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【パリ~ニース 最終ステージ:レビュー】2度の落車で優勝逃すも、負けてもなお美しく。ログリッチ「僕はまた戻ってきて、次のレースに挑むだけさ」。シャフマンがヴィノクロフ以来となる2連覇達成!
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか2度の落車で優勝を逃したログリッチ
やはりパリ〜ニースの最終日には、とんでもない展開が待っていた。無数のアタックと、たくさんの落車と、まさかのマイヨ・ジョーヌ交代劇。2度の落車でプリモシュ・ログリッチは総合15位まで陥落し、「2位を守るつもりで」最終ステージを走り出したマキシミリアン・シャフマンが、2年連続で大会王者に輝いた。
「ちょっと複雑な気分。こうして黄色いジャージを着られたことは最高だけど、やはり違う方法で勝ちたかった。ログリッチに『こんな事になってごめん』と声をかけたら、彼は『いやいや、いいんだ。君が勝者だよ』と言ってくれたけどね」(シャフマン)
週末ロックダウンの影響でコースが変更され、ニースの裏山に描かれた周回コース。データだけで見れば、たしかに予定されていたステージに比べて、かなり難度は下がった。距離は100km以下に短縮され、起伏の難度や累計獲得標高も低い。しかしプロヴァンスの、ヴェズビ峡谷を沿うように走る道はひどく細く、無限にうねっていた。しかも路面状況は必ずしも良くない。昨ツール直後に襲った嵐と大規模な土砂災害のせいで、少しでも風が吹けば、むき出しになった岩肌から小砂利が道路に降り注ぐ。ひどく滑りやすい道だった。
こんな恐ろしい道に、選手たちは猛スピードで次々と飛び出して行った。なにしろフラストレーションを抱える者は多かった。過去7区間のうち3日が大集団スプリントで、1日が個人タイムトライアル、そして3日が..ログリッチ勝利。つまり逃げ切りは1度も許されなかったからだ!
激しい駆け引きが無数に繰り返され、誰もはっきりとは逃げ出せないまま、全部で2周半のサーキットコースの2周目に入った直後だった。緊迫感に満ちた集団内で、落車が発生する。イエロージャージが地面に転がり落ちた。
「ログリッチは僕の目の前で落車したんだ。集団全体が少しスピードを緩めたよ」(シャフマン)
ジャージの太もも部分が大きく裂け、フィニッシュ後には「この落車で左肩を脱臼した」とさえ告白したログリッチだが、この時は無事にプロトン復帰を果たす。
一旦は仕切り直した集団から、またしても数人が猛スピードで前方へと躍り出る。4人、さらには3人、と小さな塊が突進し、いつしか7人の集団が出来上がる。エドワード・トゥーンスやスヴェンエリック・ビストラム、ワレン・バルギルという実力者たちに、さらには第2ステージ勝者ケース・ボルさえも滑り込む。この日3回通過した2級峠の、2度目の上り前には、ローレンス・デプルスも先頭集団に追いついた。
上りに入るとルイスレオン・サンチェスが集団内から仕掛け、マイケル・マシューズ、オマール・フライレ、マッテオ・トレンティン、ディラン・トゥーンス等々の危険人物を連れて前を追いかけた。前を行く8人を捕らえたのは、今大会の運命を変える事件が起こったほんの直後のことだ。
フィニッシュまで残り約25km。強力なメンバーが揃う先頭集団を逃すまいと、メインプロトンがハイスピードで追いかけている真っ最中だった。ログリッチは再び落車する。この時はチェーンが脱落し、すぐには走り出せなかった。1回目の落車ですでにリーダーのために大いに尽くしたアシストたちは、当然ながら数を減らしており、もはや牽引できるのはジョージ・ベネットとステフェン・クライスヴァイクの2人だけ。
しかも2度目はさすがにプロトンも待たなかった。シャッフマン擁するボーラ・ハンスグローエと、前区間終了時点で総合3位・4位を抱えるアスタナは、集団先頭で猛烈なテンポを刻み続けた。
「だってすでに勝負の時間帯に入っていたから。集団はものすごいスピードで走っていたし、前には危険な一団が逃げていた。僕らだって区間勝利が欲しかったし、総合2位の座も失いたくはなかった」(シャフマン)
ベネットが仕事を終え、クラウスヴァイクもついには力尽きた残り19km、たしかにメイン集団はすぐ目の前に見えた。その時点でログリッチと共にいたダニー・ファンポッペルやナセル・ブアニも、何度かは先頭交代に協力してくれた。しかしプロトンの尻尾は再び徐々に遠ざかっていく。最終日の朝に有していた52秒の総合リードは、残り16km前後でついに0となった。
マイヨ・ジョーヌのシャフマン
それでもログリッチは投げ出さなかった。14.5kmで最後の力を振り絞ると、ひとりで前を追いかけた。タイム差は非情にも広がっていくばかりだったが、黄色いジャージ姿で孤独にフィニッシュラインを目指した。
「どうやったら持てる力のすべてを体の中から絞り出せるか。そんなことを考えながら走っていた。苦しかったよ。自分の内側との戦いだった」(ログリッチ)
最終的には先頭集団から3分08秒で、たった1人で苦しい1日を終えた。2020年クリテリウム・ドゥ・ドーフィネは黄色のままリタイア、2020年ツール・ド・フランスは最終日前夜の黄色喪失、そしてログリッチの初めてのパリ〜ニースは、区間3勝、マイヨ・ジョーヌ4日間着用、マイヨ・ヴェール、そして総合2分16秒遅れの15位..で幕を閉じた。
「たしかにもっと簡単な日々ばかりだったらいいのにと思うけど、これがスポーツであり、結果がすべてなんだ。この後も人生は続いていく。僕はまた戻ってきて、次のレースに挑むだけさ」(ログリッチ)
ちなみに前日ノーギフトの精神を貫いたログリッチは、シャフマンを筆頭とするライバルたちの態度に不服を唱えることなどなかった。むしろその逆だ。
「当たり前のことだ。僕らはここにレースをしに来ているのであって、別のなにかをしにきてるわけじゃない。だから至って普通のこと。むしろ僕自身がミスを犯した。この出来事から僕はポジティヴな教訓を得なければならない」(ログリッチ)
前方ではヨナス・ルッチのイニシアチヴで、バルギル、ビストム、ジュリアン・ベルナールが飛び出したが、最後2級登坂でメイン集団に吸収された。その上りでも、下りでも、攻撃の波は止まなかった。突如として総合首位に立ったシャフマンを打ち倒そうと、次点アレクサンドル・ウラソフもアタックを試みた。前夜ログリッチにライン20m手前で息の根を止められたジーノ・マーダーも、ギヨーム・マルタンやクリスツ・ニーランズと共に特攻した。
スプリントフィニッシュ
しかし2021年パリ〜ニースは、最後まで、逃げに微笑まなかった。残り1.8kmですべての試みには終止符が打たれ、20人ほどのスプリントにもつれ込んだ。荒れたフィニッシュを得意とするマグナス・コルトがガッツポーズを力強く天に突き上げ、同集団で終えたシャフマンが大会2連覇を成し遂げた。EFエデュケーション・NIPPOにとっては、いわゆるお膝元(まさに最終3日間で通過した地方がチームスポンサーなのだ)で嬉しい勝利を手に入れた。またユンボ・ヴィスマ3勝(すべてログリッチ)、ドゥクーニンク2勝(すべてサム・ベネット)に続き、第3ステージ個人TTと合わせてEF・NIPPOも今大会2勝目。
「完璧な終わり方だね。これ以上に嬉しいことはないよ。最終数キロはひどく混沌としていて、場所を守ってくれるための列車もなかった。自分自身ですべてをやり遂げなきゃならなかった。2度のフィニッシュ通過時に、ライン直前に小さなコーナーがあることを確認していたんだ。ここを1番に通過すれば、後は誰も追いつけないだろうと考えた。だからこのコーナーを先頭で突っ込むことに集中した。そして目論み通り、誰も追いついては来なかった」(コルト)
ところで例年サスペンスの多いパリ〜ニース最終日だが、実際に逆転劇が見られたのは2018年以来3年ぶり。あの年はマルク・ソレルが、サイモン・イェーツとの37秒差をひっくり返した。2015年にリッチー・ポートが36秒差を覆したのは、最終日が個人タイムトライアルだったせいで、ある意味想定内の結果。その前は2007年のアルベルト・コンタドールの劇的な初勝利まで遡るため、実のところ、今年の波乱は極めて珍しい結果なのだ。
「僕もチームも、どれだけ考えても、ログリッチを倒す手法を見つけられなかった。だからこの日、僕らのチームは、区間勝利と僕の総合2位の保守を目指して走り出したんだ。僕自身スタートから7kmでパンクして、もう終わりだ、ってさえ思ったさ。幸いにもチームメートのおかげでプロトンに戻ることができた。その後はダウンヒルだってものすごくスローに下ったよ。数秒くらい離されても、落車するよりはいいからね。保守的に走る方を選んだんだ」(シャフマン)
シャフマンは2002年・2003年のヴィノクロフ以来となるパリ〜ニース2連覇を果たし、そのヴィノクロフの部下たち、ウラソフとイオン・イザギレが表彰台の両脇を飾った。アントニー・ペレスは2020年ツールのリベンジを成功させ、赤玉ジャージを家に持ち帰った。
また我らが新城幸也は「ゼネラリスト」としてスプリント、パンチャー、総合のための仕事をこなしつつ、シーズン初戦を終了。「チームからの信頼を感じますし、良いプログラムをもらってます。J SPORTSで中継されるレースが今年は多くなりますよ」と、なにやら楽しみなコメントを残しつつ、新たな戦いへと旅立っていった。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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