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【ティレーノ〜アドリアティコ:レビュー】怪物たちの進化に驚嘆!初戴冠のツール覇者タデイ・ポガチャル「ファンタスティックなシーズンデビュー」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか「2つの海のレース」で初戴冠を飾ったタデイ・ポガチャル
既成概念も境界線もぶっ壊しながら突進するモンスターたちが、この春、さらに強力になって帰ってきた。昨ツール・ド・フランス覇者タデイ・ポガチャルが「2つの海のレース」で初戴冠を飾り、因縁の2人はそれぞれに種類の異なる快挙を2度ずつ繰り返した。世界チャンピオンジャージも輝いた。2021年のティレーノ〜アドリアティコは、近年急速に進む自転車界の進化を、よりいっそう印象づけた。
「この勝利を持ち帰ることができてすごく嬉しい。1週間のステージレースの中でも指折りの威厳あるタイトルだからね」(ポガチャル)
衝撃の1週間は、ワウト・ファンアールトの大集団スプリント勝利で幕を開けた。ピュアスプリンターたちの数少ないチャンスを握りつぶし、海色のリーダージャージを誇らしげに身にまとう。「自分に可能な限りの総合上位を目指す」と宣言するファンアールトにとっては、「ボーナスタイムでクライマー勢に10秒差をつけた」ことも極めて重要だった。
ジュリアン・アラフィリップ(写真中央)
いち早く主役に名乗りを上げたファンアールトに負けじと、ライバルたちも2日目に自己主張。トスカーナの起伏を舞台にエガン・ベルナル、サイモン・イェーツ、ミケル・ランダ、パヴェル・シヴァコフといったグランツール総合系が攻撃的な走りを見せ、最後まで粘った昨ジロ総合4位ジョアン・アルメイダ……をジャンプ台に、ジュリアン・アラフィリップが飛び出した。シンプルに「両手を挙げること」を目指して大会入りしたマイヨ・アルカンシェルの背後では、マチュー・ファンデルプール2位、ファンアールト3位。モニュメント覇者でもある3人に続きポガチャルも4位に食い込み、早くも存在感を放つ。
3日目はマチューの番だった。「前日はミスを犯した。すごくフラストレーションがたまってる」と奮起。アラフィリップを囮に使ったウルフパックの巧みな奇襲に、総合首位が自ら動かざるを得なかったのに対して、MVDPはシクロクロス時代からの宿敵の背中にぴたり入り込む。最後はすべてを振り払い、腕組みからのガッツポーズ。ファンアールトは2位に屈するも、3日連続でボーナスタイムを収集し、総合では4位ランダに19秒、5位ポガチャルに20秒差をつけた。
このポガチャルこそが、週末に頂点へと駆け上がる。山頂フィニッシュへ向け大きな一発を振り下ろすと、ラスト5kmを1人で突き進んだ。約20日前のUAEツアーではアダム・イェーツを一騎打ちで破った22歳は、今回は単独で追いかけてきたサイモンを6秒差でかわし、区間と総合を一挙に手に入れた。
「独走に持ち込もうとアタックを打った。自分のリズムで上りたかったんだ。すぐに後方とのタイム差が開いたから、行けると感じた。でもそこからが長くて厳しかった。最後の2kmは、ひたすら自分との戦いだった」(ポガチャル)
もちろん、この4日目の「最難関」ステージでも、ファンアールトは恐れず精力的に戦った。3年前のツール覇者ゲラント・トーマスが切った加速には、真っ先に穴を埋めに向かったほど。続けて放たれた現ツールタイトル保持者のアタックにはついていけなかったが、昨ツールではプリモシュ・ログリッチを時には山で護衛した健脚で、45秒遅れの区間9位と大・大・健闘。なにしろ2年前のツール覇者ベルナルより13秒、7年前のツール覇者ヴィンチェンツォ・ニバリより42秒も早かった。ボーナスタイムがなければ総合6位陥落のところ、連日こつこつ貯めたおかげで2位に踏みとどまった。
一方で今大会はあくまでも「ミラノ〜サンレモ準備」と割り切り、のんびり20分以上の遅れで山頂へたどり着いたファンデルプールは、別のとてつもない快挙を成し遂げる。5日目の「壁ステージ」で、冷たい風雨にさらされながら……なんと52kmもの独走勝利!
52kmもの独走勝利を果たしたファンデルプール
「限界だった。ただフィニッシュラインにたどり着くことだけを考えた。空っぽだった。後方からポガチャルが追いかけてきていると聞かされたけど、もはやその声は頭に入らなかった」(ファンデルプール)
ファンデルプールの英雄的逃避行の背後では、総合リーダーが自ら動いた。U23時代のツール・ド・ラヴニールでマイヨ・ジョーヌ自ら飛び出し周りをびっくりさせたポガチャルは、たとえ本物のマイヨ・ジョーヌを取った後だろうが、自らの哲学を変えなかった。集団内でライバルに睨みを効かせるより、自分で動いたほうがいい。だから残り18km、平均勾配15%の「壁」で、ライバルたちを蹴散らすために飛び出した。
「ツールを勝ったことで、もしかしたら少しプレッシャーは増えたかもしれないけど、まあ、それほどでもないんだ。それに僕は『ボス』的に振る舞うタイプじゃないし」(ポガチャル)
ただ前日のフランスではログリッチが逃げを非情にも飲み込み、少々物議を醸したが、ポガチャルには「マチューを捕まえようという考えはなかった」。飛び出した時点で3分50秒あったタイム差を、10秒に縮めるだけで満足した。その代わりあらゆる総合ライバルには、新たにたっぷりとタイム差を押し付けた。
むろんファンアールトだって勇敢にも1人で追走を試みたのだ。ファンデルプールから49秒差、ポガチャルから39秒差の区間3位にも滑り込んだ。ただしポガチャルとの総合差は1分15秒に広がり、「もはや総合優勝には手が届かないところまで差が開いてしまった」と、事実上の敗北宣言を出した。
それでもすべてを投げ出したわけではない。初日からの5日間、文字通り全開で走ってきたワウトは、翌6日目を自主的に「休息日」と決めた。ずばり、最終日の個人タイムトライアルで、新たなステージ優勝を狙うために。ユンボ・ヴィスマが制御権を放棄したプロトンからは、6選手が抜け出し、マッズ・ウルスシュミットが嬉しい初ワールドツアー勝利を手にした。
個人TTをスタートするファンアールト
そして最終日。「去年からすでに僕の多彩さは見せてきたと思うけど」と自負するように、世界選手権ロード2位・個人タイムトライアル2位・シクロクロス2位のファンアールトが、望み通りにトップタイムを叩き出した。個人TTの現役世界チャンピオンも現役ヨーロッパチャンピオンも押しのけて、区間勝利で始めた2021年ティレーノを、区間勝利で締めくくった。
総合でも2位。前日オールフラットなデンマーク一周で総合優勝の経験はあるが、これほど起伏のある大会でファンアールトが総合表彰台に登るのは初めて。しかも優勝ポガチャルと3位ランダに挟まれ、現役屈指のグランツールライダーたちとのバトルをかいくぐってつかんだ成績だ。
「生まれて初めてワールドツアーのステージレースで総合争いに挑んで、しかも負けたのはツール総合覇者だけ。幸先良いスタートだね。将来的にはしばしば総合にトライしていくつもり」(ファンアールト)
昨ツールで激坂タイムトライアルを制したポガチャルは、完全ど平坦な最終TTでさえ区間4位と異次元の強さを見せ、初出場ティレーノであっさり海神の三叉槍を掲げ持った。しかも2021シーズンは早くも、チームのお膝下UAEツアー勝利に続くステージレース2勝目。
ポディウム
「自分のパフォーマンスに満足しているし、ファンタスティックなシーズンデビューを切ることができた。でも好調のまま次の戦いへ挑むためには、少し休息が必要かな」(ポガチャル)
4月上旬のバスク一周まで一旦お休みのポガチャルに対して、ファンアールトは、春クラシックシーズンへと突き進む。まずは4日後のミラノ〜サンレモで、またしてもファンデルプールやアラフィリップ相手に、タイトル保守を狙うのだ!
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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