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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 レースレポート:第14ステージ】実力者同士の真っ向勝負!今大会2勝目を掴んだティム・ウェレンス「今日はすべてが完璧だった」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか先頭でフィニッシュするティム・ウェレンス
実力者揃いの逃げ集団が、真っ向勝負を繰り広げた。上りでも下りでも力強く対応し、タイミングもポジションも見誤らなかったティム・ウェレンスが、素早く区間勝利をさらい取った。5日目に続く今大会区間2勝目であり、記念すべきキャリア通算30勝目でもあった。
「簡単な勝ちではなかった。まずは逃げに乗るために戦わなきゃならなかったし、そこからも1日中、猛スピードで走り続けた。上りスプリントでは、僕は上手く立ち回り、1番になった」(ウェレンス)
最終日マドリードを除くと、2020年ブエルタ・ア・エスパーニャの総合争いも残すは4日。「まだ難しいステージが残っている。警戒し続けなければならない」と前夜マイヨ・ロホを取り戻したプリモシュ・ログリッチは気を引き締め、39秒差の総合2位に後退したリチャル・カラパスもまた「順位を上げるためにトライする」と野心を隠さない。
もちろん区間勝利を狙う選手にとっても、最終日を待ちわびるスプリンターを除けば、チャンスは残り4回。しかも「今日の地形は僕が勝ったステージと似てる!」と5日目に逃げ切り勝利を決めたウェレンスが語っていたように..「後半に中程度の山が複数+短い上りフィニッシュ」という今区間は、間違いなく大逃げ野郎たちの胸をときめかせた。
凄まじいドンパチでステージは幕を明けた。あらゆるチームが入り乱れ、アタック合戦を繰り返す。ユンボ・ヴィスマさえも、積極的に前に選手を送り込んだ。スタートから約30kmで26人の一団が飛び出していった時などは..黄色いジャージが4人も紛れたほど!
ただし総合6位ワウト・プールスや7位フェリックス・グロスチャートナーを含む、総合上20人中7人が滑り込んだ巨大な集団は、さすがに10kmほど先で後方へと引きずり降ろされた。
時速49km超の激しい攻防は1時間ほど続いた果てに、とうとう小さな塊が前方へと抜け出した。マイケル・ウッズ、マルク・ソレル、ディラン・ファンバーレ、ゼネク・スティバル、そしてご存知ウェレンスが、どんどんメイン集団から遠ざかっていく。さらに慌てて飛び乗ろうとして失敗したギヨーム・マルタンの代わりに、頼もしい補佐役ピエールリュック・ペリションが、やはり26人集団に4人を送り込んでいたサンウェブ代表として、テイメン・アレンスマンが、ぎりぎりで逃げに滑り込んだ。合計7人に膨らんだ先頭集団は、後方から最大5分半のタイム差を奪い取った。
マイヨ・ロホのログリッチ
「僕らにとってはありがたい逃げだった。すごく強い選手ばかりで、逃げ切りはほぼ確実な上に、総合争いを脅かす危険もない」(ログリッチ)
あっさりと勝機を諦められない者たちもいた。すぐにアスタナが集団コントロールに乗り出した。ステージ折り返し地点に差し掛かると、ボーラ・ハンスグローエも協力を申し出た。最終的にはアスタナ7人、ボーラ2人が猛烈な牽引を行った。ところが、2チームの狙っていたようには、なかなか距離が縮まらない。
なにしろ前にはとてつもない強豪揃いである。しかもウェレンス、ソレル、ウッズの3人は今大会すでに1勝ずつ上げ、つまりは只今絶好調。また後半に3つ登場した山岳の、1つ目こそ、同僚マルタンの山岳賞保守のためにペリションが必死で飛び出しをかけたが、この時を除けば7人の協力体制は極めて良好だった。残り79km地点、中間ポイント通過の際でさえ、総合18位のソレルがボーナスタイムを取りに行かなかったほど。
「かつて自分が加わった逃げの中でも、屈指の良い逃げだった。あれほどハイレベルな動きの中で走り続けたことなんてめったにない。たしかに勝ちたいとは思ったけど、雰囲気は良かった。ステージの後には、みな互いに拳を突き合わせて健闘を称え合った」(ウッズ)
残り60km、2つ目の山頂の手前だった。いまだタイム差は4分半も残っていた。突如としてアスタナとボーラが、85kmにも渡って続けてきた仕事を放棄してしまう。
幸か不幸か、プロトンがホッとする暇は、ほんの一瞬だけ。トイレや補給タイム..と気が緩んだ集団の前方に、トタル・ディレクトエネルジー5人が集結すると、新たに追走へと乗り出したのだ。またしても全員がハイスピードの綱引きへと引きずり戻された。あれほど縮まらなかったタイム差は、今度は残り25kmで1分40秒にまで小さくなった。
ちょうど同じ頃、逃げ集団はさらに一段ギアを上げた。第7ステージ覇者ウッズが切ったとてつもない加速がきっかけだった。逃げに乗るために力を使い、山岳ポイント収集にも力を使ったペリションだけが、ここでたまらず千切れていってしまうのだが、他の5人は激しい駆け引きにびくともしなかった。
実はウッズとしては「1、2人しか付いてこれないだろう」と考えていたらしいが、読みは完全に外れた。2日目に区間を制したソレルはびくともせず、第5ステージを勝ち取ったウェレンスも力強く追いついてくる。ファンバーレにスティバル、アレンスメンはたとえ一瞬遅れようが、必ずマイペースで追いついてきた。
「集団内で一番強いのはファンバーレだと考えていた。でも加速が始まった時に、彼がちょっと苦しんでいるように見えたんだ。ソレルはすごく脚の調子が良さそうだったし、スプリントになったらウッズが怖いと考えていた」(ウェレンス)
そして前方の加速合戦が、トタル隊列の気持ちを完全に挫いた。あれほど必死に縮めたタイム差は、再びじりじりと広がっていき..しかも牽引に協力しようというチームさえ現れない。残り19km。タイム差2分。ついにトタルもさじを投げた。
おかげで逃げ切りを確信した6人は、さらに駆け引きに熱を込める。最終峠からのテクニカルな下り坂では、残り14km、シュティバルが「プレッシャーをかけるため」スピードを上げた。ソレルはやはり後輪にぴたりと入り込み、少し遅れてウェレンスも合流した。途端に3対3の構図が出来上がる。残り4kmで、両集団の差は16秒。
ところが残り3km、前方の3人は、少し互いを意識し始めてしまったようだ。一方の後方はウッズ曰く「全員全速力」で一致団結し、脇目も振らずに追いかけた。残り1.8km、フィニッシュへ向けて道が上り始めると、またしても前は6人になった。
ラスト1kmは細かくうねる、勾配6%の上り坂。誰もが位置取りに神経を尖らせた。真っ先にウッズが先頭についた。「カーブがあることは分かっていた。残り200mでは最前列にいたいと考えた」からだ。先頭でスピードをじわじわと上げ、アレンスメンを真っ先に蹴落とした。ソレルとファンバーレはウッズの後輪を争い、スティバルは2列目に潜んでいた。
しかし実際はフィニッシュ手前250mから始まるUカーブに向けて、残り300m、ウェレンスが大外から最前列を奪った。やはり「最後のカーブでは一番前にいなきゃならない」ことは分かってたからだ。そこから先もウェレンスは極めて巧みに立ち回る。追抜きにかかるソレルの進路を上手く狭めつつ、カーブ内側に切り込み、ウッズの出口も塞いだ。
「あれほどカーブが急だとは予想もしてなかった。ウェレンスに内側から追い越された時も、まだとらえられるだろうと考えていた」(ウッズ)
残り100m、ウッズはようやくウェレンスの後輪に追いつき、ライン手前50mでついには並んだ。道は相変わらず左へと緩やかなカーブを描いていた。イン側ではウェレンスがすでにスプリントをかけていた。
勝利を喜ぶウェレンス
「ウッズが上がってくるのを感じたけれど、フィニッシュラインはすぐそこで、僕が真っ先にラインを越えた」(ウェレンス)
奇妙な幕引き。内側から最短距離を攻めたウェレンスがそのまま一等賞をさらいとり、ウッズは自慢の爆発力を本気で発揮するタイミングのないまま、2位に甘んじた。チームにグランツール100勝目を献上しようと奮闘したスティバルは、3位という悔しい結果になった。
「僕らチームは1勝を目標に今大会に乗り込んできた。1勝目を手にした後は、2勝目を取るために、改めて自分たちにプレッシャーをかけた。今日は僕向きのステージだと分かっていたんだ。でもステージに狙いを付けることと、勝つために正しいポジションで立ち振る舞うというのは、また別のこと。今日はすべてが完璧だった」(ウェレンス)
もはや追う者のいなくなったメイン集団も、最後の上り坂だけは、誰もが緊張感を持って駆け上がった。幸いにも総合トップ10圏内は全員揃って3分44秒差で1日を終え、マイヨ・ロホを含む4賞ジャージの変動もなかった。ただ逃げたソレルが総合順位を18位から15位へと戻し、もちろんモビスターのチーム総合首位保守にも大いに貢献した。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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