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【ツール・ド・フランス2021 ルートプレゼンテーション】40年ぶりの快挙か、それとも...。ロマン・バルデ「「子供の頃に見ていたツールを思い出させる伝統的なコース」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかマイヨ・ジョーヌが期待されるジュリアン・アラフィリップ
フランス国民が、ベルナール・イノーに続く1985年以来36年ぶりのフランス人総合覇者を待ち続けているのだとしたら……、2021年のツール・ド・フランスは、40年ぶりの快挙を演出したがっている。
それは、ずばり、大会初日にロードのアルカンシェルをマイヨ・ジョーヌに上塗りすること。1980年世界王者の、やはり「ブルターニュの星」イノーが、1981年ツール開幕当日に黄色に染まったように。しかも大会開催国にとって都合の良いことに、虹色ジャージの持ち主はフランス人ジュリアン・アラフィリップ!!
「想像して欲しい、アラフィリップがブルターニュで、マイヨ・ジョーヌを着ていることを……」(クリスティアン・プリュドム)
2021年6月26日(土)、フランス西端のブレストから走り出す第1ステージは、全長3km・平均勾配5.7%・最大14%の坂道で締めくくられる。坂の名前もいい。フォス・オ・ルー(Fosse aux Loups)、つまり狼たちの穴。ウルフパックの雄が牙を向くのに、これほど最高の場所はあるまい。
アフターコロナの2021年大会
自転車界にシーズンオフの始まりを告げる風物詩、翌夏のツール・ド・フランスコースプレゼンテーションは、今年はいつもとは様子が大きく異なった。まずは新型コロナウイルスによるシーズン再編成のせいで、いまだブエルタ・ア・エスパーニャは熱戦を繰り広げている真っ最中だった。
なにより本来ならパリ外れの国際会議場で、スター選手や開催自治体関係者を招いて華やかに繰り広げられるはずの「ショー」は、TVスタジオの中だけでこじんまりと行われた。世界的には事前録画のプレゼンテーションが配信されたが、フランス国内では大会委員長クリスティアン・プリュドムがスポーツ番組「スタッド2」に生出演。かつてスポーツアナウンサー時代に自らが司会者を務めていた番組で、質疑応答を交えてコースの見どころを解説した。
そもそも新型コロナウイルスの影響で、2021年ツールは、開幕日や開催地そのものが変更を余儀なくされている。
ご存知の通り東京五輪の1年延期にともない、新たなロードレース開催日(2021年7月24日)に合わせて、ツールも開幕を1週間早める必要が生じた。一方で本来2021年7月にツールのプロトンが集結する予定だったコペンハーゲンは、やはりサッカー欧州選手権の延期で、6月に4試合を迎え入れねばならない。
デンマークの首都でのツール開幕は、やむなく2022年夏に変更された。代わりに2022年の予定地だったブルターニュが……フランス最大の自転車熱狂の地が、1年早く真夏のお祭りを迎え入れることを快諾した。ブレストにとっては、パリを除く大会最多4度目のグランデパールとなる。
ところでコペンハーゲン開幕の延期が正式発表される前に、すでに2021年大会のコースは完成していた。開催委員会は大急ぎで序盤数ステージの変更を行わねばならなかった。正確に言うと今回発表された第1ステージから第7ステージのフィニッシュ手前約50kmまでが、わずか3カ月で緊急に描き上げられたコースとのこと。
クラシカルなコースとは?
ロマン・バルデ
そのせいか全長3383mの旅は、プリュドム曰く「クラシカル」なコースが出来上がった。平地8区間、中級山岳5区間、難関山岳6区間。さらには個人タイムトライアルが2区間。
特に序盤1週間はほぼ平地のみを突っ走る。たしかに少し、20世紀のツールを彷彿とさせる。「なにしろブルターニュからアルプスまで、とにかく大急ぎで移動しなきゃならなかったからね」と委員長は言い訳する。
つまり2020年大会のように2日目にいきなり1級山岳が登場するわけでも、4日目に本格派山頂フィニッシュが組み込まれるわけでもない。ルーベの石畳がクライマーを震え上がらせることもない。
ただし退屈な時が流れるわけでもなさそうだ。序盤2日間は急坂フィニッシュでパンチャー大戦を楽しみ、第3、4ステージはスプリンターたちの真っ向勝負。第5ステージには個人タイムトライアルが待ち受け、また6日目には「風」に、7日目には「長距離」と終盤の激坂(シニアル・デュション最大勾配18%)に翻弄される。
この個人TTと長距離ステージの存在もまた、2021年大会のクラシカルな面を強調する。全長27kmの独走種目は、大会「1週目」としては、2008年大会以来最長だ(第4区間29.5km)。またパリ到着前日には、2度目の個人TT31kmも待ち受ける。個人TTが1大会に2回組み込まれたのは4年ぶりで、総距離は58km。ただ20世紀の終わりは個人TTトータル100km超が「普通」で、2012年大会でさえ計101.4kmも走ったこと比べたら、まだまだ短いほうだ。
また第7ステージの全長248kmは、ずばり21世紀ツール最長。それにしても2021年は21日間で200km超ステージがわずか3日に対して、20世紀最後の2000年大会には、8日も組み込まれていた。最終日前日は254.5kmだった!
ちなみに「スタッド2」にオンライン出演したロマン・バルデは、2021年大会のコース全体についてやはり「子供の頃に見ていたツールを思い出させる伝統的なコース」と評した。ただどうやら気になるのは個人TTの長さより、むしろ「風」。これはティボー・ピノやギヨーム・マルタンも同意見。そう、地形図を見ただけでは決して分からない危険が、2021年コースには潜んでいる。
プリュドム委員長の解説によると、第6ステージは終盤75kmが強風地域。10日目は残り20kmが、第12ステージはラスト30kmが、分断警戒ゾーンである。
山頂フィニッシュ3、下りフィニッシュ3
1週目の終わりの週末、土曜日の第8ステージから、プロトンはいよいよ本格的な山の争いに突入する。
難関山岳は全6区間。ディフェンディングチャンピオンのタデイ・ポガチャルを「できればもっと多いと良かったのになぁ」と、ちょっとがっかりさせたのが、山頂フィニッシュがたった3回しかないこと。うちわけはアルプス1回、ピレネー2回(第9、17、18ステージ)。
当然ながら残り半分は、ダウンヒルフィニッシュとなる(第8、11、15ステージ)。プリュドム委員長は「だって総合勢はどうせ山頂手前800mまで動かないじゃないか。だから山頂より先に距離を付け加えたのさ」と少々辛辣だ。むしろ3区間ともに下りきった先に「平地」がほとんどないため、山頂フィニッシュより、スリリングな戦いが巻き起こる可能性は高い。
2020年のマイヨ・ジョーヌ タデイ・ポガチャル
真っ先に入るアルプスは、まずは8日目の下りフィニッシュから。ラスト50kmに3つの峠が連続で登場し、うち20kmが勾配8.5%超の上り坂。興味深いことに、最終盤35kmは、2018年第10区間でアラフィリップが区間初勝利を飾った時とまったく同じコースに仕上がった。
続く第9ステージで今大会初の山頂フィニッシュを争う。145kmという短距離に5つの山が詰め込まれ、行きつく先は標高2113mのティーニュ。2019年に雹が降り、レースが中断され、アラフィリップが黄色を失った……あの日たどり着けなかったフィニッシュ地へ、改めてプロトンは向かう。
2週目には4年ぶりにモン・ヴァントゥへと対峙する。しかも「プロヴァンスの巨人」に、大会史上初めて2回よじ登る!
1回目と2回目では異なる山道を通って1910mの山頂を目指す。ただ2回目を上りきっても、残念ながら、禿山のてっぺんで戦いは終わらない。実は2021年秋まで、山頂は環境保全のための工事中。おかげで1994年大会以来となる、モン・ヴァントゥからの22kmのダウンヒルフィニッシュが実現する。
アルプスが少々軽めの代わりに、ピレネーはたっぷりと。第14ステージから実に5日間も、山巡りを行う。難関ステージはうち3つ。まずは第15ステージでピレネーの小国アンドラ、すなわちアラフィリップが暮らす国へと突入する。大会の「屋根」標高2408mのエンヴァリラ峠へとよじ上るが、締めくくりは大会3度目のダウンヒルフィニッシュ。
残す2回の山頂フィニッシュは、大会3週目に、2日連続で襲いかかる。7月14日「革命記念日」の第17ステージは、ラスト60kmに難峠が3つ詰め込まれた。勝負を決めるのは2018年大会で初めて使用されたポルテ峠。全長16km、平均勾配8.7%の険しい山道だ。
そして総合勢にとって大会最後の「直接対決」の機会となる第18ステージ。伝統のトゥールマレーを上り、最後はリュズ・アルディデン(13.3km、7.4%)へとたどり着く。
2019年大会のトゥールマレーでティボー・ピノが勝ち、アラフィリップが区間2位で黄色を見事に守ったことは、記憶に新しい。しかし「スタッド2」でのプリュドム委員長は、フランスファンたちの古く美しい記憶を呼び起こす。それは、2011年、リュズ・アルディデン山頂で、トマ・ヴォクレールが「自己の限界を越えて」マイヨ・ジョーヌを守り切ったこと!
口には出さなかったが、委員長の言いたいことは伝わってくる。想像して欲しい、アラフィリップがピレネーの終わりまで、マイヨ・ジョーヌを守り抜くことを……。そのためのコースは出来た。シナリオを書くのはもちろん、主役である選手たちだ。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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