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サイクル ロードレース コラム 2021年3月8日

【ストラーデ・ビアンケ:レビュー】驚異的加速でマチュー・ファンデルプールが全てを蹴散らした「彼らを直接対決で退けられたことが、この勝利を価値あるものにしてくれる」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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マチュー・ファンデルプール

マチュー・ファンデルプール

本当は誰が一番強いのか。みんなが知りたがっていた答えを、砂埃と激坂の繰り返しの果てに、シクロクロス現役世界チャンピオンが突きつけた。マチュー・ファンデルプールが、2度の暴力的な加速で、すべてを蹴散らした。

「調子は良かった。あとは正しいタイミングで、正しく飛び出した」(ファンデルプール)

心配されていた雨雲は去り、トスカーナの丘陵地帯は美しい陽光に恵まれた。全部で11ある「白い道」セクターの2番目で、8選手が逃げ出すと、しばらく表面上は穏やかな時間が流れた。

そう、あくまでも、表面上だけ。ディフェンディングチャンピオンのワウト・ファンアールト擁するユンボ・ヴィスマが、すぐさまプロトンの制御に乗り出し、タイム差は最大でも2分程度しか与えなかった。タデイ・ポガチャル属するUAEチームエミレーツやジュリアン・アラフィリップのドゥクーニンク・クイックステップもまた、交互に仕事に励んだ。優勝候補の中で唯一チームメートを前方に送り込んだファンデルプールでさえ、今大会に限っては、後方でのんびりしていることなど許されなかった。

パンクや落車が多発した

パンクや落車が多発した

なにしろ未舗装セクター突入のたびに、複数チームが熾烈な場所取りスプリントを繰り広げ、アップダウンの激しいグラベル上で、プロトンはせわしなく伸び縮みを繰り返す。パンクや落車はまるで日常茶飯事であるかのように相次ぎ、選手たちの脚と精神を削っていく。

折り返し地点を過ぎたころ、いよいよ本物の戦いが勃発した。真っ先に積極策を取ったのはドゥクーニンク。7番目のグラベル路でアスグリーンを使って強烈なスピードアップを断行すると、逃げを吸収しつつ、プロトンを粉々に破壊した。この企みに五輪金グレッグ・ファンアーヴェルマートらが便乗し、一時は16人の大きな集団ができあがる。

チームから1人この先頭グループに滑り込んでいたし、もはや牽引役は1人しか残っていなかったにも関わらず、ワウトは責任を持って追走に向かった。こうして第8番目の、つまり全長11.5kmの「最難関」セクターで、まんまとこの16人を前から引きずりおろした。

直後にまたしてもドゥクーニンクが動いた。この時はエース自らが加速を切った。フィニッシュまで残り約50km。同セクターーの真ん中に待ち構える、サンテ・マリエの勾配10.3%の上りで、アラフィリップが自慢のパンチ力を炸裂させた。世界チャンピオンがライバルたちを一気にふるいにかけ、ただ8人だけが共に先を続けることを許された。

「いつもどおり、やはりサンテ・マリエで、強豪が飛び出した。僕はすごく調子が良かったから、一緒に前に行ったんだ」(ファンデルプール)

それにしても、出来上がったのは、なんという超エリート集団だったろうか!

ケヴィン・ゲニッツこそかろうじてルクセンブルクロードチャンピオンジャージを着ていたが、プロ0勝のミヒャエル・ゴグルにとっては……この集団に食い込んだことだけでも快挙だったに違いない。

超エリート集団

超エリート集団

なにしろロード世界王者アラフィリップに、シクロクロス世界王者ファンデルプール。元シクロ世界チャンピオンにして、昨季ロード・TT・シクロで世界2位のファンアールトに、現マウンテンバイク&元シクロクロスのU23世界王者トーマス・ピドコック、さらには1年半前のジュニア世界王者でわずか19歳のクイン・シモンズ。その上ツール・ド・フランスの過去2年の覇者、ポガチャルとエガン・ベルナルさえいた!

これぞ天下一決定戦とでも言うべきか。脚質やカテゴリーを超越したチャンピオンたちの殴り合い。まるで少年漫画のようなシナリオだが、しかし、これは現実なのだ。

「このレースは、たしかに、モニュメントよりは格が落ちるのかもしれない。でも、今日ボクが戦った顔ぶれを見れば、それ以上と言ってもいい。あらゆるトップ選手が、ひとつのレースでバトルを繰り広げた。そこにはグランツール総合覇者だって含まれた。彼らを直接対決で退けられたことが、この勝利を価値あるものにしてくれる」(ファンデルプール)

ただその後しばらくは、王者たちには自らの力を誇示し合う余裕も、一息つく暇もなかった。背後から、出遅れたヤコブ・フルサンやティム・ウェレンスが、鬼気迫る勢いで追いかけてきていたからだ。しかも、わずか15秒差ほどのぎりぎりの綱引きは、ここから延々25km以上も続いた。16人のアタックにも紛れていたゲニッツが脱落し、シモンズが無念のパンクで後退したが、残す7人はひたすら猛スピードで先頭交代を繰り返した。

その後アラフィリップはもう1度だけ、大きな加速を見せた。フィニッシュ手前約23km。勾配7.5%のグラベルゾーンだった。これが先頭の7人で唯一、この日が2021年初戦というファンアールトの、鎧を剥ぎ取った。まさかの遅れを喫したのだ。誰もがワウトの不調を察したと同時に、アラフィリップは「今日はマチューが一番強い」と直感したという。

それでもどうにかファンアールトは体制を立て直し、5kmほどの追走でライバルたちをとらえた。再合流してからは、猛烈に飛ばしまくるアラフィリップとファンデルプールに対する警戒を解かず、最終グラベルセクターにはあえて先頭で飛び込む意地も示した。

しかし2連覇の望みは、永遠のライバルに断ち切られた。フィニッシュ手前12.2km。この日最後の「白い道」の、全長1.1km、平均8.6%の坂道を抜け出す直前だった。ファンデルプールが前触れもなく2列目から駆け出していくと、アスファルトゾーンでも畳み掛けるようにスピードを上げた。

「後半は風がすごく強かった。しかもアラフィリップとファンデルプールのアタック。もはや限度を超えた」(ファンアールト)

ファンアールトにとってだけではなく、その場にいたほとんどの選手にとって、許容範囲を超えていた。ただ「2019年優勝時と同じような調子だった」アラフィリップと、同僚ピドコックと共に「ひたすら最終盤を待ち続けた」ベルナルだけが……一瞬で引き離されたはしたが、かろうじてフライング・ダッチマンのもとへと追いつけた。

「アラフィリップは少し疲れているように感じたし、彼自身も、脚が上手く回らないと言っていたんだ。いつもなら全力の彼が、先頭交代をところどころ飛ばしている姿を見て、嘘をついていないことは分かっていた。むしろベルナルの上りには圧倒されたし、すごく調子が良いように見えた。でも、2人と最後の上りに突入することは、怖くなかった。最後の上りは、僕向きだと分かっていたし、まだ脚に余力があると感じていたから」(ファンデルプール)

その通り、3人に絞り込まれた優勝争いは、「最後の」上りで決した。第15回目といまだ若い大会ながら、すでに伝統の香り漂うサンタ・カテリーナ通りの、最大勾配16%の石畳の上で。フィニッシュまで残り700m。ファンデルプールが2度目の加速をお見舞いした。一瞬で勝負はついた。

2019年アムステル・ゴールドレースはありえないほどの追い上げからのぎりぎりスプリント、2020年ツール・デ・フランドルは宿敵ファンアールトとの一騎打ちでハンドルを投げあったファンデルプールは、この日はカンポ広場で思う存分ガッツポーズを振り上げた。ストラーデ・ビアンケを制した初めての男子オランダ人選手となり、同日に行われた女子レースと合わせて、オランダが男女アベック優勝を飾った。

マチュー・ファンデルプール

ガッツポーズを見せたマチュー・ファンデルプール

「こんな風に勝てるなんて、最高だ。これが絶好調クラシックシーズンの始まりになって欲しいと願ってるし、あと1ヶ月は調子を保っていけると確信してる」(ファンデルプール)

アラフィリップは5秒後にフィニッシュラインを越え、「勝ちたかったけど、後悔はない」と、いつも通りからりとしたコメントを残した。ただし世界チャンピオンは、2021年初勝利を上げたくてうずうずしている。「ティレーノ〜アドリアティコで区間を勝ちたい」と、強い野心も決して隠さない。

「僕はクラシックスペシャリストじゃないから、正直驚いてる」と語るベルナルは、20秒遅れの3位に飛び込んだ。忘れられがちではあるが、2019年は夏のツールで総合制覇を飾った後、秋にはセミクラシック1勝、イル・ロンバルディア3位とワンデーでも好成績を残している。今大会の3日前には、トロフェオ・ライグエリアでも2位に食い込んだ。すると2021シーズンのベルナルは、2年前の好調さを、完全に取り戻したと言えそうだ。

苦しめられながらも、ファンアールトは4位で終了。初戦でいきなり稀にみるほどの激戦をくぐり抜けたことを考えると……ティレーノでたっぷり1週間走った後の、ミラノ〜サンレモが楽しみだ。シーズン最初のモニュメントこそは、簡単に、自らのタイトルを譲り渡すつもりはないだろう。ファンデルプール相手には、特に。

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文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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