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サイクル ロードレース コラム 2021年3月7日

【3.7開幕 パリ~ニース:プレビュー】イネオスの「ツール用一軍候補」とログラ擁するユンボの主導権争いに注目!我らが新城幸也も動き出す。

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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パリ〜ニース

「太陽へ向かうレース」

いまだ寒い北から、すでに春めきつつある南へ。こんな「太陽へ向かうレース」はまた、7月を頂点とするグランツール大戦の幕開けであり、春クラシックに向けた最終調整の場でもある。勝利数をすばやく積み上げようと、スプリンターたちは大挙して詰めかけ、独走好きにも脚試しのチャンス。3月7日(土)からの8日間、春の陽の光は、あらゆる脚質を美しく輝かせる。

過去10年で3人のパリ〜ニース総合勝者が、後のツール・ド・フランス王者となった(うち2人は同一年)。その3人のマイヨ・ジョーヌこそが、ウィギンス、トーマス、ベルナルであり、いずれもスカイ→イネオスの所属選手だった。しかも、その合間にもポートで2回、エナオで1回、やはり同チームは勝利を持ち帰ってきた。

つまりイネオスにとって、パリ〜ニースは極めて重視すべき大会であり、今年も間違いなく「ツール用一軍候補」を連れてくる。グランツール経験者4人を含むエース候補がぎゅうぎゅうにひしめき、だれがいつどこでなにを狙うのか..世界中の自転車ファンが頭を悩ませる贅沢な選択肢の中から、昨ジロ総合覇者のゲイガンハートと昨ツール3位のポートが今大会に臨む。

一方で早々とツール・ド・フランス出走8選手を発表したのがユンボ・ヴィスマで、エース格のログリッチとクライスヴァイクが、今大会でシーズン始動。実は31歳ログラにとって初めてのパリ〜ニースなのだが、現在2018年秋から(途中リタイアの昨ドーフィネを除く)ステージレース9大会連続で表彰台乗りという生粋のステージレーサーが、黄色いジャージを狙いに行かないわけはない。

ログリッチ

31歳ログラにとって初めてのパリ〜ニース

もしかしたら、初日からいきなり、ログラの攻撃的な走りが見られるかもしれない。1年前に初日区間を制したシャフマンが、そのまま総合優勝までつかみとってしまった前例もある。しかもパリの南西約25km、ヴェルサイユの隣町サン・シール・レコールでの幕開けは、オーソドックスな個人TTでも集団スプリントでもなく、ずばり起伏クラシック風。町を起点に大きな輪を2回描く166kmのコースは、全体が細かいアップダウンに彩られている。コース上には2つの3級山岳も待ち受ける(つまり2山岳×2周回で4回登坂)。

ただしクラシックハンターからピュアスプリンターまで、2021年大会には数え切れないほどの強豪がスタートラインに集結するのだ。ジルベールやオリバー・ナーセン、マッズ・ピーダスン、ボアッソンハーゲン、コカール、ブアニ、グライペル、デマール、サム・ベネット、アッカーマン、ラポルト、ニッツォーロ、クリストフ、デゲンコルブ、トレンティン..等々も、みすみすチャンスを逃すまい。

スプリンターの活躍の場は、2日目に訪れる。地形的にはこれといった難所はない。ただし、パリ〜ニースの前半戦といえばおなじみ、春の嵐。広大な穀物畑が広がるボース台地、つまり周囲に遮るものなど存在しない平地の一本道に、もしも強い風が吹き付けたとしたら..。総合を狙うクライマーたちは、分断で吹き飛ばされてしまわぬよう最大限に警戒すべきだ。

第3ステージは個人タイムトライアル。14.4kmと距離は長くないものの、直角コーナーが連発するテクニカルなコース。しかもラスト400mは勾配6.3%の上り坂。個人TT世界選4回制覇のマルティンと、2回制覇のデニスにとっては、それぞれに総合優勝候補を支える今大会で、唯一自己のポテンシャルを開放できる時間かもしれない。

前夜から250km以上の南下を経て、4日目はパリ〜ニースおなじみ、ボジョレーの丘陵地帯へ。2級峠が6つ、最後は1級登坂フィニッシュという難コースではあるけれど、1つ1つの登坂距離は比較的短め。ブルイィやシルーブルという、ワインの名前としてもおなじみの坂道で、パンチャーとクライマーの打ち合いが見ものだ。そして、そろそろ灰色の陰鬱な家並みとは別れを告げ、屋根の色も、街路樹の葉の形も、光の強さも、変わり始める頃。それでもなおレース一行は、さらに南へと突き進む。5日目は200kmを超える長距離ステージで、何事もなければ、スプリント勝負で締めくくられる。

いよいよ南フランスに足を踏み入れる金曜日は、どちらかといえば大逃げ向き。2日連続200km超のステージで、5つの山岳は、コース中盤に集中して襲いかかる。プロトン屈指の逃げ男、デヘントがどう動くか。なみにちょうど10年前のパリ〜ニースの、衝撃的な初日逃げ切り優勝こそが、デヘント伝説の始まりだった。

2週間前からニースは「週末ロックダウン」に突入しているが、全23チームからなるプロトンは、勝負の週末山岳バトルへと挑みかかる。第7ステージは、2020年大会の同ステージ..つまり新型コロナウイルスの感染拡大によるシーズン中断前の最後のステージと、寸分違わぬコースが用いられる。スタート直後には1級ヴァンス峠(登坂距離9.7km、平均勾配6.6%が、フィニッシュには1級コルミアーヌ(16.3km、6.2%)が立ちはだかる本格難関山岳ステージを、1年前はN・キンタナが、2位以下に46秒もの大差をつけ独走で勝ち取った。

イネオスvsユンボの主導権争いを楽しみにしつつ、ウラソフ、ヒンドレーといった次のグランツール優勝候補の動きも見逃したくはない。おそらくフレンチクライマーたち、つまりゴデュ、バルギル、G・マルタン、ラトゥール、エリッソンドも、攻撃的に仕掛けてくるはずだ。

それにしても1年前のレース強制終了で、なにが物足りなかったかと言えば、最終ステージの「はらはら感」だろう。なにしろアップダウン満載のコントロール不能な地形で、毎年必ずと言っていいほど、逆転優勝を企てるアタック合戦が繰り返されてきた。険しい上りはもちろん、フィニッシュめがけたダウンヒルでの、数秒をかけた息をもつけぬぎりぎりの争い。もちろん2021年大会最終日もニースの裏山で、たっぷり起伏三昧。110.5kmの短距離コースに5つの山岳+1つの無印峠が待ち受ける!

しかも忘れてはならないのは、中間ポイントとフィニッシュラインには、それぞれボーナスタイムが設置されていること。フィニッシュ手前7.5km、キャトル・シュマン峠の山頂にも、3、2、1秒のボーナススプリントが仕掛けられている。地中海岸道路プロムナード・デ・ザングレに選手たちが飛び込んでくる瞬間まで、最終的な王者の名は決して分からない。

また日本の新城幸也が、今大会で2021年のシーズンスタート。実に9年ぶりのパリ〜ニース帰還となる。

新城幸也

新城幸也

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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