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サイクル ロードレース コラム 2020年11月7日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 レースレポート:第16ステージ】マグナス・コルトニールセンが4年ぶり3度目のブエルタ区間勝利!「復活勝利を飾れたのは、大きな意味を持つ」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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フィニッシュシーン

混戦を極めたフィニッシュシーン

30人ほどに小さくなった集団で、最も速かったのはマグナス・コルトニールセンだった。ほとんどのスプリンターが脱落していった中で、4年前には最終日マドリードの大集団スプリントを制した俊足が、自慢のスピードを披露した。またマイヨ・ロホであり、グリーンジャージでもあるプリモシュ・ログリッチは、スプリント2位でまんまとボーナスタイム6秒を手に入れた。

「今朝は勝てるなんて夢にさえ見ていなかったよ。スタートしてからもしばらくは考えてなかったし、勝てるという自信もなかった。でもこうして勝利を手にできたなんて、素敵だね」(コルトニールセン)

クライマーでもピュアスプリンターでもない選手にとっては、間違いなく2020シーズン最後のチャンスだった。しかも地形的にはどんな展開に転んでもおかしくなさそうな、なんとも悩ましいコースだった。

逃げ切りにかける男たちは、スタート直後から激しくアタック合戦を繰り返した。特にブルゴスBHが積極的に動いた。昨大会で1勝を上げたアンヘル・マドラソがまっさきに飛び出し、すぐさま同僚のフアン・オソリオが合流した。しばらく先でレミ・カヴァニャとロバート・スタナード、コービー・ホーセンスが追走を始めると、ブルゴス3人目の男ヘスス・エスケラも仲間に加わった。

30kmほど走った先で、ついに6人はひとつの塊を作り上げた。ブルゴスが3人も滑り込んだ逃げ集団は、メインプロトンから最大5分半のリードを奪った。

後方ではまずはボーラ・ハンスグローエが牽引に打ち込んだ。総合7位フェリックス・グロスチャートナーによると、どうやら「横風分断」を仕掛けるタイミングを待っていた。しかし決して集団を破壊するほどの風は吹かなかった。タイム差コントロールには、UAEチームエミレーツやカハルラル・セグロスRGAも協力した。

ステージ上に2つ待ち構えた山岳の、1つ目の2級峠の山頂間際に差し掛かると、今度はイネオス・グレナディアーズが主導権を奪い取る番だった。「トリッキーな下りだと分かっていたから」とのディラン・ファンバーレの証言通り、15kmにも渡る下り坂はヘアピンカーブの連続。舗装状態も悪かった。つまりイネオスの加速の第一目的は、総合2位リチャル「リッチー」カラパスを安全に運ぶためだった。

もちろんライバルたちが千切れてくれたら儲けものだし、なにより「今日のためだけではなく、明日に向けて他選手の動向を最終チェック」するためでもあったらしい。下りを猛スピードで飛ばし、集団をひと回り小さくしたイネオスは、続いて突入した1級峠でも猛烈なテンポを刻んだ。

ただし上りで千切れたのは、総合ライバルたちではない。むしろピュアスプリンターたちだ。たとえば2級峠はなんとか耐え忍んだサム・ベネットは、山の入り口であえなく脱落していく。

残り40km。1級山岳の中腹では、相変わらずイネオスが引いていた。静かに2列目で過ごしていたユンボ・ヴィスマやEFが多くの人員を残していた一方で、もはやカラパスのアシストは2人にまで減っていた。逃げ集団とのタイム差も40秒にまで縮んだ。ブルゴスの3人のうち、2人はすでに脱落済みで、残す4人も吸収寸前だった。

ところがカヴァニャは諦めが悪かった。風の強い山道で、ペダルを力強く踏み込むと、精一杯の抵抗を始めた。2km先でスタナードも追いついてきた。今大会5度も逃げたフランス個人タイムトライアルチャンピオンと、生まれて初めてのグランツールでなんと4度目の逃げという22歳は、夢中で山を上ると、わずか30秒の虎の子を守りつつダウンヒルへと繰り出した。

「ステージ前からモチベーションが高かった。だって個人タイムトライアル(第13ステージ8位)にがっかりしていたし、今日は僕にとってはなにかにトライする最後のチャンスだったから」(カヴァニャ)

下りでは、モビスターが一丸となってスピードを上げた。最初は分断の可能性を探るためであり、最後はスプリントを仕掛けるために。

強い追い風の中で猛烈な追いかけっこが続けられた。若きスタナードは残り18kmで力尽きたが、「クレルモンフェランのTGV」は毅然と前へ突進を続けた。1年前も、マドリード2日前に、独走で逃げ切り勝利をつかんだ。この日もぎりぎり最後まで可能性を追い求めた。

残り10kmで13秒差。モビスターは追走の手を緩めない。残り7kmで20秒差。カヴァニャが押し戻した。しかし前からスタナードの消えたミッチェルトン・スコットが、大量6人で牽引に協力を始めた。ここで綱引きの均衡は、一気にメイン集団優勢に傾く。5km14秒、3km7秒。

そしてフィニッシュまで残り2kmを示すアーチの手前で、カヴァニャの渾身の逃げは終わりを告げた。

「あとほんのわずかだった。でも逃げに乗って、前を走れて楽しかった。すごくいい時間を過ごした。今大会すべてを尽くしたけれど、僕は勝てなかった。幸いにも僕らチームにはサム(ベネット)がいる。日曜日はきっと最高の時を味わえるさ!」(カヴァニャ)

フランス人の好走に翻弄されたモビスターに、さらなる苦労が襲いかかる。残り1.5kmでブルーノ・アーミライが早駆けを試みたのだ。改めて追走に駆り立てられた。500mでなんとか第2のフランス人を回収したものの、ここで早くも最終発射台役は力尽きてしまう..。

その間、ライバルたちは、スペインチームの背後でたっぷりと場所取りを繰り広げた。アレハンドロ・バルベルデの後輪をUAEとユンボが奪い合い、さらにその後ろではコルトニールセンが、その時を虎視眈々と待っていた。

残り500mで最前列に置き去りにされたバルベルデは、もはや早めに加速するしか選択肢はなかった。道路左端を突き進む40歳の背後へ、まるで吸い込まれるようにUAEのルイ・コスタとユンボのログリッチが入り込んだ。道路右端からは別の数人が加速を始めていた。途端に道路のど真ん中に、ぽっかりと空間が出来た。

「それほど前からは遠くない位置につけていたけど、オープンスペースを探していたんだ。そしたら残り200mで前が開いた。あとは持てる力をすべて費やした」(コルトニールセン)

隙間から飛び出したコルトニールセンは、そのままフィニッシュラインへと駆け上がった。自身にとって4年ぶり3度目のブエルタ区間勝利、2018年ツールを含む通算4つ目のグランツール区間勝利を、鮮やかにさらい取った。

マグナス・コルトニールセン

勝利を喜ぶマグナス・コルトニールセン

「今年は誰にとっても奇妙な年だったはずなんだ。でも僕にとっては、こうして復活勝利を飾れたのは、大きな意味を持つ。だってシーズン再開後は好調に走り出せたのに、コロナウイルス陽性と診断され、活動を中断せざるを得なかった。今大会3週間前にようやく練習を再開したばかり。だから勝てて本当に嬉しいんだ」(コルトニールセン)

EFエデュケーションファーストにとっては今大会3勝目。いまだ2020年グランツールで1勝もできないワールドチームが3つある中で、EFはツール1+ジロ2+ブエルタ3=通算6勝を手に入れた。しかもその1つ1つが異なる6人による快挙だった。

一方でユンボ・ヴィスマの2020年グランツール区間7勝のうち、5勝をたったひとりで稼ぎ出したプリモシュ・ログリッチは、この日はハンドルを投げ2位に飛び込んだ。イネオスやモビスターといったライバルチームがたっぷり働いてくれた1日の終わりに、ボーナスタイム6秒さえもまんまと回収した。翌日に決戦ステージを控えて、総合2位以下との差を45秒へと開くことに成功した。

「僕はあらゆる能力を揃えた選手になりたいと思っているんだ。それにスプリントの速い選手が何人も脱落していたから、だったら僕が行ってもいいんじゃないか、って思ってね。グリーンジャージ首位として、スプリントだって出来るのさ。当然だろう?」(ログリッチ)

赤ジャージの行方はいまだ定まってはいないが、緑ジャージはこのスプリントで見事に確保した。残す2ステージで収集できる最大ポイントは58pt。ポイント賞2位カラパスとの差は73pt!ちなみに2年前まで存在した複合賞がいまだ存在していれば..カラパスと同点7pt。もちろん総合順位の差で、ログリッチが白ジャージさえも独占していたはずだったのに!

ところで、真横から上がってきたコルトニールセンに倣って右手に飛び出したログリッチが、もしもルイ・コスタの急な軌道変更に邪魔されブレーキをかける必要がなかったのとしたら..さらに上の結果が望めていたのだろうか。

3位でフィニッシュラインを越えたコスタは、「イレギュラーなスプリント」を行ったとして、同フィニッシュ集団内の最下位=32位に降格処分を受けている。代わりにディオン・スミスが3位に格上げされ、バルベルデは4位で1日を終えた。5位にはカラパスが滑り込んだ。チームメートを大いに働かせた挙げ句、総合の遅れは39秒から45秒へと開いてしまった。

この日の朝、最終第18ステージのコース変更が告知された。それによると通過ルートには微妙に手が加えられたが、スタート地もフィニッシュの周回コースにも一切の変更はなかった。つまり2日後の日曜日、プロトンは間違いなくマドリードへと帰り着く。2020年ブエルタ・ア・エスパーニャは、新型コロナウイルスの脅威に負けず、無事に完走を果たすのだ。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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