにはポガチャルやログリッチも乗り込む見込みとあって、激戦となるのは確実だ。
文:福光俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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