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【ボルタ・ア・カタルーニャ 第4ステージ:レビュー】向かい風切り裂いたエスデバン・チャベスの渾身アタック「苦労が報われた瞬間だ」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介エスデバン・チャベス
仕掛けるには幾分早いことは分かっていた。この日3つ目の上級山岳にしてフィニッシュへ向かう最後の上りである超級山岳ポルト・アイネ。登坂距離18.7kmのうち、まだ7kmを残しているタイミングでのアタックは、エスデバン・チャベスにとっては賭けでしかなかった。
さらには、強い向かい風も小兵である彼の行く手を遮るかのごとく吹き付けた。脚を使いすぎないよう、ペースをコントロールしながらひたすら冷静に上ることを心掛けた。
「個人総合で9位だったし、失うものは何もないと思っていた。リーダージャージとはタイム差があったので、ステージ優勝を狙うには絶好のポジションじゃないかと思っていたんだ」(エスデバン・チャベス)
そんな彼の狙いを分かっていたから、チームメートのサイモン・イェーツとルーカス・ハミルトンも協力を惜しまなかった。常にリーダーチームのイネオス・グレナディアーズ勢の様子を確認できるポジションにつけて、いつでもチャベスが攻撃に転じられるよう状況を整えていた。
664日ぶりの勝利。2019年のジロ・デ・イタリア第19ステージ以来の白星に、コロンビアンクライマーは感情を昂らせる。「本当に信じられないよ。昨日、数カ月前、数年前と少しずつ振り返っていくと、今日みたいな日を迎えられるなんて夢のようだ。シーズンインでこれほど走れるのだって夢のよう。本当に、これまでの苦労が報われた瞬間だよ」。感染症や頻発する故障で、それまでライバルを圧倒してきたクライミングが影を潜めていたが、心も体も回復させて再び戦えるところまで戻ってきた。
残りのステージへの目標も定まった。この勝利によって、ポイント賞と山岳賞のジャージを同時に手に入れた。自らの脚質や今後のステージ構成を考えると、山岳賞に比重を置く方が現実的だと考える。「(最終目的地の)バルセロナまで山岳賞ジャージを運びたい。サイモンとルーカスと協力しながらだったら、きっとうまくいくと思うよ」。
復活ののろしを上げたチャベスに対し、ネイビーの精鋭部隊は淡々と、かつ粛々と、レースをまとめていた。
王道の走りだった。前日のアダム・イェーツの勝利でリーダーチームとなったイネオス・グレナディアーズは、ひたすら集団のコントロールに努めた。有力チームが多数乗り込んだ逃げグループは、ポルト・アイネの入口までに吸収。彼らに「前待ち作戦」実行のスキをも与えなかった。
第3ステージのバルテル200ではアダム、リッチー・ポート、ゲラント・トーマス、リチャル・カラパスの「4枚のカード」を有効活用しライバルを丸裸にしてみせたが、この日は集団前方を固めてレースを支配する、往年の戦術を復刻。レース中、タクトを振るったのはトーマスである。
「いやぁ、良い1日だったね。以前の戦い方を思い出したよ。リーダージャージのキープを大前提としながら、リッチーと僕の総合順位も意識していたんだ。ローハン(デニス)がコントロールしてくれて、ビリー(カラパスの愛称)が残り3.5kmまで牽引してくれたおかげで、僕たちは安全に走ることができたよ」(ゲラント・トーマス)
最後の上りで飛び出したチャベスは、彼らにとって何の脅威でもなかった。だから、自分たちの順位をより良いところへ引き上げることに集中できた。もちろん、ライバルの攻撃には注意しながら。
結果的に、アダムのリーダージャージ安泰にとどまらず、集団のスプリントでトーマスが3位に入ってボーナスタイム4秒を獲得。個人総合3位につけていたジョアン・アルメイダが最終局面で遅れたことを確認できていたから、トーマスは総合ジャンプアップに欲を出してみせた。レースリーダーのアダム自らトーマスの番手を固めて、他選手に前を譲らなかったあたりも、完全にチームとしての余裕の表れだ。
クイーンステージを終えて、総合トップ3をアダム、ポート、トーマスで固めた。今大会、イネオス・グレナディアーズが他を圧倒していることは明白である。ポートがこの日、残り数キロからの牽引でスロットルを上げすぎて脚が痙攣したというが、さして心配はいらないよう。むしろ、多少のマイナス要素が上がるくらいが良い塩梅ではないか。そう思わせるほどに、いまの彼らは豪勇無双の擲弾兵(グレナディアーズ)と化している。
とはいえ、この状態が敵なしを意味しているわけではないと、グレナディアーズも理解はしている。昨年のツール・ド・フランスや、先日のパリ~ニースのように、最後の最後まで何が起こるか分からないのがロードレース。「確かにタイム差だけみれば十分なリードだと思う。とにかくトラブルに巻き込まれないよう、できる限りレースをコントロールすることに注力したい。トリッキーなステージも控えているし、(最終日の)バルセロナだって難コース。1ステージずつ、様子を見ながら作戦を練っていきたい」とアダム。最後まで気を抜くつもりはない。
大会は後半戦へと移る。第5ステージは、大小いくつもの変化が潜む201.1km。最大の難所は、フィニッシュ前26kmで頂上を迎える1級山岳ポルト・デ・モントセラト。ここをクリアすると、フィニッシュへ一気に駆け下る。引き続き主導権はイネオス・グレナディアーズが握るとみられるが、逃げを行かせてセーフティーにレースを終えるのか、はたまた「ノーギフト」で勝ちにいくのか。
もし彼らがこのステージでも勝ちに行くのならば…、それは間違いなく、ライバルたちにとどめを刺しにいくことを意味している。
文:福光俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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