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【ボルタ・ア・カタルーニャ 第3ステージ:レビュー】アダム・イェーツが超級山岳バルテル2000を連覇「今日の僕には突き進むだけの十分な勢いがあった」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ポディウムで両手をあげるアダム・イェーツ
これが新戦術なのかもしれない。2021年シーズンのヨーロッパ開催レースでは最初の標高2000m超えとなる上り「バルテル2000」で見せた、イネオス・グレナディアーズの戦い方である。
レース距離203.5kmのほぼすべてが、この全長11.1kmの上りに集約されたボルタ・ア・カタルーニャ第3ステージ。個人総合トップ10に3人を送り込んでいたイネオス勢は、まず上位戦線に関係していない(とはいっても総合タイム差52秒の位置につけてはいたのだが)リチャル・カラパスを先鋒として前線へ送り出した。アレハンドロ・バルベルデのアタックに追随し、ライバルたちの出方をうかがう。
カラパス自身もアタックに動いて周りの反応を呼び込んだ。これを数回繰り返しているうちに、イネオス以外のチームはアシストを失い、エース自ら動かざるを得ない状況になっていく。そして残り5km、満を持してアダム・イェーツが攻撃に出た。
2年前にこの山を征服し、2014年にも登坂経験のあった彼にとってバルテル2000は「自分にピッタリの上り」。チームとしては状況さえ整えば、トップ10圏内のアダム、リッチー・ポート、ゲラント・トーマスの誰が最初に仕掛けても良いことになっていたが、最もこの山に合っていると自負する男が真っ先にそれを実行したのだった。
しばらくはセップ・クスやバルベルデ、さらには逃げメンバーの中で最後まで生き残ったテイメン・アレンスマンが食らいついたが、残り2kmまでに彼らを振り切ってアダムは独走態勢に持ち込んだ。
「2年前に勝った時よりもうまく走ることができたと思う。今日の僕はとても調子が良くて、先頭に立ってからは最後まで突き進むのに十分な勢いとスピードがあった」(アダム・イェーツ)
アダムの後ろでも、イネオス勢は強固に立ち回っていた。完全に丸裸になったリーダージャージのジョアン・アルメイダを、ポートとトーマスが徹底マーク。テンポで前を追いたい彼のリズムを狂わせ、追撃の芽を摘み取っていった。
プロトン
イネオス・グレナディアーズといえば、前身のチームスカイの時代から、プロトンの主導権を握ってレースをコントロールするのが代名詞だった。しかし、この日の彼らはまた違ったスマートな戦いぶりだった。確かに、バルテル2000の上りに入る頃には集団前方を固めていたが、レースを支配したのはその上りだけだ。
さらには、アダムが飛び出してからはポートとトーマスが次の展開に備えるべく好ポジションを確保。もしアダムが集団へ引き戻されても、次、また次と攻撃できる態勢を整えていた。
勝ったアダムが認める。「4枚のカード(アダム、ポート、トーマス、カラパス)があって、そのどれかに効果があればよかった。僕たちはうまくプレイすることができたし、パーフェクトなレースができたと思う」。
この先、複数枚の“カード”を有効に使いながらの戦いが彼らの基本戦術になっていくのだろうか。レースのたびにエースクラスを何人も配備して、どこからでも勝てる状況を作り出していく。タレントぞろいのイネオス・グレナディアーズだからこそ成せる戦法といえるが、真相は果たして。チーム力の高いライバルに主導権を握られることが多くなっていた彼らだけに、新たな戦い方を考えていることは間違いないだろうけれど。
このステージを終えてリーダージャージに袖を通したアダムに続き、ポートが45秒差で個人総合2位につけた。さらにトーマスも53秒差の4位。今後の展開次第では、総合表彰台独占なんてことも十分にあり得る流れになりつつある。そして、残るステージでも「新戦術」が稼働するならば、アダムの首位に固執せず、チームの誰かがリーダージャージを着ていればOKという考え方で戦いを進めていくことだろう。
第4ステージは、3つの上級山岳が待ち受ける今大会の最難関。優位に立ったイネオス・グレナディアーズの方向性を確認するには絶好の機会になりそうだ。合わせて、一矢報いようと奮起するであろうアルメイダやバルベルデらのチャレンジにも期待したい。
文:福光俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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