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サイクル ロードレース コラム 2021年3月12日

【パリ~ニース 第5ステージ:レビュー】王道を行くスプリントトレイン!ウルフパック劇場でサム・ベネットが2勝目「みんなが最高の仕事を成し遂げてくれた」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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サム・ベネット

スタート前のサム・ベネット

ピュアスプリンターにとって今大会3度目の、そしておそらく最後のチャンスを、サム・ベネットが射止めた。5年欠かさず参戦してきたパリ〜ニースで、これにて通算ステージ5勝目。黄色いジャージのプリモシュ・ログリッチは最終盤の落車に巻き込まれ、大切なチームメートを1人失ったが、無事に先頭集団で「移動ステージ」を終えた。

「第1ステージを勝ってすごく嬉しかったけど、2回目のスプリント後はがっかりした。だから再度立て直して、最後のスプリンターステージを勝てたことが嬉しい。しかも大好きなレースで、またしても新たな勝利を手にすることができた。最高の気分だ」(ベネット)

プロトンはゆっくりと走り出した。200kmと長く、しかも終盤に3級峠がひとつ組み込まれただけの単調なコースでは、しばらくは逃げの試みさえ生まれなかった。前日の起伏越えで大いに消耗した選手たちは、スタートからの1時間は、時速33kmでのんびりサイクリング走行を続けた。

それでも退屈になり過ぎなかったのは、間違いなく、途中2か所設けられた中間ポイントのおかげだ。初日からスプリンターたちの関心はたいして引かなかったけれど、上位通過者3人に与えられるボーナスタイムが、連日ちょっとしたバトルを演出している。

この第5ステージも例外ではない。そこまで何も起こらなかった集団から、54.1kmの第1中間ポイント向けて数選手が飛び出した。中でも総合2位マキシミリアン・シャフマンが、2位通過で2秒収集。総合8位・1分09秒遅れのルーカス・ハミルトンも戦いに加わり、対する7位ティシュ・ベノートのためには、チームメートのヤシャ・ズッタリンがスプリント。おかげでハミルトンは3位通過に追いやられ、わずか1秒を手にしたに過ぎなかった。

再び訪れた静けさは、残り72km、突如として破られた。ほんのわずかな風に、攻めのチャンスを感じたオリバー・ナーセンとフィリップ・ジルベールが、一気にガツンとスピードを上げた。2人のベルギー人の後を追ったのは9人。なんと全員が..ベルギー人だった!

「なにもすべきことのない時にこそ、なにかを仕出かしてやりたいと思うもの。サプライズアタックを繰り出すのは最高さ。すごく強力な集団が出来上がったから、もしかしたら上手くいく可能性だってあった。とりあえず15秒差さえつけられていれば、状況は違っていたはずだ」(ナーセン)

ちょうどトイレ休憩の直後だったせいで、プロトンは軽いパニックに襲われた。しかし完全に眠り込んでいたわけでもなかった。すぐさまボーラ・ハンスグローエやEFエデュケーション・NIPPOが追走を編隊。またイヴ・ランパールトやティム・デクレルクは..後方にスプリントエースを残してきたベネット隊列の一員であるからして、本当の意味では逃げに協力してはくれなかった。この日唯一の試みは、7km先であっさり終わりを告げた。

ひたすら南を目指してきた一行は、残り50km、突如として進路を東に変えた。そこからは幾度もの方向転換が待ち構えた。速度こそそれほど上がらなかったが、集団内の緊迫感は急速に増していく。

ログリッチとトニー・マルティン

ログリッチとトニー・マルティン(写真中央)

そして残り37km。住宅地のうねる細道で、落車が起こった。車道と自動車路とを分けるプラスチックのポールにトニー・マルティンが衝突し、段差のある歩道に叩きつけられたのだ。背後を走っていたログリッチも巻き込まれたが、総合リーダーは幸いなにごともなくすぐに自転車にまたがった。残念ながらマイヨ・ジョーヌ護衛役は、右肘骨折で即時リタイア。残す3日間の山岳バトルを、ユンボ・ヴィスマは6人で切り抜けなくてはならない。

「幸運にも僕は全く問題ない。ただ悲しいだけ。だってマルティンが僕らの元から去って行ったんだから。でも、これが自転車さ。個人的には僕の調子はいいし、このまま続けて行きたい」(ログリッチ)

総合首位がひたすら安全にフィニッシュを目指した一方で、ライバルたちは、またしても秒数稼ぎに精を出した。2度目の中間ポイントでは、チームランキング首位+個人総合トップ10圏内に3人を有するアスタナが大いに励む番だった。ルイスレオン・サンチェスの牽引で、総合5位・43秒遅れのイオン・イザギレが1位通過。ボーナス3秒を収集した。またしてもシャフマンは2秒をかすめ取り、今回はチームメートではなく、この日が27歳の誕生日のベノート自らが1秒を回収。

この2度×2秒のボーナスタイム獲りで、シャフマンは総合首位ログリッチとの距離を35秒から31秒に縮めた。アスタナはイザギレとアレクサンドル・ウラソフが順番を入れ替えたが、変わらず4位、5位、9位の座を占める。

スプリントフィニッシュ

スプリントフィニッシュ

そこから先はまさにウルフパック劇場だった。トレックやUAEが何度も力づくで横入りを試みたが、いつだって青い狼たちは最前列を巧みに前を取り戻した。ラスト1kmでも3両列車が手厚くエースを守り、しかも最終200mまで、発射台ミケル・モルコフが最前列ど真ん中を突き進んだ。統制の取れた、まさしく王道を行くスプリントトレイン。ベネットはただ自分のタイミングで、自分のスプリントを切るだけで良かった。

「みんなが最高の仕事を成し遂げてくれた。全てがパーフェクトに進んだ。かなり難しいフィニッシュだったから、最後まで耐えられるか実は分からなかったんだけどね。今大会の残りは、今のこの調子をできるだけ保つよう努力していく。その先は、ミラノ〜サンレモに集中したい」(ベネット)

ベネットが初日に続く今大会2勝目で、シーズン4勝目を上げた同じ日、イタリアのティレーノ〜アドリアティコでは、ジュリアン・アラフィリップが区間を制した。つまり前日のユンボ・ヴィスマの快挙を、この日はドゥクーニンク・クイックステップが再現した。これにてウルフパックは早くも2021年10勝目。すべてのワールドチームに先駆けて早くも2桁勝利を叩きだし、いつも通り「最多勝利チーム」の座を順調に突っ走る。

2位にはナセル・ブアニが、3位にはパスカル・アッカーマンが食い込んだ。前者は今季4度目の、後者は3度目のトップ3入りで、いまだ本人もチームもシーズン1勝目を追い求める。昨シーズン最多14勝を叩きだしたアルノー・デマールも、今季初勝利を誓って大会入りしたが、結局は手ぶらで帰ることになりそうだ。しかもこの日は前から13番目でフィニッシュラインを越えたが、残り1.7kmでニルス・ポリッツに軽く頭突きしたことを見とがめられ、同集団内の最下位=117位への降格処分が下された。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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