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【ボルタ・ア・カタルーニャ 第6ステージ:レビュー】数少ないスプリントステージを逃さなかったペーター・サガン「難しい時期を乗り越えた実感がある」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ステージを制したペーター・サガン
おそらく今大会で唯一であろうスプリントステージは、ペーター・サガンに軍配が上がった。そもそも、スプリントで勝敗が決するのかさえ予測不可能なコース設定だったが、ボーラ・ハンスグローエは健気なまでにサガンのスピードに賭けてレースを構築した。
「今日はステージ優勝が目標だったので、スタートからレースをコントロールする計画だった。チームメートの働きには心から感謝している。彼らは最初から最後までプラン通りの動きをしてくれた。ここまでハードなステージが続いて疲れを感じていたが、勝つことができて本当に良かった」(ペーター・サガン)
序盤から出入りの多いレースとなった。逃げを狙って動いた選手が多かったこともあり、一度決まったかに思われた先頭グループが早い段階でキャッチされるなど、プロトン全体が落ち着くまでに時間を要した。
ようやく逃げグループが5人でまとまると、ボーラ・ハンスグローエが集団のペーシングを引き受けた。そこにチーム バイクエクスチェンジやエウスカルテル・エウスカディも加勢。先頭をゆく選手たちを射程圏にとらえながら進んでいる間、必要以上に主導権を奪い合うことなく、一致する利害を守りながら着々とフィニッシュまでの距離を減らしていった。
この協力体制は、最後の1人となるまで逃げ続けたディミトリ・ストラコフを吸収した残り18kmまで続いた。直後に始まった3級山岳でのアタックの散発は、どれも集団を脅かすほどのものとはならない。頂上通過直後のレミ・カヴァニャのアタックも、ボーラ・ハンスグローエのアシスト陣が冷静に対処して集団へ引き戻した。
そこからはいつもの平坦ステージよろしく各チームがトレインをなして、ポジション争いは激化。1日を通して働いていたボーラ・ハンスグローエの選手たちはサガンを前方へと引き上げるので精いっぱいになってしまったが、歴戦の元世界王者からすれば、混乱する集団内でうまく立ち回るのはお手のもの。最後の1kmでドゥクーニンク・クイックステップやエウスカルテル・エウスカディの選手たちがペースを上げても慌てず、勝負のときを待った。
すべては最後の100mで決まった。上り基調の最終局面は、早めの仕掛けでは何の効果ももたらさない。だからスプリントに集中した選手の多くがほぼ同じタイミングで加速をしたが、その中でも頭ひとつ抜けていたのがサガンのスピードだった。昨年はなかなか勝てず10月まで時間がかかったが、今年は早い段階でまず1つ、星を確保した。
「ティレーノ~アドリアティコとミラノ~サンレモを走って、休みなしでこの大会に臨んでいる。2カ月前を思うと、良いスタートを切ることができているのではないかな。いまは、難しい時期を乗り越えた実感があるよ」(サガン)
1月にグラン・カナリア島で行っていたトレーニングキャンプ中に、新型コロナウイルス感染が発覚。軽度ながらも症状が出て、回復後の活動にも支障をきたした。「軽い運動をするにもすぐに疲れが出てしまうんだ。結局何もできずに寝ているだけ。陰性になってからも2週間以上はそんな日々が続いた」。シーズンインが3月までずれ込み、本来であればこの時期走っているはずの北のクラシック数戦も回避。直近の目標であるロンド・ファン・フラーンデレンやパリ~ルーベのために、大急ぎで仕上げようとカタルーニャへ乗り込んでいた。
もっとも、ミラノ~サンレモで4位となるなど、調子が上がっている手ごたえはつかんでいたから、あとは復調を確信できれば十分だった。今大会、さすがに超級山岳の上りはきつかったけれど、狙いを定めたこのステージできっちり勝てたことで、ミッションは果たされた。ステージはあと1つ残ってはいるが、いずれにしても明確な使命感とともに、このレースを終えられそうだ。
タフなステージをこなしてきた選手たちにとっては、恵みの「移動ステージ」になった。スプリント狙いのチームがレースを組み立ててくれたおかげで、イネオス・グレナディアーズはリーダーチームとしての責務から少しばかり解放された。それでいて、アダム・イェーツのリーダージャージ、さらにはリッチー・ポート、ゲラント・トーマスとで固める総合トップ3も安泰だというのだから、ラッキーデー以外の何物でもない。
アダム・イェーツ
「何もする必要のない1日だった。トラブルにさえ注意していれば良いだけだったからね。明日のバルセロナステージは確実に厳しいものになるだろうから、そのためにエネルギーの節約を最優先したよ」(アダム・イェーツ)
そう、ボルタ・ア・カタルーニャの名物がまだ残っているのだ。伝統のバルセロナステージには、モンジュイックの丘(登坂距離2km、平均勾配5.7%、最大勾配8%)が最後の砦として立ちはだかる。バルセロナ五輪ではマラソンの勝負どころになり、過去のブエルタ・ア・エスパーニャ、ツール・ド・フランスでもレースを動かす局面になった上りを、今大会では6回めぐる。
難所でありながら、プロトンがハイペースで丘へ突っ込むのはもはや「恒例行事」。そんなことだから、波乱がよく起き、思いもよらないクラッシュも後を絶たない。
「モンジュイックの周回コースは容赦ない。上りはハードだし、下りはトリッキー。休む間がまったくないんだ。本当にタフなサーキットで、何が起きるかも分からない。僕にアドバンテージがあるとするなら、何度か走ったことがあってその難しさを知っていることくらい」とアダム。リーダージャージの確保、そして総合表彰台独占のためには、自分たちでレースをコントロールすることが一番の手立てであることは理解をしている。
捨て身の攻撃に出る選手・チームに対して、イネオス・グレナディアーズはいかにして対処していくのだろうか。ボルタ最終日は、「勝負の行方は最後の最後まで分からない」ステージレースの在り方を体現する1日になるはずだ。
文:福光俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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