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オンラインミーティングの様子。中央がアラフィリップ、その右斜上がサム・ベネット
自転車界もいまやテレワークの時代。
今季開幕前のチームプレゼンテーションだって、みんな画面を通して行われた。今までのように気軽にレース会場に足を運べなくなった代わりに、チームからメッセージアプリで選手コメントや動画が次々と飛んでくる。たしかに「画」を作るフォトグラファーにとっては悩ましい状況には違いないけれど、世界中どこにいようがオンラインミーティングに気軽に参加できるのは、実は記者にとっては意外と悪くはなかったりする。
たとえばドゥクーニンク・クイックステップは、今年すでにツール・ド・ラ・プロヴァンス、ストラーデ・ビアンケ、そしてミラノ〜サンレモの機会に3度、アラフィリップの「今の声」を聞けるチャンスを設けた。ちなみにサム・ベネットも同席したサンレモ会見には、47人もの記者がログイン。レース戦術やライバルたちに関する真剣な質問が飛び交い、予定されていた20分の会見はあっという間に過ぎた。
一方で世界王者にとってシーズン初戦となったツール・ド・ラ・プロヴァンス会見は、ほんの10人程度の参加者で、のんびり座談会風。会話内容もレースのことからシーズン目標、さらにはプライベートなことまであっちにいったりこっちにいったり。
J SPORTSサイクル班も東京とフランスから参加したこんなオンライン会見の様子を、かいつまんでみなさまに紹介しよう。
◎戦って、戦って、戦って
2020年9月末に世界チャンピオンへ上り詰め、1年間「アルカンシェル」ジャージをまとう権利をつかみとったアラフィリップ。1週間後のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュではさっそく虹色の「呪い」発動かと思われたが、3日後のブラバンツ・ペイルで両手を挙げた。
今シーズンもティレーノ〜アドリアティコ第2ステージでさっそくシーズン初白星を獲得。世界チャンピオンジャージを大いに輝かせた。
「もちろんジャージのせいで、僕には以前より多くの責任が課せられるようになった。でも重圧は感じてない。むしろ練習で毎日このジャージをまとえるのが嬉しいし、このジャージでレースを走れるのはすごく特別なこと」
アルカンシェルで走れることが楽しくて楽しくてしょうがない、と繰り返すアラフィリップにとって、「世界チャンピオンだから勝たねばならない」という特別なプレッシャーはないようだ。そもそも世界チャンピオンだろうがなかろうが、勝利への執念が増減するわけでもないし、自分の定めた目標も変わらないから。
むしろジャージへの深い敬意が、アラフィリップを突き動かす。
「ティレーノの、マチュー・ファンデルプールが逃げで勝った日(第5ステージ)……すごく寒くて、僕の肉体は完全に凍りついてしまった。ペダルさえうまく踏めなくて、『もう終わりだ』と何度も思ったよ。でも最後まで闘い続けた。だって僕はレインボージャージを着ているのだから。フィニッシュまで走り切るために、戦って、戦って、戦って。走りきれたことが嬉しかったし、このジャージの名誉を守れたことが誇らしかった」
◎慣れていかなきゃならないね
アラフィリップと言えば現役屈指のパンチャーであり、そのトレードマークはご存知、急坂での爆発的な加速。同時に俊敏なダウンヒラーでもある。TTバイクでさえスーパータック(トップチューブに腰を下ろすポジション)で突進してしまうほど。
つまり、この「上り+下りのセット」で、数々の栄光をモノにしてきたわけなのだけれど……。UCI国際自転車競技連合の規則改正により、このスーパータックポジションは、2021年4月1日から完全に禁止される。
「ちょっとがっかりしてる。だって僕自身も普段から使うポジションだから。一旦規則が決定されたら、僕らはそれに従うしかない。だから、うん、今後は注意していく必要があるし、慣れていかなきゃならないね」
失望すると同時に、ルール改正の理由が単純に「プロ選手の安全のため」というなら理解できないともきっぱり。ただ一方では、近い将来「パパ」になる立場として、「若い子どもたちの安全のため」、という方向性であれば納得できると言う。
「選手みんな理解してることだけど、僕らは若い世代への模範であり、責任があるからね」
また同日から適応される「(安全のための)指定区間以外でのボトル投げ捨て禁止」には、自然保護の観点から、両手を挙げて賛成する。
「個人的にはこれまでもできる限りのことはやってきたし、規則を守るように努めてきた。環境保全はとても重要なこと。紙切れやボトルが森の中に散らばっているのを見ると、胸が痛むんだ。だから、うん、よい方向へと進化していけるといいよね」
今夏には父親になる予定
◎早くパパになりたい!
そう、アラフィリップは、2021年にパパになる。しかも元フランスチャンピオンで、現在はTV解説やレース開催委員として活躍中のマリオン・ルスと、現役世界チャンピオンとの、いわば「自転車界最強カップル」の朗報だ!!
「いやいや、まだ僕は『パパ』にはなっていないんだよ。妊娠を発表したばかり。だからまだパパになるまでにはもう少し時間がある」
パパとしての気分を問われたアラフィリップは、メディアにこう慎重に釘を差したが、その表情や言葉のあちこちからは隠しきれない幸せが滲み出してくる。
「でも、この事が、僕を幸せな気分にしてくれるんだ。レース準備の面で特に変わったことはないよ。でも、考え方は、うん、たくさん変わった。たとえば?……とにかく……早くパパになりたくてしかたないとかね!」
予定通りなら、夏頃には、待望のパパになっている。これまで「ツール・ド・フランスの総合争いは考えない」と何度も繰り返してきたアラフィリップだが、区間勝利やマイヨ・ジョーヌに贈られる「プチ・リオン(ライオンのぬいぐるみ)」収集には、これまで以上に励みたくなるかもしれない。
「父親になるのが楽しみだし、最高の恋人がいることも単純にハッピーだ。この先一番大切なのは(仕事と家庭の)最適なバランスを見つけ出すこと。トレーニングキャンプやレースのために家を離れるのは、いつだって簡単なことじゃないから。でも今現在は、僕は日々のトレーニングを含むすべてに集中できてる。ありがたいことだ」
アルカンシェルジャージのアラフィリップ
◎まずはリエージュまで
パートナーの体調や出産準備についてじっくり考えたい……という理由もあり、「まずはリエージュまでの前半戦に集中」と語るアラフィリップにとって、いよいよ勝負本番がやってきた。中でもミラノ〜サンレモ、ツール・デ・フランドル、リエージュ〜リエージュ〜リエージュ、3つのモニュメントクラシックへと挑みかかる。
うち前半2大会は、ワウト・ファンアールトとマチュー・ファンデルプールという手強いライバルも待っている。そもそもシクロクロスの世界での因縁をロード界にまで持ち込み、いたるところで驚異のバトルを続ける2人の名前の横に、昨秋フランドル以降はアラフィリップの名が添えられることも多くなった。
ただワウトとマチューとが強烈に意識しあっている一方で、肝心のルルは、「少し距離を置いている」のだ。
「トリオで扱われることも、他の2人と比較されることも、別に気にしてない。好きでも嫌いでもない。3人とも違う選手だし、それに僕自身は、2人とは完全に違う専門分野を持っているし」
あくまでゴーイングマイウェイな世界チャンプはまた、「日頃から1つずつ順番に物事に取り組んでいくタイプ」でもある。そういう理由でも、やはり集中できるのは「リエージュまで」。東京五輪のことを問われても、「今は考えてない」と即答する。
「まだまだ遠い先の話。現段階ではそれほど頭にはない。考えるのはリエージュが終わってからだね」
もちろん五輪メダルには興味がある。勝てる可能性さえある、と考える。
「咄嗟に頭に浮かんだのは、マチューのこと。彼は最近、『五輪は大きな目標の一つ』と宣言したよね(ファンデルプールはマウンテンバイクで出場予定)。それは僕にとっても……勝てる可能性のある僕にとっても、同じこと」
ならば「リエージュ後」に、再び、アラフィリップの考えを聞いてみよう。オンライン記者会見の招待状が届くのを、楽しみに待ちながら。
無料動画
ジュリアン・アラフィリップ 選手インタビュー「早くパパになりたい!」 | J SPORTSサイクルロードレース
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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