人気ランキング
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
コラム&ブログ一覧
【ボルタ・ア・カタルーニャ 第1ステージ:レビュー】100回記念大会の初日を制した新鋭クローン「僕は最後の1秒まで戦い抜く」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介両手を上げてフィニッシュするクローン
少人数での勝負に持ち込んだ時点で、勝てるような気がしていたという。
フィニッシュまで残り1kmとなったところで、メイン集団とは32秒のタイム差があった。逃げ切るには十分なリード。あとは、ステージ優勝を争う他の3人の動きをマークして、仕掛けどころを図るのみ。その3人が見合っているうちに前に出てくれたことも幸いした。
最後の直線では横風が吹いていたが、ライバルを風よけに使って絶好のタイミングで加速した。誰よりも冷静に最後の局面をこなしてみせたアンドレアス・クローンは、今年ロット・スーダル入りしたばかりの22歳である。
2年ぶりに帰ってきたボルタ・ア・カタルーニャ。昨年のこの時期は、新型コロナウイルス感染拡大によって世界中がパニックに陥っていた。UCIワールドツアーの中でも早くに開催を断念していた経緯もあり、関係者の今年にかける思いは強かった。第100回記念大会は、1年越しでの実現となった。
例年この時期になると、トップチームはみな、クラシック班とステージレース班とに分かれて活動する。生粋のクライマーたちは、ステージレース班に入って「仮想グランツール」を走る。急峻な山々を駆け抜けるボルタ・ア・カタルーニャは、まさにその象徴的レースであり、自転車王国スペインにロードレースシーズンの本格的な訪れを告げるビッグイベントだ。
そんな大会だから、地元スペイン勢が終始主導権を握るなんてこともよくある話。実際に、今年も第1ステージからモビスターがプロトンをコントロールした。シーズン序盤はまったくと言ってよいほど良いところなしだった彼らだが、ボルタには合わせてきた。ベストメンバーを配備したスペインの雄は、中盤からの峠越えで猛然とペースを上げると、1級山岳ポルト・デ・サンタフェ・デル・ムンセニーでペーター・サガンやクリス・フルームらを振り落とした。
しかし、その後の長い下りまで率いたところでモビスターはコントロールをやめた。かといって、ほかのチームがその役目を代わる雰囲気でもない。そうしてペースが緩んだところで、パラパラとアタックが散発。残り25kmで飛び出した18人にはゲラント・トーマスが入ったこともあり、さすがに集団も追いかけたが、彼らを吸収した直後に動いたルイスレオン・サンチェスらの攻撃は、総合系ライダーが入らなかったこともあって容認ムードとなった。
春の美しい景観を走る
結果的に、これが決定打になった。サンチェスの動きに反応したのはレナード・ケムナ、レミ・ロシャス、そしてクローン。牽引するチームが現れずペースを上げ下げするメイン集団の一方で、前をゆく4人は均等に先頭交代を繰り返した。30秒前後で推移したタイム差は、残り8kmで40秒にまで膨らむ。ようやくイネオス・グレナディアーズやバーレーン・ヴィクトリアス、トレック・セガフレードが追撃したが、先頭までは届かなかった。
逃げ切りへの意思統一がなされていた4人も、残り2kmでのケムナのアタックをきっかけに利害が破綻。ステージ優勝をかけて、それぞれの思惑が交錯する。
「フロントグループで走っている間、脚を残すことを心掛けていた。最終局面も理想的な状況で、3人の後ろで横風を避けながらスプリントのタイミングを計っていた」(クローン)
自然と前へ出ていった3人の背後に迷いなく入り込むと、あとは彼らの力をうまく利用しながらスプリントする瞬間を待った。そして、ライバルたちが動き出すのを見てからの加速。クローンが、誰よりも冷静に大会の初日をモノにしてみせたのだった。
「こんなクレイジーな勝利があるとは! ただただ素晴らしい、その一言だ」。ワールドツアー初勝利にクローンは興奮を隠さない。それでも、4人で逃げ切ることができれば、勝つチャンスは大いにあるとの手ごたえもあった。昨年のツール・ド・ルクセンブルクでは、7人による逃げ切りを制していたし、2年前のロード世界選手権アンダー23でも同様の展開で優勝争いに加わった。得意の展開に持ち込んだことが最大の勝因だ。
そして、この日はロット・スーダルデーにもなった。レース前半からの逃げにはシルヴァン・モニケが入り、山岳賞ジャージを獲得。クローンが個人総合、ポイント賞、ヤングライダー賞でトップに立ったことで、4つのジャージすべてがチームにもたらされた。
22歳のクローンと23歳のモニケの活躍は、有望な若手がそろうチームの勢いを表している。「チームマネジメントが正しいことを示せていると思う。タデイ・ポガチャルに代表される僕たちの世代は、みんな最後の1秒まで戦い抜いているんだ。だから、ビッグネームを打ち負かすことだってある。まだまだシーズンが始まったばかり。これからもっと良い走りができるのではないかな」。クローンは胸を張った。
1つの勝利がキャリアを大きく変えることもある。すっかり自信をつけたクローンは、第2ステージの18.5km個人タイムトライアルで最終走者を務める。
個人総合優勝候補たちを含んだメイン集団は、クローンから16秒差でのフィニッシュ。ちなみにモビスターは、リーダーの1人であるマルク・ソレルが最終局面を前にパンク。フィニッシュ前3km以内でのトラブルのため救済措置が適応されたが、このチームにツキが回ってくるのはもう少し先のようだ。
文:福光俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
あわせて読みたい
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
ジャンル一覧
人気ランキング(オンデマンド番組)
-
Cycle*2024 UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース
9月29日 午後5:25〜
-
Cycle* J:COM presents 2024 ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム
11月2日 午後2:30〜
-
11月11日 午後7:00〜
-
10月12日 午後9:00〜
-
【先行】Cycle*2024 宇都宮ジャパンカップ サイクルロードレース
10月20日 午前8:55〜
-
【限定】Cycle* ツール・ド・フランス2025 ルートプレゼンテーション
10月29日 午後6:55〜
-
10月10日 午後9:15〜
-
Cycle*2024 ブエルタ・ア・エスパーニャ 第17ステージ
9月4日 午後9:50〜
J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!