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【パリ~ニース 第2ステージ:レビュー】欧州ワールドレースで初勝利を掴んだケース・ボル「最高の気分さ。スーパーハッピーな1日だ」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか両手をあげて喜ぶケース・ボル
巨体から繰り出された一瞬の爆発力が、埋めきれないほどの空間を作り出した。ナーバスでテクニカルなスプリントを、ケース・ボルが巧みに、そして大胆に勝ち取った。2日間かけて数秒ずつ積み重ねてきたマイケル・マシューズは、念願通りリーダージャージに袖を通した。
「最高の気分さ。チームにとっても僕にとっても、スーパーハッピーな1日だ。僕らチームはシーズ開幕後しばらく苦しんだけれど、こうして1勝目を手にしたことで、自信は倍増するよ」(ボル)
次のカーブを抜けた瞬間、強風が吹くかもしれない。そんな緊張感がプロトンを延々と支配した。スタートから10kmは一切なにも起こらず、15kmを過ぎたところでようやくサンデル・アルメとデボントが逃げ出した。黄色いジャージ擁するドゥクーニンク・クイックステップが制御する後集団からは、一時は4分半ほどのタイム差を奪った。
風は予想されていたほど強くはなかった。それでも、唯一の3級峠を抜けた直後、トレックは急激な加速を断行する。まさに「フランスの穀物庫」ボース平地に足を踏み入れた瞬間だった。プロトンはあっという間にバラバラになり、逃げる2人も飲み込まれた。
ただ、あくまで、風は強くなかったのだ。決定的な亀裂を生み出せぬまま、数キロ先で集団は静けさを取り戻した。静かすぎるほどだった。フィニッシュまで100kmも残しながら、2度と逃げは起こらなかった。開催委員会が今ステージ用にあらかじめはじき出した予定走行時速の、もっとも遅い42km/hで、プロトンは淡々と走り続けた。
見渡す限りの田園と、ところどころでアクセントを与える小さな町や村。こんな平和な風景の中で、しかし選手たちは決してリラックスして走っていたわけではない。小さなカーブや、中央分離帯のたびに、前方では恐ろしい警戒合戦が繰り広げられた。たとえば残り71km、進路が南から東南東へと変わるタイミングでは、クラシック精鋭軍ドゥクーニンクがスピードを上げた。イネオスやトレック、ユンボが待ち構えていたように同調し、またしても集団は3つに分断する。ただこのときも、強行は長続きしなかった。
田園地帯を走るプロトン
横風パニックの代わりに、別の面白い企てが見られた。コース上に2ヶ所設けられた中間ポイントで、マイケル・マシューズが前日に続く着順を狙ったのが予想通りなら、「予想外」だったのは、2つ目のポイントで、テイオ・ゲイガンハートもスプリントにチャレンジしたこと。チームメートのリッチー・ポートが棄権した翌日に示した、素晴らしいファイティングスピリッツ。残念ながら昨ジロ覇者の試みは、4位通過で終わった。
肝心のマシューズは1つ目で1位、2つ目で2位通過を果たし、緑ジャージ用ポイント5ptとボーナスタイム5秒を懐に入れた。初日にもボーナスタイム5秒を収集したオージーは、ついにここで総合首位サム・ベネットと同タイムで並ぶ。
つまり総合首位の行方はフィニッシュで決する。分断でタイム差がついた場合や、いずれかがボーナスタイムを収集した場合は、純粋にタイム差で順番が着く。一方で両者同タイムで並んだ場合、1日目・2日目の各ステージ順位の合計で優劣を決するはずだった。
区間勝利とマイヨ・ジョーヌを巡るスプリンターたちの争いは、残り10kmからようやく本格化していった。いくつもの隊列が肉弾戦を繰り広げた。残り3km手前……つまり落車やメカトラで遅れた場合にタイムが救済される地点の、ほんの直前に危険な急カーブが待ち受けていたせいで、総合系チームも決して場所を譲らなかった。
そのカーブではトレックが主導権を握る。しかし次の急カーブを利用して、残り1.2kmで最前列を奪い取ったのはDSMだ。昨ツールでも何度か披露した得意の猛攻で、4両列車がうなりを上げた。
「最終盤の地形は今朝しっかりみんなで確認していたんだ。こういったカーブの多いフィニッシュ地形は好き。実はかなり後方に沈んでたんだけれど、でもティシュ(ベノート)が前へ連れて行ってくれた。すごくスムーズに、とてつもなく強烈な牽引を実現してくれたのさ」(ボル)
その直後にボーラ2人を含む小さな落車が発生。プロトンは寸断し、前方で難を逃れた約20人だけがフィニッシュラインへと急いだ。前日2位のアルノー・デマールは咄嗟に舗道に避け、落車こそ逃れたが、勝負に絡むことはできなかった。
残り500mまで2人アシストを残していたDSM隊列の脇を、またしてもトレックがすり抜けた。ジャスパー・ストゥイヴェンの力強い背中の後ろには、マッズ・ピーダスンが潜んでいた。この元世界チャンピオンにも、やはり総合首位に立つチャンスが残っていた。ぎりぎりまでタイミングを待ち、残り150mでスプリントに転じた。
しかし一瞬でライバルに並ばれ、そして離された。自らの後輪にぴたり張り付いたまま、最後までなにもできなかったブライアン・コカールではなく、その後ろにいたケース・ボルだ。フィニッシュ手前400mの右カーブで内を突き、自身の隊列からピーダスンの2人後ろにすばやく場所替えした194cmの長身だった。
「最後のカーブでいいポジションに入り込めた。あわや行く手を塞がれそうになったけど、ニルス(エーコフ)が僕を前に上手く上げてくれたんだ。良い後輪に入れたね。あとは自分のタイミングでスプリントを切った」(ボル)
ボルが生まれて初めての欧州ワールドレース勝利をつかみ、「チームは完璧。単に僕が遅かっただけ」と悔やむピーダスンが区間2位で終えた背後では、3位を巡りマシューズとベネットがもがいた。「少し長く待ちすぎた」前区間勝者は5位に沈み、マシューズがまんまと3位のボーナスタイム4秒を収集。きっちり総合4秒差でピーダスンとベネットを退け、念願の黄色いジャージを手に入れた。
「努力が報われて最高だ。ここには自分ができることをすべて試みるつもりでやってきた。昨日はフィニッシュスプリントには少し届かなかったけど、中間スプリント収集をしっかり成功させられたし、今日もまた中間の機会を逃さず、ベストを尽くした」(マシューズ)
2015年大会で1日、2016年大会で5日間、すでにマシューズは今大会のマイヨ・ジョーヌをまとっている。そもそもがかなりの総合リーダージャージコレクターで、グランツールでもジロ8日間、ブエルタ3日間の経験あり。ただ総合首位として個人タイムトライアル最終出走者となるのは、少なくともプロ入り後は初体験だ。
マイケル・マシューズ
「黄色いジャージを着てタイムトライアルを走れるなんて最高だね。TTの成り行きを見てから、僕があとどれくらいジャージを守れるのかを考えるつもり」(マシューズ)
残り1km手前の落車分断にはタイム救済措置が適応され、おかげでニースで黄色いジャージを狙う総合系選手たちは、揃ってボルと同タイムで1日を終えた。また残り23km地点の落車で、アレクシー・ヴィエルモが左肩関節脱臼。残念ながら大会2人目のリタイアとなった。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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